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この夏、注目のハイレゾ対応オーディオ機器はコレ!――LINN「MAJIK DSM/2」とNuPrime「IDA-8」山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(1/2 ページ)

» 2015年08月25日 18時59分 公開
[山本浩司ITmedia]

 今月の連載は、この夏出会ったハイレゾファイル対応オーディオ機器の中から、読者のみなさんにぜひご注目いただきたい製品を2モデルとりあげたいと思う。

 パッケージメディアから配信ダウンロード、そして定額制ストリーミング・サービスへ。音楽流通の形態はいま劇的に変わりつつある。世界中で7500万人という巨大ユーザーを持つ「Spotifi」こそ動向がはっきりしないが、 5月27日に「AWA」、 6月11日に「LINE MUSIC」、そして6月30日(日本時間7月1日)に「APPLE MUSIC」という順番で、わが国でも定額制音楽ストリーミング・サービスが一気に立ち上がった。しかし、ぼくのようなオーディオマニアにとっては(携帯プレーヤーでの再生ならまだしも)リスニングルームの大型スピーカーで聴くには、PCオーディオに対応したAPPLE MUSIC の(圧縮比率の高い)ロッシー音声では物足りないというのが正直な感想だ。

 一方、海の向こうでは、CDクオリティー(44.1kHz/16bit、FLAC)の定額制ロスレス・ストリーミング・サービスがすでに始まっている。ノルウェーの「TIDAL」(タイダル)とフランスの「Qubuz」(クーバズ)である。残念ながら、わが国ではこの2つのサービスは正式スタートしていない。しかし、「音楽配信後進国」とも「音楽流通のガラパゴス」ともいわれるわが国にも、いずれこの“黒船”がやってくるのは間違いないだろう。

 さて、この2つのサービスにどこよりも早く対応したのが、スコットランドの高級オーディオメーカー、LINN(リン)のネットワークオーディオプレイヤー「DSシリーズ」である。2007年に「KLIMAX DS」を発表し、高音質デジタルファイル再生の先鞭をつけたリンのDSは、この春第3世代機へと生まれ変わった。ここにご紹介する「MAJIK DSM/2」は、そのエントリーラインであるMAJIKシリーズのプリメインアンプ一体型だ。

「MAJIK DSM/2」。価格は50万円(税別)

 オーディオ回路基板の刷新によって高音質化を図るというのが、第3世代機共通の内容。変更点は2つあり、1つが新しいクロック・システムの導入によるジッターレベルの低減だ。クロック発振器とDAC素子(ウォルフソン製の24bitタイプ)間に介在していたすべてのロジック回路用ICを排除することで、ジッターを半減させたという。もう1つが、電源回路とDAC基板レイアウトの変更。この手法により、アナログ音声出力のいっそうの純度向上が図られている。またMAJIK DSM/2のボリュームは、従来のアナログタイプから上位機同様のデジタルタイプに改められたという。

 旧モデルのMAJIK DSMと一対比較でその音質を検証してみたが、その差は筆者の予想を上回るものだった。音量をそろえて聴いても、そのパワー感、音楽のダイナミズムの表現は新製品の「MAJIK DSM/2」が明らかに上回る。ノイズフロアーも格段に下がり、ハイレゾファイルのライブ音源では、ステージ上の暗騒音が旧モデルよりもリアルに浮かび上がり、演奏現場のリアリティが俄然(がぜん)増すことが分かった。こんな小さなネットワークプレイヤー+プリメインアンプが、わが家の大型スピーカー、JBL 「K2S9900」をこんなに力強く鳴らすとは……、ちょっと信じられない思いがした。

「スペース・オプティマイゼーション」

 さて、DS/2シリーズの発表とともに、この春、リンからもう1つ興味深い提案があった。それがDS全モデルにリン独自の「スペース・オプティマイゼーション」機能が導入されたことだ。この機能は、部屋固有の定在波の影響によって生じる低域(80Hz以下)のピーク成分を抑えるというもの。具体的には、PC上のリンの基本操作ソフト「LINN Config」に部屋のプロポーション(縦・横・高さの実測値)、スピーカーと壁の距離やリスニングポイントとスピーカーの距離を入力すればよい。後はデータに基づいて計算し、DS内部で適切な周波数バランスに整えてくれるわけだ。とうぜんDSのなかには高精度なデジタルフィルターが採用されており、急峻(きゅうしゅん)なフィルターカーブを形成しても、位相が反転したり、ひずみが増えるなんてことはない。ちなみに最新のスペース・オプティマイゼーションには新たなパラメーターとして「壁、天井、床の構造」などが加わっている。

 このスペース・オプティマイゼーションを正確にはたらかせるためには、使用するスピーカーのモデルネームを入力する必要がある(その対応機種は現在200モデルを超えており、その数はどんどん増えている。詳細はリンジャパンのWebサイトで)。対応スピーカーの何を調べてデータ化しているかというと、インピーダンス特性、ユニットのプレイスメント、バスレフポートの位置などだそうだ。

 また、6dB以下のピークは補正せず、アンプに過大な負荷がかかるディップにも手を加えないというのがスペース・オプティマイゼーションの基本思想のようで、これはとてもスマートな考え方だと思う。実際にいくつかのスピーカーでその効果を試してみたが、とくに狭い部屋で低音の不自然な盛り上がりに悩んでいる方には劇的に改善される可能性があると思った。低音がすっきりすることで音楽のディティールが鮮明になり、音楽を聴くのがますます楽しくなるのである。もちろんPC画面上で補正量の微調整も可能だ。

 いずれにしても、スペース・オプティマイゼーションの可能性は計り知れずで、ハイファイ・オーディオの歴史とは良質な低音を得るための戦いの歴史だったと考えれば、これこそ21世紀オーディオが到達したデジタル最大の「飛び道具」ではないかと思う。

 ところで、先述したCDクオリティーの定額制ストリーミング・サービスだが、KLIMAX DS/2を自室で愛用している筆者は、TIDALのアカウントを米国で取得し、このサービスを楽しめるようにした。 MAJIK DSM/2で聴くそのサウンドもじつにすばらしいものだった。

 iPad miniにDS純正操作アプリの「Kazoo」をインストールすると、最初の画面にTIDALとQubuzの文字が現れる。TIDALをタップし、検索システムに従って好きなミュージシャンの名前を入力すると、関連アルバムのジャケットがiPad mini上に美しい画像でずらりと現れる。その中から聴きたいアルバムを選び、「Play Now」をクリックすれば1曲目からスムーズにハイクオリティーなサウンドが楽しめるわけである。わが国での正式なサービスインはまだなので、国際的に活躍しているアーティストを除けばJ-POPなどの日本の音楽を聴くことはできないが、「洋楽育ち」で、なおかつさまざまなジャンルの音楽にアクセスしたいというぼくのような欲張りな音楽ファンにはこたえられないサービスだ。


「Kazoo」のiPad用画面。ダウンロードは無料だ

 米国でアカウントを取得した場合の月額料金は約20ドル。その対価を払えばロック、ジャズ、クラシックなどあらゆるジャンルの音楽がCDクオリティーで3000万曲以上(日々増えている)聴き放題というわけである。その面白さは、正直ぼくの予想をはるかに超えていた。この先には英Meridian(メリディアン)が開発した時間分解能に着目したロスレス方式MQAを使ったハイレゾファイルの配信も予告されており、興味は尽きない。できるだけ早くわが国でもサービスを開始していただいて、多くの音楽ファンとその面白さを共有したいと思うのだが……。なにがいったい障壁になっているのだろう。

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