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» 2017年08月05日 06時00分 UPDATE

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:4K HDRプロジェクターの最前線! 「4K olmpAc」報告 (1/5)

先端画質研究会「4K olympAc」の第7回目が開催され、エプソン、ソニー、JVCの4K HDRプロジェクターの一斉比較した。「4K HDRが活用されるべきはホームシアター」という麻倉氏はどう見たのか?

[天野透,ITmedia]

 家電量販店のテレビ売り場でもすっかりお馴染みとなった「4K HDR」という言葉だが、“画質の鬼”ことAV評論家の麻倉怜士氏は「4K HDRが活用されるべきはホームシアター」と断言する。そんな麻倉氏とデジタルハリウッド大学の杉山知之学長を中心に、メディア専門誌「NewMedia」が主催する先端画質研究会「4K olympAc」の第7回目が6月末に開かれ、エプソン、ソニー、JVCの4K HDRプロジェクターの一斉比較という試みが実施された。

 麻倉怜士のデジタル閻魔帳――今回はこの会の様子を追いながら、“4K HDR最後の聖地”となるプロジェクターの画質問題について考える。プロジェクターは単なる特大画面用デバイス、ではないのです。

「4K olympAc」発起人、麻倉怜士氏とデジタルハリウッド大学の杉山学長(右)

麻倉氏:今回は6月末に開かれた「第7回 4K olympAc」についてお話しましょう。「NewMedia」主催のこのイベントは、私とデジタルハリウッド大学の杉山学長がプロデュース&呼びかけをしている、映像業界の勉強会です。会は3年前から年に2回ほどのペースでやっていて、始まった頃は「4Kはまだまだこれから」といった情勢でした。HDRなどはようやく言葉が出だしたといったタイミングです。

――2年前の夏にもこのイベントの様子は取り上げています(関連記事)。あの時はHDRがテーマで「そもそもHDRって何?」という内容でした。2年でずいぶんとHDRの理解が進みましたね

麻倉氏:もはや4K HDRは映像業界では常識のレベルになりましたね。ところで、このような新フォーマットが出た時には、往々にして関連して出てくる要素はすごく多いものです。4Kに関しても単に「解像度が上がった」というだけではなく、色域、ビット数、ダイナミックレンジなど、画質にまつわるあらゆる要素が一新されています。

 画質にまつわるこの50年の歴史を見てみると、これまでは枝葉の部分は変われど大きな幹は不変という感じだったのが、4Kへのパラダイムシフトでは幹そのものが変わっています。ですが、そういう時に個々の技術理解は深く進んでも、専門分野以外のノウハウというのは開発者にとってなかなか得難いものです。そういった知恵を持ち寄りお互いのレベルを高め合う、ひいては画質という文化そのものを発展させるというのがこの会の狙いです。

 余談ですが、名前に関して“祭典”という要素を出したいところですが「オリンピック」は大人の事情でマズいんです(苦笑)。ですがそれだけではなく、さらに「pAc」でパッケージをミーニングしています。1つのテーマをさまざまな角度から検証する勉強のパッケージです。加えてこの会ではシュートアウト(一斉比較)を必ずやっており、座学だけでなく、理論がどのように実際の映像に出てくるかをフィールドワークを通して実験します。この様子が競技会に近いため、もう1つの意味としてスポーツの祭典に引っ掛けています。

イベントを主催するメディア専門誌「NewMedia」の吉井編集長

麻倉氏:そんな4K olympAcですが、今回は初の試みとしてプロジェクターをテーマに取り上げました。これまでは例えば「4Kはどのように見えるか」とかいった、直視型のディスプレイに対するテーマが多かったのですが、4年前はすでにプラズマも終息しており、メインストリームは液晶一辺倒でした。なので会でも液晶の歴史を辿り、各季節における最新鋭をメーカーから出してもらっていました。HDRの発想もプロジェクターではなく液晶テレビからです。

 ところで画面サイズと解像度には非常に密接な関係があり、正直なところ物理的に画面が小さいとそれ程の画素数は必要ありません。逆に大画面の時にこそ高解像度が必要となります。では大画面といえば何か? これはもうズバリ、プロジェクターなわけで、つまり4K、そして HDRが活用されるべきはホームシアターなのです。HDRも画面からリアリティを感じて臨場感を演出するという1つの手法であり、大スクリーンの大画面効果による4K HDRで最大の感動を与えるというのがホームプロジェクターのレゾン・デートル(存在理由)です。

――これだけ大画面テレビが普及しても、未だに映画館には一定の需要があります。それはやはり、数百インチという特大のスクリーンで観る映像の世界に家庭のテレビでは得られない感動の力があるからにほかなりませんね(もちろん音響のチカラも重要です)

麻倉氏:では、いかに各メーカーは4K HDRを活用するか。言い替えると、ソフトに込められたクリエイターの意図をどのようにスクリーン上に開放し、展開するのか。今回はそのような目的で、プロジェクターに焦点を当てました。ところがこれが大変で、特に場所の調達には難儀しました。テレビならそれなりに人を入れられる広い空間さえ用意すれば、後は置いておくだけでよかったのですが、でもプロジェクターは結構シビアなセッティングが必要です。これまではデジタルハリウッド大学の講堂や、アストロデザインさんに用意してもらった場所を使っており、液晶テレビならコレでよかったのですが、画面サイズが100インチを超えるプロジェクターでは手狭です。

――普通のホームプロジェクターの用途ではあり得ない環境ですからねぇ……

麻倉氏:今回に関しては、ニューメディアの吉井編集長のご尽力で、隅田川の辺りにある凸版印刷の本所CGビルにあるスタジオを使わせてもらうことができました。なんでもここは日本でいちばん静止画ショットを撮っていて、でもその画像はほとんど世間に出てこないのだとか。これがちょっとした物流倉庫くらいの広さがある特大スタジオで、120インチのスクリーンを複数枚張ってまだ充分に余裕がありました。

 もう1つ、プロジェクター特有の問題として反射光対策があります。壁が白いと黒浮きが出てしまいますが、イベントで使う部屋というのはだいたい壁が白いのです。ではどうするかというと、例えばアバックのシュートアウトイベントでは黒のカーテンで壁を覆い、互いのスクリーンが迷光にならないようにします。前日に会場入りしていちいち壁を黒でマスキングしていました。ですがそれにも限界があり、特に天井はなかなか手を付けられません。これが世界の黒澤監督なら「Paint it black!」の一言で解決してしまうでしょうが(苦笑)。ですが今回はこの点も恵まれていました。凸版のスタジオにある巨大カーテンで壁面を完全に黒にできました。天井ももの凄くたかいので、反射は関係ありません。シュートアウトに理想的でした。

 最後にスクリーン設置の問題で、企画立案当初は「白壁に映すか」とも言っていました。確かにイマドキは“どこでもスクリーン”といったカジュアルなシステムもありますが、さすがに業界の最先端を研究しようという画質評価のシーンでコレはないでしょう。数百万円のDACの音をiPod付属の白いイヤフォンで評価するようなものです。ここではOSスクリーンさんが大活躍しました。スクリーン屋さんというのは工具も揃っていて設置もできるので、今回はホリゾンタルを張る昇降機に木枠を付け、きっちりした環境を作っていただきました。

 OSは4K用ピュアマットホワイト「WF302」という、各メーカーが絵作りに使うリファレンススクリーンを持っていますが、これに加えて今回はHDR用の新製品を披露してもらいました。これについては後ほどお話しましょう。それがまた設置方法がスゴいんです。リファレンスのWF302を電動スクリーンで垂らし、その背後にHDR用の新製品を張る、つまりスクリーンの二重構造という非常に凝ったセッティングをしてもらいました。プロのインスタレーションは流石です。

――二重構造はかなり合理的でしたね。スクリーン比較としても実にスムーズで、分かりやすい環境だったと思います

会場となった凸版印刷の本所CGビル105スタジオの様子。120インチのスクリーンと最新の4K HDRプロジェクターがズラリと並ぶ
OSスクリーンのリファレンス「WF302」(前)と、HDR用最新スクリーン(後ろ)とを重ねた、匠の技が光るセッティング。比較時はWF302を電動で巻き取る、スムーズなオペレーション

麻倉氏:HDMIケーブルはエイム電子の協力です。元々は通信用ケーブルを手がけていて、データ伝送の信頼性を磨いてきました。ここ7、8年くらいでオーディオ用LANケーブル、USBケーブル、HDMIケーブルと、徐々にクオリティが要求されるハイグレードな民生品分野に取り組んできています。今回は長距離で高品位な伝送では世界トップクラスとなる光伝送のHDMIを使いました。これを発信するのはアストロデザインのシュートアウト用カスタマイズによる、分配器の組み合わせです。HDDレコーダーからの信号とプレイヤーからの信号を、いかに損失を抑えつつ可能な限りピュアな状態でアウトプットまで持っていくかが求められます。

 実際のところ分配器よりフォーマット進化の方が速いので、品質が求められるAVシーンでデータ損失なく分配するというのはノウハウの塊です。これまで同様のことを7回やってきましたが、以前は画が乱れたり、出なくなったりといったトラブルもありました。そういったこともだんだん克服してきています。4Kにまつわるフォーマットはまだ一定しておらず、ビット数が10bitだったり12bitだったり、フレームレートが24fpsだったり30fpsだったり60fpsだったり、色帯域が4:4:4だったり4:2:0だったりと、コンテンツによって結構バラバラです。これをスイッチャー1つで操作し、スプリッターで正確に分配するわけで、実際のオペレーションはミスなく実にスムーズでした。

――民生品では「できて当たり前」なことと思われがちですが、それが最先端のフォーマットでとなると、思わぬところで“当たり前”が崩れますね。そういった困難の末に、一般の方々が利便性を享受しているわけで、先駆者というのは何事も苦労が耐えないものです

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