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ソニー安藤社長、「ライバルは日本企業じゃない」2004 International CES(2/2 ページ)

» 2004年01月10日 02時44分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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ライバルは日本企業ではない

 「日本市場でも各分野でトップ、あるいはトップに近い位置にあるが、さらにアメリカや欧州を見て欲しい。圧倒的にソニーブランドが強い」と安藤氏が言うように、国内での最大のライバルと言われる松下は、米国においてAVブランドとしての認知は高くないままだ。安藤氏が強気の発言をするのも無理はない。そうした話をした上で、具体的なライバルの例としてNokiaを挙げた。

 「大量の製品を販売できる力を持っているNokiaのような企業が競争相手。我々はソニーエリクソンのブランドで、GSM市場において第3位のシェアを持っている。日本のメーカーで海外の携帯電話市場における存在感を示しているのはソニーだけだ」(安藤氏)。

 安藤氏がこう語気を強めながら話すのは、日本の家電ベンダー同士で争っている場合ではない、という気持ちが強いからなのかもしれない。

 「Samsungが携帯電話ブランドとしてここまで大きなものに成長した背景には、日本独自の携帯電話規格に追われ、NTTドコモとの協業に疲弊し、海外向け製品に力を入れることができなかったからだ。だからソニーは、Ericssonの合弁という形で海外携帯電話市場に打って出た。韓国は世界標準の携帯電話機を国内向けに開発し、それをそのまま海外に持って行ける。輸出によって成り立ってきた日本が、輸出できない製品を作ることに追われていてはうまく行くハズがない。

 FOMAになれば世界共通のW-CDMAになるが、世界標準とは多少違う部分もあり、海外で日本のメーカーが力を発揮できる環境にはない」。

 そう話し、「米国でのHDTV市場の急速な立ち上がりなども含め、デジタル技術を背景に家電業界は盛り上がりを見せている。そろそろ、日本の家電が復権し、世界経済をドライブするぞ、なんて話を言い始めてもいいのではないか?」と続けた。

 ライバルとしてのSamsungをどう見ているか?という質問に対しては「日本のどの家電ベンダーよりも大きなライバルだと考えている。ロシア、中国、東欧など、新しく立ち上がっている成長市場では、ことごとく強い存在感を示している。韓国製品は安かろう、悪かろう、なんて事を今でも言う人がいるが、とんでもない。Samsungはデザインにも優れた製品を、きちんと高い値段を付けて売り始めている。すごい強敵だ。ソニーが一番警戒しているのは、SamsungやLG」と応えた。

 国内で争っている場合ではない、ということか。

ネットワークAV家電の展望

 安藤氏に話を伺う前日、Microsoftのビル・ゲイツ氏はWindows XP Media Center Editionを中心にした、ホームAVネットワークの構想を明らかにした。マイクロソフトの提供するソフトウェアを組み込めば、誰もが簡単にネットワークで繋げ、連携した使い方が可能になる。この製品はUniversal Plug&Playを基礎にしたホームネットワークにおける機器間相互運用を高めるDHWG(Digital Home Working Group)の仕様にも準拠している。

 「MicrosoftもIntelも、我々がIP over 1394でホームネットワークの研究開発を行っている頃、彼らも一緒にやりたいと言ってきたのが始まり。これが現在のDHWGに繋がっている。DHWGの最初のメンバーはソニー、Intel、Microsoftの3社だった」(安藤氏)。

 昨年のCES、オープンな規格で各社の製品が繋がる必要があることを説いた安藤氏だが、その後、発表された成果のひとつがDHWGだった。DHWGの仕様に準拠すれば、ホームネットワークを通じ、機器ベンダーの枠を超えた接続、操作が行えるハズだった。しかし現在、その構想は(成果がないとまでは言わないものの)頓挫している。なぜなら、動画や音声をネットワーク上でやりとりするためのコーデックについて、スペックが曖昧なものになってしまったからだ。

 その結果、DHWGに準拠していれば“繋がる”が、“コーデックが一致しなければ再生できない”という、エンドユーザー側から見ると中途半端なモノになってしまったことは否定できない。たとえば上記、Microsoftの技術を組み込んだ製品(Media Center Extender)は、コーデックとしてWindows Mediaを使うことが基本となる。しかしWindowsに支配されたくないベンダーは、Windows Mediaを採用しない。安藤氏も「家庭内をネットワークで結ぶ時にMicrosoftの技術は使いたくない」という。

 当時の取材状況を振り返ると、DHWGはホームネットワークを中心とした新しい家電の環境を作るには不可欠な組織ということで各方面の認識は共通のものだった(現在も状況は変わっていない)。ところが、とある1社が、重要な点について意義を唱え、旗振り役だったソニーが大きく譲歩する形で設立に漕ぎ着けた。当時、詳細の経緯についてはわからなかったが、その“譲歩”について安藤氏は次のように話した。

 「ソニー、Intel、Microsoftの間で、ほぼ合意に達していた。しかし土壇場になって、Windows Mediaをコーデックとして選択できるようにしないならば、DHWGには参加しないと言い始めたため、コーデックの標準化を行えなかった。DHWGの会合でも、細かな使い勝手や接続性を上げるための提案が議論されても、Microsoftはなかなか乗ってこない」

 ただ、コーデックさえも統一されていない現状では、異なるベンダー間のシームレスな接続性など夢のまた夢だ。いや、自社製品のネットワーク対応において、Microsoftと組んで手軽にホームネットワークの一員となることの方が重要と考えるベンダーもあるだろう。ネットワークの中で相互運用性を高めるためには、ゲイツ氏が講演で話した通りソフトウェア技術が肝要だからだ。自社でホームネットワークシステムの基盤を構築できないベンダーは、Microsoftと手を組んだ方がいい、という部分もある。特にSamsungなど韓国ベンダー、それにIT業界から家電世界に参入しているベンダーは、そうした選択肢を取る可能性が非常に高い。

 日本の家電ベンダー間だけでも、現在のDHWGよりもタイトな統合を可能にするため、CODECなどの面で“落としどころ”も必要になる。「どのベンダーも、それが必要なことはわかっている。落としどころはきっと見つかる」(安藤氏)と言えるのも、骨抜きになったとは言えDHWGの発足を迎えることができたからだろう。

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