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審査委員長直伝! 第9回「ブルーレイ大賞」レビュー(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/6 ページ)

» 2017年03月09日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

ベスト高画質賞 アニメ部門(邦)「バケモノの子」

「バケモノの子」

麻倉氏:続いてアニメ邦画部門です。受賞作は細田守作品「バケモノの子」、日本アニメ独特の線画描写にCG技術を巧みに織り交ぜ、色の階調がきめ細やかで美しく、全体がみずみずしい透明感と輝きに満ちています。日本のアニメは一般的にハーフHDで制作されるのですが、これはフルHD製作。マスターが根本的に良く端々に放たれる光の強さも印象的で、BDには劇場鑑賞と見劣りしないほど高精度の映像美が収められています。

 細田守監督というと「おおかみこどもの雨と雪」「サマーウォーズ」などの大作を3年おきに発表し、定点観測的なロングショットと細密な表現に定評があります。今作でもしっかりとした描画力という土台の上に細やかで情報量の多い映像を出してきている、見ごたえのある映像でした。

――3年サイクルが今後も続くならば、次の新作は2018年となります。パッケージ化される頃には4K HDRが常識になっていることが予想されますが、さて細田監督はどんな映像世界を見せてくれるでしょうか

麻倉氏:ところで私が邦画アニメで注目したのは、実はバケモノの子よりも「ガールズ&パンツァー 劇場版」なんです。

――おや、ガルパンですか? 戦車戦を武道に仕立て上げて女子高校生と悪魔合体させた人気の異色作で、とにかく戦車に対するスタッフのこだわり方が半端じゃないことで有名ですが。先生がこれを選んだということは少々意外な気がします

麻倉氏:評価クリップは最後の戦車戦のシーンで、砲撃反動やキャタピラの弛みなど、非常に細かいモデリングによる描写が素晴らしく、アニメでしか描けない重量感あふれるものでした。とても繊細な描き込みがされていて、キャラクターの違いもよく出ている点が好感を持てます。クリアでカラフル、木綿と絹の様な質感で日本アニメとしては特筆すべきクオリティーですね。が、これはおそらく君の方が詳しいのでは?

――多分そうだと思います。ガルパンは僕もディスクを手に入れましたが、観覧車を戦車砲で撃ち抜いて敵陣形を撹乱するシーンなどは、アニメが持つファンタジー感と精巧なモデリングによるリアリティという“ウソとホントの境界線”に潜むワクワク感を極限まで引き出した表現だと感じました。フル3Dにはない、線画を主体とした日本アニメならではのものです。 “リアルに心地良い爆音”を追求した「センシャラウンド」もついに5.1ch化しています。立川の劇場で話題となった“極上爆音上映”など、音響効果部門でも入選していました通り音にもかなり注力していますね。語りだすとキリがないからこの辺にしておきましょう(苦笑)。ちなみにガルパンの何が良かったですか?

麻倉氏:女子高校生かわいいね(笑)

――それは正しい(笑)

高画質賞邦画アニメ部門の入選作品。「時をかける少女」「サマーウォーズ」などで知られる細田守監督の「バケモノの子」がアワードを受賞したが、麻倉氏のお気に入りは大洗の救世主「ガルパン」だった様子。CGとセルアニメの融合というジャパニメーションの挑戦はまだまだ続く

ベスト高画質賞 アニメ部門(TV・その他)「トイ・ストーリー 謎の恐竜ワールド」

「トイ・ストーリー 謎の恐竜ワールド」

麻倉氏:アニメの最後はテレビ・その他の部門です。受賞作は「トイ・ストーリー 謎の恐竜ワールド」。対抗馬にスター・ウォーズがありましたが、これはもうトイ・ストーリーの圧勝です。

 このタイトルは劇場版のスピンオフとしてテレビ用に作られたものですが、驚くことに全編に渡って長編映画と全く同じクオリティーです。世界で初めて長編映画をフルCGで作ったピクサーのこだわりというものはすごいですね。

――劇場版第4段のウワサもちらほら聴こえつつあるトイ・ストーリーシリーズですが、そこはピクサーの看板タイトルを掲げるだけあってやはり手を抜けないというところでしょうか。いずれにしても恐ろしいまでのハイクオリティーぶりに圧倒されます

麻倉氏:トイ・ストーリーの映像の記号性は、CGによるおもちゃの質感の違いや色の芳醇さにあります。物語全体の独特な映像観を持っていて、ソフトビニールなどの安っぽさを持ちながらも不思議な気品を醸し出しています。トリケラトプスの表面のディテールのヌメッとした感じの立体感やブリキの金属感、ビニールの安っぽさなど、さまざまなオモチャの質感も大変うまく描き分けていて、劇場と全く変わらない映像美がテレビで堪能できるわけです。緻密(ちみつ)な描写の数々にピクサーのCG技術の凄みをまざまざと感じさせ、TVアニメがここまでのクオリティーを持つことに驚きを禁じえませんでした。

――こういった場面で日本とハリウッドのアニメが競うと向こうの3D作品が評価されることがままあり、その度に日本のアニメファンとしては悔しい思いをするのですが、実際の映像はそれも納得せざるを得ない映像美をまざまざと見せつけています。やっぱりハリウッドは財力というかマンパワーというか、力の入れ方が違うな、と。昨年同賞を受賞した「Fate/stay night」など、日本のテレビアニメも時々劇場クオリティーのハイレベルなものが出てはきますが、そういう恵まれた作品は稀で、“その他大勢”の作品群を見ていると日本のアニメ制作現場の厳しさを感じずにはいられません。もっとも、不足から生まれる工夫というのも日本アニメのではあるんですけれどね。

TVアニメ部門のアニメ賞はトイ・ストーリーのスピンオフ作品「謎の恐竜ワールド」がアワードを獲得。TVアニメでありながら劇場作品と変わらない驚異的な映像クオリティーが繰り広げられる

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