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FM波によるAMラジオ補完計画――今年スタートする「FM補完放送」とは?

» 2015年01月23日 22時16分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 FM局に比べてAMは受信状態が良くないと感じている人は多いだろう。今年スタートする「FM補完放送」が、その不満を解消してくれるかもしれない。


 FM補完放送は、AM(中波)におけるラジオ放送の難聴対策や災害対策を目的として、超短波(FM)を使ってAMラジオ局の番組を放送することだ。総務省が公表している「年度別ラジオ受信相談件数」によると、平成15年から平成23年にかけてラジオの受信相談は大きく増加しており、とくにAMラジオに関する相談は倍以上になったという。中波は電気機器が発生する電気ノイズの影響を受けやすく、また鉄筋コンクリート造りの建物が多い都市部では電界強度が低くなる“都市型難聴”も大きな問題になっている。実際、1979年と2005年で大阪市内のAM放送電界強度(電波の強さ)を比較したところ、都市部を通らないケースに比べて大幅に減衰していたという。

(出典:総務省)

 また一方で、AMラジオの送信所は海や河川の近くに設置されているケースがいくつもあり、洪水や津波といった災害が発生した場合に被害を受ける可能性も指摘されている。災害発生時には貴重な情報源になるラジオだが、万が一、送信所が被害を受けてはその役目を果たすことができない。

 こうした背景により、2014年春に総務省はFM方式によるAMラジオ放送の補完中継局設置に関する条件を大幅に緩和。それまでの「外国波混信対策」を目的とする中継局開設に加え、都市型および地理的要因による難聴対策、災害対策としてAM局がFM補完中継局を設置できるように電波法施行規則や免許申請の審査基準などを改正した。

V-Low帯域等に関する周波数割当ての基本的方針(出典:総務省)

TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送は送信所を「東京スカイツリー」に設置する

 FM補完中継局が使用する周波数帯はV-Low帯の一部(90.1M〜95MHz帯)。2011年に放送が終了した地上アナログテレビジョン放送の“跡地”を活用し、AMラジオ放送の難聴対策と防災対策を同時に進める方針だ。

 FM補完中継局の設置は2014年の後半に開始された。最初に予備免許を取得したのは鹿児島の南日本放送による「MBC鹿児島FM」。この場合は、霧島市にある鹿児島ラジオ送信所(親局)が災害発生時に被害を受け、放送継続が困難となる事態を避けるためだ。

 また9月には関東の広域AMラジオ3社(TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送)がFM補完中継局の予備免許を取得して話題になった。3社は送信所を「東京スカイツリー」に設置し、アンテナを共同使用する方針だ。送信出力は7キロワットで、東京23区および多摩地域の一部のほか、埼玉県、千葉県、神奈川県、茨城県、群馬県の一部までをカバー。なお、放送はAM放送と同じ(サイマル放送)。放送開始は「春以降」とされているが、夏以降にずれこむ可能性もある。

AMラジオ局のWebサイトではFM補完放送の周波数をはじめ、FAQや対応機器一覧などを公開している

受信できるFMラジオは意外と多い

 FM補完放送を受信するには、90.1MHz以上の周波数帯に対応したチューナーが必要だ。古いラジオでは対応していない機種も多いが、近年は「ワールドチューナー」「ワイドFM」といった名称で該当バンドをカバーしたラジオが販売されている。またアナログ地上波の跡地を利用しているため、2011年以前の“アナログ地上波テレビ音声の聴取が可能なFMラジオ”でもFM補完放送を聞くことが可能だ。

 もちろん2014年春以降に発売された製品の多くはFM補完放送をサポートしており、メーカー側も「2014年度以降に発売されるパーソナルオーディオのうち、FMチューナー搭載機はすべてFM補完放送に対応する」(ソニー)などと期待を寄せる。

対応機器が続々登場(出典:ニッポン放送)

 AMラジオ局はFM波を使ってサービスエリアを拡大し、一般ユーザーは好きなラジオ番組の安定受信や音質の向上が期待できる。また、例えばソニー「ウォークマン」シリーズのようにFMチューナーしか搭載していない機器でも90.1M〜95MHz帯をカバーしていれば、地域によってはAMラジオ局の番組も聴取できるようになる。さまざまなメリットのあるFM補完放送は、AMラジオの価値をさらに高めてくれるはずだ。

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