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曲面テレビはもう終わり?――IFAで見つけた“近未来”麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/6 ページ)

» 2015年10月05日 21時18分 公開
[天野透ITmedia]

前回は主にOLEDの話題を取り上げたが、IFAで見えてみたトレンドは多岐にわたる。今回は8KやHDR、曲面ディスプレイといったテーマを取り上げて、映像機器の動向を読み解いていこう。また、オーディオ分野ではハイレゾを中心とした新技術が“新しいスタイルの卵”となるようだ。国内外に幅広い人脈を持つ麻倉氏ならではの業界ウラ話も目が離せない。

8Kの展示が増えた!

麻倉氏:キヤノンが会期中に8Kシネカメラと8Kモニターを発表しました。今デジタルシネマは4Kで撮られているのですが、これを8Kに持っていこうという戦略ですね。残念ながらIFAでの大きな発表はありませんでしたが。

8Kではないが、中国のハイアールからは110インチ5Kテレビが出品されていた。中国メーカーは日に日に開発力を上げている

麻倉氏:8Kに関してはシャープが熱心に開発していますね。NHKと「Hybrid Log-gamma」(HLG)の共同開発を発表した時も、シャープは85型で8K HDRをやるという方向を打ち出しています。技術としては「AQUOS 4K NEXT」という擬似8K感を得られるパネルとアプコン技術を出したりもしています。

――次世代テレビ技術とシャープは非常に親密な関係ですよね。技研公開(NHK放送技術研究所の一般公開)といったシーンでは常連というイメージがあります

麻倉氏:残念ながら今回のIFAでは、シャープはブランド貸しの別資本で、「なんちゃってシャープ」でした。

――IFAでの8Kの動きとしてはどんなものが目に付きましたか?

麻倉氏:8Kに関しては中国のパネルメーカー、BOEの110インチと98インチの液晶パネルが、徐々に世界のセットメーカーに行き渡ってきたと感じましたね。サムスンは110インチ、トルコの巨人、ヴェステルのブースには98インチのものがありました。ただしエコシステムとしての8Kは、IFAではまだ言えていない感じです。業界の動向としては4K放送が始まっているので、次は8Kへという流れが見られます。

トルコのヴェステルと中国・スカイワースの98V型8Kテレビ。中国BOEの8Kパネルが世界的に行き渡ってきたため、以前よりも製品の裾野は広がっている

もう1つの気になる次世代技術「HDR」

――放送業界の動向というと、4Kと並んでHDR(ハイダイナミックレンジ)がキーワードになっていますが、こちらはどうですか?

麻倉氏: HDRは放送のフォーマットがいよいよ決まりそうですね。本番は放送機器展の「IBC」ですが、IFAのLGブースでもHybrid Log-gamma技術の紹介として、壁展示にEBU(ヨーロッパ放送連合)や衛星放送のアストラ(TVB-T2)、BBCのHDR映像が出ていました。明るいところの明るさや暗いところの暗さといったレンジ感が広いですね。

 最初に提案されたHDR技術はDolbyVision(ドルビービジョン)です。従来の明るさである100nitsから、一気に10000nitsまで上げてレンジを広げることで、ピークだけでなく色再現性の向上などを狙うものです。

――詳細な話は以前もしていますね

麻倉氏:HDRの次なる目標は4K対応のUltra HD Blu-rayですね。こちらもダイナミックレンジの拡大を狙います。ドルビーが提案したSMPTE(Society of Motion Picture & Television Engineers)の標準方式をそのまま使うわけですが、ドルビー方式の12bitに対して、こちらは10bitで「HDR10」と呼ばれています。この方式を使った配信はamazonで既に始まっています。ちなみに「NETFLIX」はドルビー方式です。しかしテレビの対応は今のところ米VISIOがドルビービジョンをサポートする程度で、それ以外のメーカーはHDR10をサポートする方針で固まっています。ただし、最近ソニー・ピクチャーズがドルビービジョンをサポートすると発表したので、テレビの事情も変わるかもしれません。

 これらの流れはいずれも映画作品がメインです。以前もお話しましたが、映画制作ではグレーディング過程でHDR調整をします。ただし、スタジオでモニターを使って細かな調整をするので当然時間がかかります。リアルタイムの放送ではスタジオでいちいち調整をする暇などないので、ガンマカーブで対処ということになります。それがBBCとNHKが共同開発した「Hybrid Log-gamma」技術です。低域は従来のガンマカーブで、高域はlogカーブ、この情報を合わせて従来の伝送系に入れ込み、再生側で逆伸長をかけるという仕組みです。

――イメージとしてはアナログレコードのRIAAカーブのようなものですね。あれは低域を抑えて高域を強調する特性で、フォノイコライザーで逆伸長をかけるというものでした

麻倉氏:HDRの実験が某所であり、私も行ってみてきました。実験に用いたソースはSDR(スタンダードダイナミックレンジ、従来のテレビ放送)が100nits、Hybrid Log-gammaが2000nits、HDR 10が4000nitsという輝度で、これくらいのピークを持った同じ映像作品をグレーディングするというものです。

 実験結果ですが、平板でのっぺりとしたSDRに対して、Hybrid Log-gammaは光の鮮鋭感などが非常にイキイキとしていました。現状ではHybrid Log-gammaくらいでも良い感じがしましたので、映画作品におけるHDR 10と放送におけるHybrid Log-gammaは競合せず、別メディアで共存するでしょう。

BBCが制作したHybrid Log-gammaのデモ映像。次世代放送における根幹技術の1つとなりそうだ

 また、SDRテレビにHybrid Log-gammaをかけるという実験もしていたのですが、黒が下がって暗部がより暗くなっていました。その結果全体的に彩度感が強くなり、よりこってりとした色が出てきました。そのままでは若干不自然なのですが、テレビ側で色を薄めてコントラストを上げて少し明るくしてやると、非常に良い感じになりましたね。

――ということは、非HDRテレビでも、やり方によっては従来の映像よりも良い画を得られる可能性があるということですね。

麻倉氏:NHKとBBCでは、HDRからSDRへの変換に違いがあります。ですが私が見たところ、わざわざSDRへ変換しなくとも良いのではないかという印象も受けました。今後の規格策定がどうなるかは分からないですが、現状で見た感じだとHDRは将来性を期待できます。

 このHDRが一番効くコンテンツはズバリ、サッカー中継です。特にサッカー専用スタジアムの場合は屋根の影がピッチの広いエリアにかかるため、デイゲームを今のSDRで撮ると屋根の影と日向とのDレンジをまとめるのが難しいです。ですがHDRならこの問題が一発で解決します。このようなシーンや光の強いライブ、劇場中継などの映像が非常に面白いですね。

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