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事件現場で活躍するウェアラブルコンピュータ

» 2004年06月04日 14時33分 公開
[IDG Japan]
IDG

 街の向こうの高層ビルで火災警報が鳴り響く。ハイテクで武装した消防士は消防車に飛び乗り、ハンズフリーのフラットパネルモニタに、現場までの最短経路、通常はそのビルに何人の人間がいるか、ビルに置かれている資材の種類、最寄りの消火栓、ビルの構造を尋ねる。

 「われわれには重要な地域情報がつまった3穴バインダーがあるが、それはこんなに厚い」とバージニア州ロウドーン郡のボランティア消防士、エリック・マイト氏は、指を数インチの幅に広げながら語る。「この技術により、この情報を実際に持って行けるようになった」

 このポータブルデータベースは、今週ワシントンでHomeland Security Summit and Expositionの一環として開催されている第8回International Conference on Wearable Computing(ICWC)で展示されているウェアラブル機器の典型と言える。この種の機器の多くは、救急当局向けに設計されている。

現場ですぐに対処可能に

 こうしたハンズフリーデバイスは、世界中の消防署、警察、学校警備、さらに最近では船舶検査官に利用されている。

 「最初のモデルは沿岸警備隊向けに開発された」とICWC参加ベンダーの1社Anteonのエンタープライズソリューション開発者ジム・トゥーテル氏は語る。同氏はAnteonの製品について、キヤノンのカメラにウェアラブルコンピュータをつなぎ、GPSとワイヤレス機能を装備したものだと説明している。「沿岸警備隊は、原油の流出など進行中の問題を追跡する手段を求めていた」

 Anteonは、ウェアラブルコンピュータの特許をいくつか保有するXybernautと提携し、GPS技術と写真の撮影・転送機能を組み合わせて、ほかの場所にいる監視者が写真の場所をピンポイントで特定できる携帯デバイスを設計した。

 「実際に問題となっているのは、現場で事件が起きたとき、そこにいるスタッフが対処に必要な専門知識をすべて持っているわけではないということだ。この技術により、現場にいるスタッフは画像を送って、すぐに専門家のアドバイスを受けられる」(トゥーテル氏)

 このデバイスは米太平洋艦隊の現場での問題対処のやり方を変えたと、Xybernautの広報担当マイケル・ビンコ氏は語る。

 「通常は船を港に戻して、資格を持った人物が対処してくれるのを待たなくてはならなかった。今は写真を撮って、それを24時間待機している高度な技術者に送れば、問題を解決できる」(同氏)

 ほとんどのユーザーは依然として静止画像と電話回線を利用しているが、ストリーミングビデオも扱えるとビンコ氏。トゥーテル氏は、ビデオは通常よりも大きな帯域を必要とすると指摘し、「さらに帯域が使えるようになるまでは、この技術は使えない」と付け加えた。

SWATチームの支援も

 Xybernautの最も一般的なウェアラブルコンピュータ「MA V」は、IBMのThinkPadと同じアプリケーションを実行できる携帯デバイスだとビンコ氏は説明する。このデバイスは防弾チョッキに組み込まれることが多く、また消防士が利用しているポータブルデータベースの基盤にもなっている。

 MA Vは防護服のサイドポケットに装備される。アクセサリのフラットスクリーンはフロントポケットに収まり、簡単にアクセスできる。現場の隊員はこのスクリーンを引き出して、ビルの見取り図などを閲覧できる。例えば人質事件の場合、警察は建物の見取り図だけでなく、ドアの開く方向も把握できる。

 ビンコ氏によると、コロラド州リトルトンの当局は、1999年のコロンバイン高校銃撃事件の時、このソフトとデータベースを導入していなかった。しかしこの事件の後、多くの学校が将来の事件に備えてこうしたツールを導入したという。コロラド州、サウスカロライナ州、バージニア州などがこうしたデータベースを維持している。

 Xybernautのウェアラブルコンピューティングシステムは、Tactical Surveyのソフトと組み合わせて、緊急時に役立つ詳細な情報を提供することができるとビンコ氏は語る。救急隊員は、電気設備、構内放送システム、加熱炉などのインフラ情報を探して、緊急時の通知や事態の掌握に活用できる。

 「SWATチームが常に抱いている最大の疑問は『ドアの向こうに何があるのか?』というものだ。このデバイスと技術があれば、ドアが左に開くため、部屋に入ったときに左側が死角になるといったことが分かる。あるいは、赤いパイプがボイラーであることが分かったりもする」とビンコ氏。MA Vの価格は防弾チョッキなしで約2500ドル。

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