山形豪・自然写真撮影紀
南部タンザニアサファリ ルアハ国立公園の魅力
サファリやアフリカの動物が好きな人ならば、セレンゲティやンゴロンゴロといった地名を、一度は聞いたことがあるだろう。共に東アフリカのタンザニアにある場所で、野生動物が多いことで世界的に知られている。タンザニアでサファリというと、この2カ所にマニヤラ湖国立公園や、タランギレ国立公園などを加えて周遊するルートがもっとも一般的で人気が高い。全ての場所が国土の北部にあることから、ノーザンサーキットと呼ばれている。
それに対して、タンザニア南部にあるルアハ国立公園とセルー動物保護区、それにインド洋に浮かぶザンジバル島などのリゾートアイランドを巡るコースをサザン(南部)サーキットと呼ぶ。ノーザンサーキットに比べると知名度は低いが、北部の国立公園群とは生態系や風景がまったく異なっているので、マニアックながらアフリカの自然が好きな人にとっては非常に面白い。
今回私が撮影ガイドを務めたのは、アフリカへの旅を主に取り扱う「道祖神」という旅行会社が企画したツアーで、ルアハに2泊とセルーに3泊(ビーチリゾートはなし)という日程だった。実はルアハもセルーも、20数年前、私がアフリカの野生動物を撮り始めたころによく通っていた場所で、個人的にはとても愛着と馴染みのある場所だ。
ルアハ国立公園は面積が約1万km2、周辺の保護区も合わせると4万5000km2にもなり、タンザニアで二番目に大きい国立公園だ。標高が平均800mと比較的高く、起伏の多い地形の中にバオバブの巨木がそびえ立つなど、北部の平坦なサバンナとは趣がかなり違う。植生も豊かなため鳥類なども多い。そして公園の南端部を、およそ北東方向へ、ルアハ川という大型河川が流れている。一年のうち7カ月間まったく雨の降らない地域なので、この川が多くの野生動物の生命線となっている。特に8月は乾季の最中にあたり、動物たちの活動が川筋に集中するため写真が撮りやすい。
日本から現地にたどり着くまでには、最短でも2日ほどかかる。今回はエミレーツ航空で成田からドバイまで行き、そこからタンザニアの最大都市ダルエスサラーム行きのフライトに乗り換え、ダルエスサラームで1泊した翌朝、さらにセスナ機に乗って約2時間半という道のりだった。
国土面積が大きい上に道路事情が悪いタンザニアのような国では、主だった国立公園への行き来は軽飛行機を使うのが一般的だ。そのため、ルアハにしてもセルーにしても、利用するロッジの近くに必ず滑走路があり、現地到着時にはロッジから迎えの車が来るというシステムになっている。
ルアハのムセンベ飛行場に到着したのは8月22日の昼間。飛行場と言っても、柵があるわけでもないただの細長い更地なので、滑走路脇の草むらではインパラたちがのんびりと草を食べていた。飛行機を降りた瞬間からサファリが始まっていることを実感する光景だった。
ロッジが用意してくれた車は、旧型のスズキ「ジムニー」を、マルチ・スズキ・インディアがインドでノックダウン生産した「ジプシー」と呼ばれているものだった。小型ながられっきとした四輪駆動車であり、車高もそれなりに高く小回りが利くので、サファリにはうってつけの車種だ。音が静かなガソリン車である点もありがたかった。真昼のブッシュでは、動物の活性は決して高くないが、それでもロッジに到着するまでにシママングースの群れや喧嘩をするカバなどに遭遇して、上々の滑り出しだった。
そしてサファリの楽しみは、ゲームドライブだけにとどまらない。実は宿にいる間も結構面白かったりするのだ。特に今回宿泊したルアハ・リバー・ロッジは、ルアハ川の岸辺に建っていて、全ての部屋が川に面している。デッキで座っているだけで、水を飲みにやってくる鳥類やほ乳類を観察・撮影できるのだ。
さらに、ロッジの周辺に塀や柵の類は一切ないので、敷地内にもさまざまな動物が姿を現してくれる。夜間はゾウなどの猛獣と鉢合わせする可能性があって危険なので、夕食後、ダイニングエリアから部屋へ戻る際には、マサイ族のガードマンにエスコートしてもらうという規則まであるくらいだ。事実、初日の夜は部屋の目の前で二頭のカバが草を食んでいたし、2日目の夜はゾウが窓のすぐ外の木の枝をバキバキと音を立てて折っていた。いずれも写真を撮ることはできなかったが、あれもサファリの醍醐味の1つと言える。
撮影機材に関しては、荷物の重量/サイズ制限の厳しい軽飛行機で移動する旅だったため、かなり切り詰めた。ボディは「D500」と「D810」の2台。レンズは「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED」「AF-S 17-35mm f/2.8D ED」を持参した。ストロボは「スピードライトSB-910」一本。機材量は少ないが、DX(APS-C)フォーマット機とフルサイズの高画素機をそれぞれ一台携行することで超望遠から超広角まで無駄なくカバーできるし、ボディはどちらも同じバッテリー「EN-EL15」を使うため、チャージャーも1つで済む(荷物を減らせる)というメリットがある。画角や連射速度、画質などの面で妥協することなく機動性を確保できる大変ありがたい組み合わせだと感じている。
ただし、17-35mmはかなり古いレンズなので、高画素のD810で使うにはかなり無理がある。そろそろ「AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR」あたりに換えようかと思っているのだが、そもそも超広角レンズはサファリでの使用頻度が極めて低いので、どうしても後回しになってしまう。今回もロッジの様子や車を撮る以外、出番がほとんどなかった。
被写体という観点から見たときのルアハの最大の特色は、絶滅危惧種であるリカオンが多い点と、タンザニア北部にはいないレイヨウ3種(レッサークドゥー、セーブルアンテロープ、ローンアンテロープ)が生息していることなのだが、今回は滞在時間が短かかったこともあって、そのいずれにも出会えなかった。しかし、ライオンは多かったし、ヒョウも撮れたので決して悪い結果ではなかった。特にライオンに関しては、川辺で獲物を追いかける姿を見ることができた。時間帯が昼間だったため陽炎がきつく、距離も遠かったので撮影には厳しい状況ではあったが、川辺で水を飲むインパラを追いかけ、中州から川の中に飛び込んだライオンの姿は大迫力だった。
たった2泊と短い滞在ではあったが、やはりルアハはエキサイティングで面白かった。そして最終日の昼間、滑走路脇で草木を食べるキリンやゾウに見送られて次の目的地、セルー動物保護区へと向かった。
次回はセルー動物保護区のサファリを紹介したい。
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