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「バックライトマスタードライブ」に第2世代OLED、ディスプレイの進化は止まらない麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/5 ページ)

» 2016年02月12日 17時09分 公開
[天野透ITmedia]

弱点を克服した第2世代OLEDパネル

麻倉氏:そこで今度はOLEDです。今回見た中でも、LGディスプレイが新開発した第2世代77V型パネルには特にビックリしました。UHDアライアンスのUHDプレミアムで白ピークが540nitsと決められたところ、第2世代パネルは800nitsなのです。これは本当に明るいですよ。

――先程まで4000nitsという単位で話をしていたのでイマイチしっくり来ないですが、よくよく考えるとUHDプレミアムの液晶向け規格が1000nits以上で、そこに近接する数字なわけですから、確かに800nitsというのはかなり明るいですね

LGブースの正面玄関。今回はドーム状にOLEDディスプレイが敷き詰められていた

麻倉氏:OLEDはともかくコントラストの高さが段違いです。同じ大きさの映像を見た場合、人間は解像度よりコントラストの高さを強く感じるので、液晶とOLEDで比較した時に、たとえ解像度が低くとも立体感や解像感はOLEDの方が遥かに高いと感じることは往々にしてあります。私の書斎にはパイオニアの50V型プラズマモニター「PDP-5000EX」とソニーのOLED初号機「XEL-1」があります。5000EXはフルHDでXEL1はハーフHD(960×540ピクセル)と画素数的には4倍の差がある両者ですが、一緒に映すとXEL1の方が圧倒的に緻密で解像感が高いですね。

 OLEDはものすごく黒が締まるので情報量が多く見えるのと同時に、白がそこまで明るくなくてもコントラストが高く、良い画だと感じるのです。今回UHDアライアンスで、プレミアム規格は540nitsという数字が決められたため、それをどう突破するかという問題が出てきた、はずなのですが、新パネルはそれを易々と突破してしまいました。

――世界でも大型OLEDを量産しているのはLGだけで、当然LGはアライアンスメンバーですから、このあたりは政治的にLGが上手く立ちまわったと評価すべきでしょうか。それにしても、規格が出た瞬間にそれを軽々と飛び越えるというのは、将来的な視線を考えると非常に頼もしいですね

麻倉氏:パナソニックが使っている第1世代パネルは白ピークが500nitsです。この数字から見ると540nitsは厳しいと感じますが、新パネルが旧世代比で1.5倍の輝度が出ます。実はこのスペックアップはOLEDの今後にとって非常に重要です。

 さすがにバックライトマスタードライブのように4000nitsとまではいきませんが、液晶の若干黒が浮いた上での4000nitsではなく、OLEDはものすごく黒が締まった上での800nitsなのです。相対的に見え方がよりHDRらしくなります。

――それがOLED最大の持ち味ですね

麻倉氏:もう1つ重要なのは、寿命がかなり延びたことです。ディスプレイパネルの寿命では、主に「輝度半減期間」が用いられます。初期の液晶は6万時間といわれていたものが後の改良で10万時間まで伸びましたが、OLEDは最初から10万時間を確保しています。問題は自発光デバイスが避けて通れない“焼き付き”対策です。特にデジタル放送では同じ位置に放送局のロゴが出続けるため、焼き付きを起こしやすいのです。そのため今回は焼き付き対策に力を入れてきました。

――OLEDの焼き付き問題はよく指摘されますね。スマホなど小型のデバイスでは、これが原因でOLEDを避ける人も少なくありません。その焼き付き対策ですが、実際にはどういったことをやっているのですか?

麻倉氏:焼き付き対策というのは、すべての画素を常にセンシングし、特定の画素の色がおかしくなった場合にホワイトバランス調整で周囲の出力を合わせる、という作業です。OLEDパネルは基盤、TFT(IGZO)制御回路、有機EL(発光層)、カラーフィルターの多層構造になっていて、従来はTFT層の異常だけを監視していましたが、今回は有機EL層の異常も見るようになり、これによって焼き付き問題をほぼ解消しました。

 一口に輝度を上げたといっても、光を強めれば強めるほど焼き付きは深刻になりますから、この対策をしないことには輝度を上げることはできないのです。順番としてはまず焼き付き対策をし、次に材料と構造の改良でピーク輝度を伸ばし、そして色範囲を拡げるというものです。これらを総合的に対処することで、パナソニックが使っていた第1世代と比較すると圧倒的というべき進化を遂げました。

 もう1つの大きな進化ポイントは黒輝度部分のノイズを半減させたことです。これは私が度々指摘をしていた第1世代パネルで一番の問題点だったのですが、これに対してキッチリと対策を打っており、基本性能が急上昇しました。この対策で生まれるインパクトというのはかなり大きいですね。元々OLEDはかなりハイレベルなデバイスだったのですが、黒輝度ノイズ対策で総合力がさらに上がりました。

――黒の沈みがOLEDの持ち味ですから、黒部分にノイズが出るという問題は何としても解決しなければいけませんね。これでより暗部表現に磨きがかかったということは、液晶に対してキャクターの差異がより鮮明になったといえそうです

LGディスプレイの第2世代パネルを使用した77インチOLEDテレビ。800nitsという高輝度を達成しつつ、暗部ノイズ対策を徹底することで、上にも下にも隙がなくなった

麻倉氏:今回の進化はパネルを利用しているパナソニックに対しても影響が大きいですね。今回パナソニックもOLEDを展示していましたが、米国における市場シェアがパナソニックはそれほど大きくないため、基本的にパナソニックはアメリカではOLEDを売らない方針を打ち出しています。

 対してヨーロッパでは、サムスンが仕掛けた「ハイエンド領域のコントラストはIPSではなくVAの方が有利」というVAパネルキャンペーンに各メディアがなびき、特にイギリスではIPSに対してコントラストの悪さを指摘されたという過去があります。このためIPS派だったパナソニックはブランド力を失っていましたが、OLEDを出したことで現在、急速に支持を取り戻しているのです。こういった経緯もあって「OLEDは米国よりもむしろヨーロッパにドライブしよう」となっています。

――OLEDをめぐるパナソニックのブランド力問題は以前にも取り上げましたね

麻倉氏:問題は日本での展開です。ノイズや焼き付き問題があって対策が難しいため、第1世代の日本投入はあえて見送っていました。ですが、そうはいっても日本は画質コンシャスなため、問題を解決した第2世代パネルがトリガーになるという観測もできる訳です。今まで日本市場における大画面OLEDはLGのみだったのが、パナソニック流の画作りを持ってきた上でHDRを含めた「パナソニックOLED」がいよいよ日本に来るかということは充分予想できるでしょう。

――是非とも期待したいところです。パナソニックがOLEDを出すのはいつ頃になりそうですか?

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