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クラシックシーンをリードするベルリンフィルのメディア戦略麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2016年11月03日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

――今までのコンサート映像は、白飛びが多くどうにもボヤけた画が多かったように思います。実際のコンサートホールはもっと落ち着いたというか、ピリリとした独特の雰囲気があるはずなのに、映像ではどうにもあの荘厳さが出ているものは少なかったです

麻倉氏:そこでパナソニックとの提携が生きてくるんですよ。パナソニックはハリウッド研究所で、制作者が考える色や階調をきちっと出していこうという発想で、プラズマ時代からディレクターズインテンションを追求する画作りをしていました。それを今回、ベルリンフィルへ持っていこうとしているんです。

ベルリンフィル・メディアのローベルト・ツィマーマン氏。「日本では当たり前になりつつある4KもHDRもハイレゾも、ドイツではまだまだ」と語り、日本企業の先進性を指摘してパナソニックとの提携の意義を語る。また、今回の提携に際して「例えば自動車がコンサートホールになるような」といった幅広い展開に含みを持たせていた

麻倉氏:音に関しては、ベルリンフィル・メディアのテクニカルディレクターを務めるクリストフ・フランケさんの作る音が原点にあり、そこからミキシングして全世界へ送り出すという図式になっています。つまり彼の頭の中にある音を家庭で再現するという発想なのですが、これが面白いですね。実はソニーがスポンサーの時も同じことを言っており、ベルリンフィルの音をソニーのシステムで再現するために機材を持ち込んで聴いてもらう、という話だったはずなのですが、どうやら実際にはあまりやっていなかった模様です。

 確かにAVアンプには「ベルリンフィル・モード」というものが搭載されていましたが、あれはベルリンフィルへの持ち込み作戦以前から作っていたものです。そういったことを鑑みて、ソニーの音作りの中でベルリンフィルがどれだけ貢献したかを考えると、あまり成果がなかったのではと推測できます。これはなかなか難しい話で、テクニクスにおいてその答えがどう出てくるかは未知数で、果たしてどうなのかということは懸念です。

 ですがテクニクスの「Rediscover Music」という掛け声からすると、音が生まれた場所の臨場感や音色感とか、あるいは音の出方などを忠実に家庭で再現するには、まずリファレンスが必要なことは間違いありません。その意味でベルリンフィルは最高のリファレンスであり、こういったハイレゾのリファレンスに対してトータルでどのように攻めていくかという、さまざまな展開が可能になれば面白いですね。そういう意味でも音源を生み出すベルリンフィルという拠り所は重要といえるでしょう。

――表層的なブランドイメージの向上のみに留まらず、ベルリンフィルを通して音楽への造詣がより深まり、音楽文化そのものを進化・革新する原動力となることを期待したいです。

デジタルコンサートホールは従来はフィルハーモニーで催されるベルリンフィルの演奏会のみのサービスだったが、この夏から海外公演やベルリンフィル以外のフィルハーモニーでのコンサートも中継されるようになった。画像はロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたベルリンフィルの公演(写真=上)と、ダニエル・ハーディングがバイエルン放送交響楽団を率いたベルリン音楽祭の公演(写真=下)
自身もジャズピアニストである小川氏。音楽に対する理解度の深さが、現在のテクニクスブランドを中心としたパナソニックの音楽文化に対する展開の原動力だ
フィルハーモニーのツアーを行った日はバイエルン放送交響楽団の公演日。指揮は実力派若手指揮者、ダニエル・ハーディングだった

麻倉氏:さて、ここからはデジタルコンサートホールの秘密についてお話ししましょう。今回の提携に関連して、テクニクスは関係者向けにフィルハーモニーの舞台裏ツアーを開いたのですが、私的にはこのスタジオ見学が出来たというのが極めて印象深かったです。

――デジタルコンサートホールのコンテンツはフィルハーモニーで開催されるベルリンフィルの演奏会ですから、ホールに大規模なシステムを常駐させることができるという利点を持っていますね。具体的には通常のコンサート中継などとどこが違いましたか?

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