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進化し続けるロボット掃除機、ダイソン「360Eye」のスゴイところ滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(1/3 ページ)

» 2015年11月23日 18時28分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 ダイソンが発売したロボット掃除機「ダイソン 360 Eye」(スリーシックスティアイ)。昨年9月の製品発表から1年あまりの期間を経て、ようやく発売されたことになるが、一体どこが変わったのか。また先行する競合製品に対する強みとは? 開発を担当した英Dysonのロボット工学主任、マイク・オールドレッド氏に詳しく聞いた。

ダイソンに入社してから一貫してロボット掃除機の開発に従事してきたエンジニア、マイク・オールドレッド氏

 「ダイソン 360 Eye」は、17年間におよぶ開発期間と2800万ポンド(約53.2億円)に上る開発費、そして累計200人を超えるエンジニアを動員して開発された。しかしオールドレッド氏によると、そのうち16年間は社内でも計画を知る人が少ない「極秘プロジェクト」だったという。

 「開発を始めてから16年間は、誰もこの製品のことを知りませんでした。その間は、“すごく特別なものを作っているのに、ほかの人には明かせない段階”だったんです。良いものを作っているのに言えない状態ですから、エンジニアとして大きなフラストレーションでした。しかし昨年からの1年間は、ようやく製品を発表できて誇らしい気持ちでした。だから“なかなか発売できない”といった焦りはなく、むしろ“しっかりとした製品を作るための期間”と捉えていたので、とても充実していました」

過去1年間の進化したポイント

 1年間をかけて日本市場向けにローカライズしたという360 Eyeは、どこが変わったのだろうか。

「ダイソン 360 Eye」(スリーシックスティアイ)

 「もっとも大きな調整は、日本の住環境ならではの“玄関”に関する段差対策です。以前から階段などで落ちてしまわないように“80ミリ以上”の落差がある場所には進入しない設定でしたが、日本には80ミリ以下の玄関がたくさんあります。実際、ベータテストでは玄関にロボット掃除機が下りてしまい、上がれなくなってしまう事例が報告されていました。このため現在は30〜50ミリ以上の段差には進入しない設定に変えています」

 バッテリー持続時間も変わった部分の1つだ。昨年の発表時点ではスタミナ20分と公表されていたが、現在は約45分間に延びた。これはロボット掃除機の“動き”が変わったことによる部分が大きい。以前、ダイソンにロボット掃除機の動作パターンについて話を聞く機会があったが、そのときは「部屋を3×3メートルの正方形のエリアに区切り、反時計回りに規則的に掃除を進めて行き、例えば障害物などにぶつかると、時計回りに動きを変わる」と話していた。しかしオールドレッド氏によると、現在は5×5メートルになっているという。

 「バッテリーの寿命を延ばすために必要な調整でした。4×4メートルや6×6メートルの動きも実際に試してみたのですが、5×5メートルがもっとも効率よく掃除できるという結果に辿り着いたのです。3×3メートルに比べて直進する距離が長くなり、そのぶん効率的にアプローチできる場所が増えました。ただ、これ以上1辺の距離を長くしてしまうと、逆にロスするところが増えてきます。具体的には、日本の平均的な住環境でこれ以上に方眼の目を大きくしてしまうと、アクセスできなくなるところが増え、掃除自体が効率的ではなくなるのです」

 ということは、今後ほかの国で発売する際に設定を変えることもあり得るのだろうか。

 「そうですね。単純に数字を変えればすぐに対応できるようにと考えています。ダイソンはソフトウェア会社としても非常に成熟度が高いと思っています。私が入社した当時、ダイソンはメカの会社だったんですけれど、今やハイテク企業です。製品を設計する際、どうすれば容易に調整できるかも含めて検討しています」

360 Eyeのフーシャ

 もう1つ、大きく変わったのは掃除中の駆動音だ。実は発売まで時間がかかった最大の要因でもあるという。「ノイズ対策として、一部のパーツを設計し直しています。外から見える部分ではありません。内部の空気の通り道をよりスムーズにして駆動音を抑えました」。また音の質も変わり、“耳障り”な周波数帯の音を抑えることに成功したという。

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