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スピーカー設計の達人が作った平面駆動型ヘッドフォン―― MrSpeakers「ETHER」開発者インタビュー秋のヘッドフォン祭2015(1/3 ページ)

» 2015年10月24日 15時24分 公開
[山本敦ITmedia]

 MrSpeakersは、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴに拠点を構えるヘッドフォン専業ブランドだ。創設者のダン・クラーク氏は、1990年代後半からPlatinum Audio speakers社にてスピーカーシステムを専門に設計するエンジニアとして活躍していた経歴を持ち、以後アンプや商業施設向けの大型スピーカーなどハイエンドオーディオの設計に携わりながら20年を超えるキャリアを築いてきた。

MrSpeakersのダン・クラーク氏。「開放型・密閉型ともにユニークなサウンドキャラクターを持たせました」と語る

 「4歳から父の使っていた真空管アンプに興味を持ち、高校からアンプの設計や自作を始めるようになりました。高校卒業後はソフトウェアの設計開発にも進み、3DのグラフィックデザインやOpenGLのマーケティング、Appleのクイックタイムのマーケティングも担当しました。やがてアナログオーディオであるスピーカーの設計やコンサルティングの職に戻ってきました。Platinum Audio speakersでのキャリアの後はオーディオスピーカーやサブウーファーの開発にも携わっています。ちなみに経営学のMBAも取得しています」(クラーク氏)。ブランド名は、彼のスピーカービルダーとして、あるいはスピーカー設計のコンサルタントとしての経歴にちなんでいる。

 その後ヘッドフォン開発に転身した経緯について、クラーク氏はこう語っている。「スピーカーエンジニアとして勤めた後、しばらく私は妻とオフィスをシェアして働いていましたが、その際に音楽を聴くために使っていた開放型が音漏れすることを指摘され、『あなたが今後も、オフィスでこれを使い続ける限り離婚します』と言われて(笑)、そこから自分の音の好みにあう密閉型ヘッドフォンに興味を持ちました。やがて私はフォステクスの『T50RP』という平面駆動型のヘッドフォンに出会い、この音に近いヘッドフォンを作りたいという研究心に火が付きました。そして気が付いたら今の私にとってのビジネスになっていました」

 クラーク氏がヘッドフォンの開発を始めたのは今から約5年前のこと。「ETHER」シリーズは最初、密閉型から開発をスタートしたという。ところがドライバーの設計を進めるうちに、音作りで行き詰まってしまい、しばらく開発の手を止めて開放型を作り始めた。その後に理想的な開放型ヘッドフォンができたので、再度、密閉型の開発に立ち戻った。こうしてクラーク氏は約3年間の開発期間を経て、完全に新規設計した平面駆動型ヘッドフォンである開放型の「ETHER」と密閉型の「ETHER C」が登場した。

開放型の「ETHER」

密閉型の「ETHER C」

 製品名である「ETHER」の由来は、19世紀まで“第5の元素”としてその存在があるものとして信じられてきた「ETHER(エーテル)」から取られている。天空の中にある閑寂さをも表現できるヘッドフォンを作りたいという、クラーク氏の意気込みがそこに込められている。

 本機の音づくりは平面磁界駆動型のドライバーユニットが起点になっており、そこからさらにMrSpeakersが特許を取得するコアテクノロジーである「V-Planner」を加えることで独自性を引き立たせている。

 振動板については開放型と密閉型のヘッドフォンで同じ大きさのものが使われている。素材も同じPETを採用。クラーク氏は、「いくつかの素材を試しました。選択の過程は困難な道のりでした。なぜなら振動板をV-Plannerの形状に加工した際、素材によって音や耐久性に違いが生まれるからです。銅やアルミも検討しましたが、最終的に聴き比べてPETがベストでした」と語っている。なお振動板を挟みこんで磁界を作り出すためのマグネットには「市販で手に入れられるものの中でも、非常に強度の高いネオジウムマグネットを使っている」という。なお日本国内での販売価格はともに24万8400円(税別)。

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