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» 2017年09月09日 06時00分 公開

“低コストで良質な睡眠体験を”──常識破りのマットレス・ベンチャー「Casper」

従来的なマットレスの販売手法にITでメスを入れた、米国のベンチャー企業を紹介する。

[細谷元,ITmedia]

盛り上がる「スリープ・テック」とマットレス市場

 毎年最新テクノロジーがお披露目される世界最大級の家電見本市CES。2017年、特に注目が集まったテクノロジーの1つが「スリープ・テクノロジー」だった。いびきを止めてくれるベッドやマットレスの温度を調節できるアプリなど、睡眠に関わるさまざまなテクノロジーが登場した。

 睡眠関連市場はいま、多くの起業家や投資家たちが注目する市場になっている。市場としての伸びしろも大きい。2016年の世界のマットレス市場は263億ドル(約2兆8000億円)だったが、2021年には368億ドル(約4兆円)に拡大する見通しだ。

 このような市場の盛り上がりと、多くの起業家・投資家の参入で、新しいプロダクト・サービスが次々と誕生している。

 今回は睡眠市場のなかで、特に注目されている米国ベンチャー企業「Casper」(キャスパー)を紹介したい。これまでの常識を覆したベンチャーとして、米国ビジネス系雑誌『Fast Company』の「2017 MOST INNOVATIVE COMPANY」、ニュース雑誌『TIME』の「25 BEST INVENTIONS OF 2015」に選出された企業だ。

「Casper」の“ユーザー目線”なマットレス販売

 Casperが提供するのはマットレスを中心とした寝具だ。2014年から事業を開始、当時寝具市場では珍しかったオンライン直販モデルを採用したことに加え、独自のマーケティング手法が注目を浴びた。

 これまでの寝具市場では、ショールームに足を運んで、マットレスの具合を確かめてから購入するというのが通例だった。しかし、短時間の確認では、マットレスが自分の体質や睡眠スタイルに適合するのかを見極めるのは非常に難しい。購入してから失敗したと気付く人も少なくない。また、マットレスは品質も値段も非常に幅広く、どれを選んでいいのか分からず、ショールームの営業担当者の言いなりになってしまうこともしばしば。

 このニーズとプロダクトのミスマッチを解消しようとCasperが実施したのは、100日間のトライアルと10年保証をつけ、高品質マットレスを低価格でオンライン直販するというものだった。価格は500ドル(約5万5000円)〜950ドル(約10万円)とリーズナブル。また、オンラインで注文したマットレスは、冷蔵庫サイズのボックスで届くので、高層階や入り口の狭い部屋でも簡単に搬入できる点も好評となった。

冷蔵庫サイズのボックスで送られてくるCasperマットレス

 マットレスは費用をかければ、それなりの品質は確保できる。高級ブランドのマットレスであれば、数十万円以上のものも珍しくない。しかし、ミレニアル世代の購買行動は変化しており、所得レベルが高くても、財布のヒモは緩くない。品質を求めるが、コストはかけたくない、という消費者が増えているのだ。

 Casperはそのような層をターゲットに、低コストで品質の高いマットレスを開発。通常寝具ビジネスで利用されるサプライチェーンや製造工場を見直し、さらに小売店やショールームを介さない販売モデルを採用することで、コストを大幅に削減することに成功した。

 またユーザーからのフィードバックを取り入れながら、プロダクト改善サイクルを構築した。100日間トライアルや10年保証が、購買時の心理的障壁を取り除き、ユーザーを増やすことに成功したという。そのようなユーザーからのフィードバックを活用し、プロダクト改善を進め、さらに高い顧客満足を生み出している。100日間トライアルで、もし気に入らなければ返品することが可能だが、返品率は1桁台にとどまっているという。

Casperはマットレスだけでなく、枕やシーツなども開発している

 Casperがこのようなプロダクト改善サイクルを構築できたのは、寝具ビジネスでよくある「一度売ったら終わり」というスタンスではなく、ユーザーとともにプロダクトを改善していくというスタンスを貫いているからにほかならない。

 Casperは時折、プロトタイプの試用イベントを実施している。ユーザーたちを招待し、そこでのフィードバックをプロダクト開発に生かしている。データを提供してくれるユーザー数は1万5000人に上る。

「Napmobile(ナップモバイル)」と呼ばれるポップアップ型の寝室も各地に出張

 こうしたユーザーたちは、睡眠トラッカーアプリで収集した睡眠データをシェアするなど、睡眠に関して熱心な人々だ。Casperはこのようなユーザーたちをエバンジェリストとして、さらに多くのユーザーが参加するコミュニティーをつくることにも成功している。SNSのフォロワー数は、Facebook55万人、インスタグラム8万5000人、ツイッター11万3000人だ。

 Casperは寝具企業としてではなく、あくまでIT企業としてテクノロジーを活用し、多くの人々に良質な睡眠をもたらすことを追求しようとしている。今後もITを駆使した新たなプロダクトやサービスを展開していくという。実際、睡眠をサポートするチャットボットとの連携などを実施している。

Casperが提供するチャットボット

 2014年にローンチされたばかりのCasperだが、プロダクトの質、スマートな販売モデル、そしてなによりユーザーに寄り添ったビジネス展開が奏功し、累積売上高1億ドルを超える企業に成長した。Casperの成功で複数の競合が登場したが、これは低コストで良質な睡眠を多くのひとが享受できる「睡眠新時代」の訪れを告げるシグナルなのかもしれない。

ライター

文:細谷元(Livit)

編集:岡徳之(Livit)


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