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» 2017年12月30日 06時00分 公開

果敢なチャレンジ精神に天晴!――「麻倉怜士のデジタルトップテン」(中編) (2/4)

[天野透,ITmedia]

第6位:Auro-3D

麻倉氏:続いて第6位、イマーシブサラウンド「Auro-3D」がランクインです。ついに日本で買える機材が登場。従来はトリノフオーディオの500万円もするサラウンドプロセッサ「Artitude 32」でした。大変優れてはいますが、さすがにコレは手を出しにくい。

――価格もそうですし、プロ仕様の機材なので使いこなしも取っ付きにくいですよね

麻倉氏:対してデノンとマランツは、30〜40万円という現実的な普及価格帯の製品を市場投入しました。

 先日アバックでデノンとマランツのイベントをやり、Auro 3Dを中心に再生しました。特にガッティ・ロイヤルコンセルトヘボウの「マーラー第2番」、5分ほどあるフィナーレは、アルトとソプラノから合唱が入り、だんだん盛り上がっていくという構成です。その盛り上がり方、音量のマスが広い会場に充満する様子が体験できました。演奏的な素晴らしさとは違い、この音場的なものは、2chでは到底得られません。横だけではなく縦にも拡がる、アムステルダムのコンセルトヘボウで聴いている高揚感、場の音が織りなす音楽の感動性。それがすごく感じられ、お客さんとともに味わえました。

 Auro-3Dは、ドルビーアトモスとDTS:Xに続く“第3のイマーシブ”です。でも基礎技術の走り出しは2005年、発表は2009年のAESと、実は一番早いんです。AtmosとDTS:Xの発表はその後です。Atmos、DTS:Xは、水平サラウンドに垂直方向を加えることで縦方向の表現力を増やします。同時に音源を仮想物体として表現するオブジェクト方式で、音の軌跡を明確に出しています。

 一方のAuro-3Dは全く違います。開発したギャラクシースタジオのバーレン会長、実はオルガニストなんです。教会で弾くオルガンは、音が全体的に上へ昇って、また下ってくるという動きをします。この垂直方向の音場が、音楽再現には重要と考えているのです。それはなにも教会だけでなく、ハコを持った空間であれば必ず垂直方向に音が動く。これを如何に作り上げるかがAuro-3Dの肝です。

 音は音源、音像を中心に、周りへ広がります。この周りの音をきちっと収録するのが良いと、ギャラクシースタジオで発見したとのこと。スピーカーの配置を様々に試したところ、5.1ch上の仰角30度の位置に付けるのが一番良いようです。

 もう少し内容を見てみましょう。Atmosは初めから天井にスピーカーを配置しており、上から音が降ってくるという規格です。一方Auro 3Dは、サイド・ハイトスピーカー。つまり平面サラウンドの上にもう1レイヤー平面サラウンドを置くというイメージです。これによりチャンネルが持っている垂直性を出している、というわけです。自然な響で場の感覚を捉えることができ、これが聞いていて気持ち良いんです。音は一部ロッシーですが、基本はハイレゾのロスレスを使います。192kHz/24bitとかもできるので、音そのものの良さと音場の良さがあり、リッチな音場体験になりますね。

――AtmosやDTS:Xは音像の再現に注力するイマーシブサラウンドで、Auro-3Dは音場により注力するイマーシブサラウンド、と考えると分かりやすいですね。出自も先行する2方式がハリウッドの映画産業なのに対して、Auro-3Dはヨーロッパの音楽スタジオ。それを思うと、この方向性の違いも納得です。ちなみに業務用フォーマット「AuroMAX」はチャンネルベースとオブジェクトベースを併用するハイブリッドサラウンドだそうですよ

麻倉氏:コンテンツは初期の音楽モノだけでなく、最近は「ゴースト・バスターズ」や「カンフー・パンダ」などの映画も出ています。DTS:X/Atmosは音の方向性がハッキリ出てくる、それに対してAuro 3Dは、方向性よりも音の厚み、漂っている感じが出ます。随分と感じが違い、イベントではそれぞれの良さを感じることがハッキリ分かりました。タイトルによって上手いこと使い分けたいですね。

 今年はデノン/マランツが先陣を切りましたが、来年はヤマハ、オンキヨー・パイオニアなど、他社も追随する見込みです。それはなぜでしょう?

 話は単純で、ライセンス料が下がったんですよ。従来は“プロ向け機材を手がけるトリノフオーディオでないと払えない”くらい、ライセンス料が超高かった。それではいけないということで、デノンが欧米向け製品にまず採用しました。ですがこの時もまだ若干高かった。そのためあえて“オンラインアップデートによる機能追加”という回りくどいことをしています。

 実はこれがミソで、標準採用の場合は出荷量全数がライセンス料の対象となり、高くつくんです。対してアップデートならば、ダウンロード実数のみがライセンス料の対象となります。この手のものは必ずしも購入者全員がアップデートするわけではないので、全数プリインストールよりも安く済ませられる、というわけです。「最初はアップデートにして、ライセンス料がもっと下がったら標準機能にしましょうか」と。それが今のタイミングというわけで、そんな大人の事情があったという余談でした。

ついに普及価格帯の環境が手に入るようになったAuro 3D。ソフトも当初は音楽コンテンツに偏っていたが、最近映画作品の発表が相次いでいる。正確の違うイマーシブサラウンドを使い分ける時代がやって来る

――あのー、先生。1つ質問いいでしょうか?

麻倉氏:おや、どうしました?

――来年の追随メーカーの中にソニーの名前が挙がらなかったのが非常に気になりまして。と言うのも、ソニーは2005年に発表された「TA-DA9100ES」以来、フラッグシップクラスのAVアンプが出てきませんよね。それなりに気合を入れたクラスのものも、2012年の「TA-DA5800ES」以来、音沙汰なしです。ここ最近のAVアンプは10万円以下のお手軽モデルばかりで、愛用者としては寂しい思いをしっぱなしなのですが、果たしてソニーはAVアンプをやる気があるのでしょうか?

麻倉氏:残念なことに、ハッキリ言ってやる気はないですね。開発段階のものも含めて、私の耳にも新製品情報は入っていません。

 ソニーはAVアンプの音質において、一時は間違いなくリーダーでした。それが最近は、自らその地位を放棄しており、あまつさえ市場を見限っているという有様です。今ソニーのオーディオは好調と言われていますが、ここで言う「オーディオ」とはウォークマンやヘッドフォンなどのポータブル分野のこと。据え置きも3年ほど前にハイレゾを掲げてどーんと出しましたが、それ以来音沙汰なしです。情けない話ですが、ソニーのオーディオはポータブル偏重。それしか見る、聞くものがありません。

 特にAVアンプに関して言うと、Atmosの導入が非常に遅れてしまいました。まずはアメリカ市場から入れましたが、これはやる気の無さを明白に表している。今回のAuro-3Dに関しても音沙汰なしです。

 この取扱製品構成は、ある意味で今のソニーを体現しているといえるでしょう。問題点は“売れ筋しか作らない”こと。オーディオというのはそういうものではありません。理想を掲げてハイエンドを世に問い、そこからピラミッド的に下位モデルや普及価格帯の製品、分野へ落とし込む。こうしないとブランドとしての筋が通らず、ひいてはブランドそのものが崩壊してしまいます。

 それが今のソニーはどうでしょう? ピラミッドが作れず、単なる丘で上がありません。これはソニーマーケティングに相当問題があって、事業部(作り手)サイドはやる気があるのに、売る方に売る気がない、売れるものしかやりたがらないというのが事の真相です。これでは単なる市場追随で、市場を全く創造していません。ハッキリ言って、こんなのソニーのやり方じゃありません。一言で言うと「全くやる気無し」でおしまい。「しっかりしなさい!」と喝を叩き込まないと、いけません。

――はぁ、やっぱりそうなのか……。この連載でも何度か触れていますが、東京通信工業創設者の井深大氏が遺した設立趣意書にもう一度立ち返るべきですね。「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」「不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず」「経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する」(Sony Japan 『設立趣意書』より抜粋)。この原点に立ち返ることができる限り、ソニーは何度でも輝けると僕は信じています。逆に言えば、これを放棄した時にソニーは終わるのです。

 盛田昭夫氏と大賀典雄氏は「ソニーの最大の資産は“SONY”の四文字」と言っていたそうですが、それを字面通りに受け取ってはいけません。その四文字の奥には、設立趣意を守り続け、積み重ねてきた、カネでは決して手に入らない時間の重みがある。世界中の消費者はSONYの四文字に、理想工場や内容の充実を期待し、信頼して、今日もそのバッジが付いた製品を生活の相棒にしているのですから。そのことをよくよく考えてほしいと願って止みません。それこそ「Like no other」であり「It’s a SONY」だと、僕は主張し続けます

麻倉氏:「相棒」がAIBOになったように、復活の途はあると思います。でもすべてはリーダーシップに掛かっていますね。

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