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» 2016年10月31日 06時00分 UPDATE

山形豪・自然写真撮影紀:南部タンザニア、セルー動物保護区のサファリ

前回は南部タンザニア、ルアハ国立公園でのサファリについての話を書いたが、当連載最終回となる今回は、同じ旅の後半で訪れたセルー動物保護区を紹介したい。

[山形豪,ITmedia]

 タンザニア南部のセルー動物保護区(Selous Game Reserve)は、アフリカ大陸でも最大級の大きさを誇る保護区で、その総面積は約50000平方キロメートルにもなる。これはスイス全土とほぼ同じ広さだ。標高が高く、起伏に富んだルアハ国立公園とは対照的に、平坦な地形の中をルフィジ川というタンザニア最大の河川がゆったりと蛇行しながら流れるセルーは、広大な低湿地とサバンナで成り立っており、他地域では見ない特殊な自然環境を形作っている。

ルフィジ川 蛇行しながらセルー動物保護区を流れるルフィジ川。F6.3、1/1600秒、ISO400、ボディー:D810、レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED、焦点距離:24mm
ルフィジ川 ルフィジ川に数多く生息するカバ。F7.1、1/2500秒、ISO500、ボディー:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR、焦点距離:600mm相当

 乾季でも流れが止まることのないルフィジ川では、至る所でカバやワニの姿を見ることができ、水鳥の種類も実に多い。また陸に目をやれば、豊富な草木を求めてキリン、シマウマ、ヌー、バッファローといった大型草食獣たちが群れを成し、それらを捕食するライオンやリカオンなどの大型肉食獣も生息している(残念ながらルアハ同様、今回の旅でリカオンを見ることはできなかったが)。

ルフィジ川 川に逃げ込むナイルワニ。F7.1、1/500秒、ISO400、ボディー:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR、焦点距離:330mm相当
セルー動物保護区 走るシマウマの群れ。F7.1、1/1250秒、ISO500、ボディー:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR、焦点距離:510mm相当

 一部のガイドブックなどで、セルーではなくセルースという表記がなされているが、あれは誤りである。この地名は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、アフリカ南部や東部で活躍したイギリス人のハンターで探検家でもあった、フレデリック・コートニー・セルー(Frederick Courtney Selous)の名から来ている。Selousというスペルをセルースやセラスではなくセルーと発音するのは、この苗字がもともとフランスを起源とする名前であるためらしい。彼は第一次世界大戦の最中、ルフィジ川の流域でドイツ軍との交戦中に戦死した(現在のタンザニアは当時帝制ドイツの植民地だった)。

 ちなみに、国立公園(National Park)と動物保護区(Game Reserve)の定義は国によって異なるのだが、タンザニアにおいて動物保護区とは、許可を取得すれば狩猟が認められている場所を指す。セルーの場合、東西に流れるルフィジ川を堺に、北側は動物を眺めて楽しむためのサファリエリア、南側は狩猟が可能なハンティングエリアとして区別されている。

 写真を撮るという観点から見た際のセルーの魅力は、まず車からのみならず、ボートで水上から撮影できる点にある。一般的に哺乳類も鳥類も、水上から接近するものに対しては警戒心が薄い。これは水上から襲ってくる生きものがいないことに起因する。ワニにしても、攻撃するのは水上ではなく水中からであり、水面に浮かんで近づいてくる捕食者は存在しないのだ。

セルー動物保護区 川でのサファリに使用されるボート。F10、1/500秒、ISO500、ボディー:D810、レンズ:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED、焦点距離:42mm

 保護区内に数軒あるロッジの大半は川辺に建っており、いずれもがボートサファリを行っている。今回訪れた8月は、現地では乾季の真っ盛りにあたり、川の水量がかなり少なかったため、底の浅いアルミボートですら行動範囲は限定されたが、川辺の崖に巣穴を掘って営巣するシロビタイハチクイや数種のカワセミ類、アフリカハサミアジサシなど多数の鳥類を間近から撮影することできた。

セルー動物保護区 巣穴から飛び立つシロビタイハチクイ。F8、1/2500秒、ISO1000、ボディー:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR、焦点距離:465mm相当
セルー動物保護区 魚を捕らえたサンショクウミワシ。F8、1/2500秒、ISO500、ボディー:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR、焦点距離:600mm相当

 陸上での撮影は通常のサファリカーから行うが、ルアハのような国立公園とは若干規則が異なっており、セルーでは車で道を外れることが許されている。これにより被写体への接近が容易になるので、相手が逃げさえしなければ良好な撮影結果が得られる。今回特にロッジ近くに縄張りを持つライオンの群れを撮影した際、そのことが大きくプラスに働いた。

セルー動物保護区 毛づくろいをするライオン。F5.6、1/250秒、ISO125、ボディー:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR、焦点距離:375mm相当

 一方で、夕方6時にはロッジに戻っていなければならないという、かなり不都合な規則もあり、これには閉口した。なにしろ6時と言えば日没30分前。一日の中で光がもっとも綺麗な時間帯だ。そんな時にロッジに戻らねばならないというのは実にもどかしかった。

 アフリカ大陸の自然保護区の中でも特に規模が大きく、多くの野生動物を支えるユニークな生態系を有することから、1982年にユネスコの世界自然遺産になったセルーだが、残念ながら2014年には危機遺産に指定されてしまった。その主な理由が象牙を目的としたアフリカゾウの密猟だ。2009年に保護区内に4万5000頭いると推定されていた個体数が、2014年には1万5000頭程度にまで激減し、現在ではその数はさらに少なくなっている。実際、私が20年前に現地に通っていた頃は、水の少ない8月(乾季)ともなれば、100頭単位のゾウの群れがいくつも川辺に集まるといった光景も珍しくはなかったが、今回セルーに3泊して出会った数は10頭にも満たなかった。

セルー動物保護区 大幅に数が減ったセルーのアフリカゾウ。F8、1/1000秒、ISO500、ボディー:D500、レンズ:AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR、焦点距離270mm相当

 一見すると手付かずの大自然のように見える場所でも、尽きることのない人間の欲望がもたらす悪影響は確実に及んでいると、今回改めて実感した。密猟や大規模な自然破壊を食い止めるには、やはり現地の人々が野生動物と、それらが暮らす保護区の存在によって恩恵を受けるようにならねばならないというのが私の考えだ。つまり、大多数の人間にとって生きている動物の価値が、死んだ動物の価値を上回らねばならないのだ。

 人口増加や貧富の格差の拡大に歯止めがかからない状況で、これは非常に難しい気もするが、サファリ産業が発展し、より多くの人々の生活を支えるようになることで、多少なりとも状況は改善するのではと期待している。そしてそのためには、アフリカの自然を体感してみたいと思う人が世界中でもっと増えねばならないとも思うのだ。日本からも、もっと多くの人がアフリカを訪れ、大自然を体感してくれればと願いつつ写真を撮り続けている次第だ。

 さて、2010年春から続けてきた本連載は、今回で最終回となる。これまで6年半の長きにわたり、カメラや写真に限らず、さまざまなテーマで自由に記事を書かせて下さったLifeStyle編集部と、ご愛読いただいた読者諸氏に感謝を申し上げ、この連載を締めくくりたいと思う。

著者プロフィール

山形豪(やまがたごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高等学校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.com

【お知らせ】風景写真出版から、山形豪初の写真集「From The Land of Good Hope / 喜望の地より」(ソフトカバー・A4・128ページ)が発売されている。定価は3500円。また集英社新書で「ライオンはとてつもなく不味い」も刊行されている。ぜひ手に取っていただきたい。


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