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安くて音と使い勝手のいいレコードプレーヤーが欲しい!――そんなわがままな人にVOXOA「T-50」潮晴男の「旬感オーディオ」(1/2 ページ)

» 2016年03月28日 15時01分 公開
[潮晴男ITmedia]
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 先日友人Mから電話をもらった。何でもレコードプレーヤーがほしいのだとか……。「あれっ、立派なの持ってたんじゃない?」と問うと「いや、俺のじゃなくて娘のなんだ」という返事。「お嬢さんがレコードに興味を持ったの?」。「うん、そうなんだよ」

 そんなやり取りがあってリクエストの概略を聞くと、組み立てが簡単で使い勝手がよく、クオリティーが備わっていて10万円以下という内容。「そんなのあるわけないだろっ」と言おうとして思いだした。「あった」。それがVOXOAの「T-50」である。

VOXOAの「T-50」

 VOXOAは「ボクソォア」と呼ぶ。読者にとってはおそらく初めて目にするブランドだと思う。それもそのはずで2010年に香港で設立されたとても新しい会社なのである。今時アナログプレーヤーを作る会社を興すとは何て酔狂な連中なんだろうと、思った。しかもハイエンドの製品ならいざ知らず、6万4000円という価格である。そんなの作って利益が出るのかしら……。ちょっと心配になるが、輸入元のポーカロラインに聞くと、量産効果でそうした問題をクリアしているということだ。VOXOAは元々DJマシン用のプレーヤーなどを手掛けるプロ集団。入門機とはいえ良く練り上げられたT-50で、彼らは本格的にオーディオ分野にも進出することになったのである。

 それにしても世の中随分と変わったものだ。ハイレゾ関連の機器やDSD録音による制作手法が話題になる一方で世界のレコードプレス枚数が年々増加。全メディアの売り上げの2%という少数派ながらレコードの伸びは驚異的といってもいいだろう。ちなみに日本でも昨年は前年より80%も生産数がアップしている。どうやらレコードは単なるブームを乗り越え、ハイレゾに飽きたオーディオマニアに加えて若い世代のファンにもアピールしているようだ。おじさんたちの昔を懐かしむ気持ちだけでなく、若い人達にも手間のかかる新鮮なメディアとして受け入れられているという。ミュージシャンの中にもアナログレコードで新譜をリリースする例が目に付くことからも、変化の兆しがうかがえる。CDやダウンロード音源と違って一発選曲もできない。面倒くさいことにかけてはこれ以上のメディアはないのに、皆さんレコードならではの瑞々しさに心がひかれるのかな。

レコード入門層にも最適なレコードプレーヤー

 それではレコード入門層にも復活再生を目指す人にも最適なレコードプレーヤー、VOXOA「T-50」の使用記&試聴記をお届けしよう。まずレコードプレーヤーに親しんでいない人にとって一番心配なのが、購入してからちゃんと組み立てられるのかということだろう。CDプレーヤーなら買って来てアンプに接続するだけでいいが、レコードプレーヤーはプラッターを載せたり、カートリッジを取り付けたりと演奏に入るまでにいろいろな作業が介在する。しかもこうした調整がきちんとできていないと正確な再生ができないばかりかせっかくのレコードに傷をつけかねない。ここがCD再生と一番大きく違う部分だ。

 エントリークラスのレコードプレーヤーは、超簡単組み立ての廉価モデルと、もう少し手のかかる中級モデルに分けられる。T-50は価格からすると超簡単な部類だが、内容的には中級クラスながら、組み立てが簡単なことも初心者のユーザーにおすすめできるポイントである。購入後、行うことは、1)プレーヤー本体にプラッターを載せる。2)プラッターの小窓からベルト引き出し所定のプーリーにかける。3)プラッターの上にターンテーブルシートを敷く。4)トーンアームにカートリッジを装着する。5)トーンアームのゼロバランスを取り指定の針圧を印加する、の以上である。これなら初心者の人でも取扱説明書片手に簡単に組み立てができるはずだ(→参考記事)。

アームの後ろにあるのが芯圧調整用のカウンターウェイト。付属カートリッジの針圧は3.5(±1g)なので、それに合わせる。なお、ポーカロラインのWedサイトではT50のセッティングに役立つ動画も掲載中

 またT-50はフォノイコライザーを内蔵しているので、ライン入力しかないプリメインアンプに繋いでもそのまま再生できる点もうれしい。なぜこんなものが必要なのか、入門層の読者に分かりやすく説明すると、レコードは高域を強く、低域を弱く溝に刻む。なぜそんなことをする必要があるのかといえば、フラットな周波数特性ではカートリッジが音溝をトレースできなくなってしまうからだ。そこで記録する時に低域を弱く高域を強く、再生する時にこの逆の特性を持つフォノアンプを用いて本来の音楽信号に戻すのである。

 最近はアナログの復活を受けてフォノ入力を設けるアンプも多いが、そうした対応の入力ポジションがなくてもT-50はフォノイコライザーを内蔵しているのでこれだけで事足りるわけである。また出力を切り替えればカートリッジの信号をそのまま取り出せるから、フォノ入力を装備したアンプを使う場合は、音質をチェックして質の良いほうを選択すればよいのだ。トーンアームにはストレートパイプを採用しているが、ヘッドシェルは交換式なのでカートリッジをグレードアップするという楽しみも残されている。

オーディオテクニカの「AT-3600L」という輸出用のMM型カートリッジが装備されている

 セットアップの完了したT-50を標準の状態で再生してみる。このモデルにはオーディオテクニカの「AT-3600L」という輸出用のカートリッジが装備されているので、最初にこのままで試聴してみた。使ったレコードは手近にあったカーペンターズの「ホライゾン」。すでに廃盤だがプレス枚数も多いので中古でも比較的手に入りやすいアルバムである。この中から往年の大ヒット曲「オンリー・イエスタディ」に針を降ろす。

潮氏所有のカーペンターズ「ホライゾン」

 T-50はフルオートでの動作が基本なので、電源スイッチはない。レコードをプラッターの上にセットし、プレイ(スタート)ボタンを押すだけで盤サイズ、回転数を自動で検出して再生が始まる。では2曲目の「オンリー・イエスタディ」だけ聴きたい時はどうするかというと、マニュアルモードに切り替え、曲間の頭にカートリッジを持っていき、アームリフターでそっと針を降ろす。また17cm LPや45回転の変則LPも同様にマニュアルでの対応が可能なので、オートが基本だからといってかからないレコードはないのである。

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