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「0から1を生み出す」とは――G-SHOCKの父から教わる“発明”の原点

» 2016年08月04日 06時00分 公開
[園部修ITmedia]
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 カシオ計算機は、その社名が示すとおり、世界初のリレー式計算機「14-A」の開発を機に、樫尾家の4兄弟、忠雄氏、俊雄氏、和雄氏、幸雄氏が創業した会社だ。兄弟の中でも、製品開発を担当していた俊雄氏は、「いいものを創造すれば、必ず人はそれを必要とする」という信念の元、数々の発明品を残した。

 「0から1を生み出す」「世界にないものを創造する」は、俊雄氏の発明哲学として語り継がれている。「何もないところから、新しい価値を生み出す。なにか見本があって、それを改良したりするのではない」。こうした言葉からは、カシオ計算機が世に送り出してきたさまざまな新機軸の製品の原点が感じられる。

 俊雄氏が、実際に多くの発明を考案した自宅の一部は、現在は樫尾俊雄発明記念館として公開されている。成城4丁目の閑静な住宅街の片隅にある記念館では、俊雄氏の書斎が見られるほか、14-Aの完動品と、その後に開発された電卓、電子キーボードやデジタルギター、エレクトロニクス技術を用いて進化してきた時計などの展示を見ることができる。

 樫尾俊雄発明記念館は、事前予約が必要だが、平日の9時半、12時半、15時から、それぞれ2時間を1団体(10人程度が上限)で貸し切るような形で見学できる。2015年からは、夏休み期間中に、小学生とその保護者を対象とした特別展示と体験教室を開催しており、今年もさまざまな企画が用意されているので、ぜひWebサイトをチェックしてみてほしい。高速撮影体験や電卓分解組立教室、計算探検、はなうた作曲教室、世界に1つしかないG-SHOCKを考える発明教室など、カシオならではのユニークな企画が多い。いずれも人気が高く、すでに定員に達している企画もあるようだが、機会があればぜひ訪れておくべきだろう。

氷漬けのG-SHOCK ワークショップの会場には氷漬けのG-SHOCKの展示も
なんと氷漬けにされたG-SHOCKは、氷の中で普通に動いている

サマーワークショップでG-SHOCKの父から「発明」を教わる

 そんな樫尾俊雄発明記念館の特別展示にもある企画の1つ、「発明家になろう 〜自分だけのG-SHOCKをつくろう〜」が、一足先に世田谷区立明正小学校のサマーワークショップでも開催されると聞いて、その様子を見てきた。

 明正小学校のサマーワークショップは、子どもたちに学校とはちょっと違った学習や体験の場を提供することを目的に、参加希望者を募って開催されているイベント。地域の人や保護者が講師となって、得意分野を生かした講座が開かれており、1年生から6年生までの子どもたちが、1つの教室に集まって受講する。

 カシオ計算機は、明正小学校が、樫尾俊雄発明記念館の理事長でもある樫尾隆司氏の母校という縁もあって、今回のサマーワークショップに参加することになったという。樫尾隆司氏は、卒業時からほとんど変わっていない母校の風景が懐かしいと話していた。

樫尾隆司氏 上席執行役員 法務・知的財産統轄部長 兼 コーポレートコミュニケーション統轄部長の樫尾隆司氏。樫尾俊雄発明記念館の理事長も務める

 「発明家になろう」教室の講師は、G-SHOCKの開発者として知られる伊部菊雄氏だ。世界のG-SHOCKファンから尊敬を集める企画者から直々に「発明」について教われるとは、なんとも恵まれた機会である。

伊部菊雄氏 羽村技術センター 時計事業部 モジュール開発部 モジュール企画室 主幹の伊部菊雄氏

 参加した小学生は30人強。5〜6人のグループで6つのテーブルに分かれ、作業に取り組んだ。

「○○の役に立つ時計」

 伊部氏は、「こまったとき、誰かの役に立ちたい、と思った時に、発明のきっかけが生まれます」と子どもたちに話した。合わせて自分がG-SHOCKを最初に企画するに至った経緯として、親からプレゼントされた大事な時計を落として壊れてしまったエピソードを披露。そこから、「落としても壊れない丈夫な時計」を作ろうと思い立ったことが、G-SHOCKの発明につながったのだと話す。そして、G-SHOCK誕生までには「頭が爆発するぐらい、考えました」とも。今回のワークショップのゴールは、こうした伊部氏のエピソードも踏まえて、子どもたちにも何かの役に立つ時計を考えてもらうことだった

伊部菊雄氏 何かの役に立つ時計を考える

 ただ、いきなり役に立つものを考えなさい、といわれてもピンとこないかもしれないことを考慮し、伊部氏は「頭の体操」として、

  1. 朝、会場に来るまでに見たもの(人工的に作られたもの)を思い浮かべよう
  2. それは何の役に立っているか
  3. おいしいケーキは何の役に立つか

という3つのステップで、子どもたちに「役に立つ」とはどういうことかを考えさせていた。

伊部菊雄氏 子どもたちに発明のキモを伝える伊部氏

 この準備体操を踏まえて、伊部氏は子どもたちに「役に立つ“もの”を、最初に考えるのが発明」だと説き、子どもたちに、時間が分かること以外に、時計にあるとよさそうな、役に立つものを考えて発表してもらった。

子どもたちの「役に立つ」とは……

カシオサマーワークショップ おのおのが思い描く、役に立つ時計の絵を書く子どもたち
カシオサマーワークショップ クーピーペンシルは参加者へのプレゼント

 しばらくあれこれ考えた後、子どもたちはおのおのが考える「役に立つ」ことが実現できる機能を持った時計を紙に書いていく。その中には、伊部氏も思わずうなるようなアイデアがあった。

伊部菊雄氏 子どもたち“発明”した時計

 子どもたちに人気だったのは、「忘れ物をしやすい人に役に立つ時計」「海外の時間が知りたいときに役に立つ時計」「体のすべてが分かる時計」「なんでもできる時計」といったアイデア。忘れ物をしても困らない、といった辺りはいかにも小学生っぽい。体のすべてが分かる、海外の時間が分かる、といった点は、最近の科学の知識を持った子どもらしい発想と言える。

カシオサマーワークショップ 赤いマグネットが載っているのが、参加者の小学生が選んだ「自分以外の人が書いたもので、欲しい時計」

 大人の目から見ると、もっと面白いものがあった。落としても羽が生えて飛ぶので壊れない「落としても壊れない時計」や、距離目盛りがある「苦手な人から逃げられる時計」など、技術的な問題など関係なく、自由な発想で描かれたアイデアは、伊部氏が「うちの社員より面白い」とほほ笑むほどだった。

「発明家の卵」に認定

 こうして約2時間ほどのワークショップは終了。いろいろな時計を“発明”するために頭をひねった子どもたちは、「発明家の卵」に認定され、最後に賞状が手渡された。今回描かれた子どもたちの発明は、夏休み期間中、樫尾俊雄発明記念館にて展示されている。

 今回開催されたのは、カシオ計算機のCSR活動としてのちょっとした取り組みではあるが、世の中にはこうした夏休みならではの面白い企画が多数存在する。チャンスがあれば、子どもと一緒に参加してみてはいかがだろうか。

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