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» 2004年08月02日 10時44分 UPDATE

実現に近づく「曲げられるディスプレイ」

台湾の国立研究所では、既に柔軟性のある「フレキシブルディスプレイ」の試作品ができ上がっている。2年以内には、小さな看板や腕時計といったニッチ用途向けディスプレイを商品化できる見通しだ。(IDG)

[IDG Japan]
IDG

 台湾工業技術研究院(ITRI)の研究員によれば、フラットパネルディスプレイ技術の革新の加速により、柔軟性のある「フレキシブルディスプレイ」の開発が早まりそうだが、フルカラーの大型フレキシブルディスプレイが市販されるようになるまでにはまだ10年近くかかるようだ。

 (ITRI傘下の)政府系研究開発組織、台湾電子工業研究所(ERSO)では、研究者たちが今日のフラットパネルディスプレイに使用されている硬いガラス基板の代わりに、フレキシブルポリマー基板、TFT(薄膜トランジスタ)液晶、OTFT(有機薄膜トランジスタ)技術を基盤としたディスプレイ開発に取り組んでいる。

 この開発プロジェクトは世界のディスプレイ業界を揺るがすものになり、フレキシブルディスプレイを装備したさまざまな新しい家電製品に門戸を開くことになると、台湾の新竹(シンチュウ)にあるERSOフラットパネルディスプレイ技術部門次長、李正中(Cheng-Chung Lee)氏は語る。

 ITRIの研究開発プロジェクトでは、既にフレキシブルディスプレイのワーキングプロトタイプが出来上がっており、7月27日にERSOを訪れたジャーナリストに披露された。このプロトタイプは昨年、OTFT技術を基盤として開発されたもので、まだ基礎段階にあるため、ディスプレイに映し出される画像を変えるドライバチップは搭載されていなかった。代わりに、ポリマー基板には「ERSO ITRI」と描かれたシンプルなパターンが印刷され、ディスプレイのスイッチが入るとこの文字が見えるようになっており、基本コンセプトが機能することを実証していると李氏は説明した。

 「将来的には、電子回路をフレキシブル基板に載せることが可能になる」と話す李氏は、ドライバチップ、メモリ、無線ネットワーキングチップを将来のフレキシブルディスプレイに取り込む計画を概説した。

 ITRIで進められているフレキシブルディスプレイ技術の開発は、台湾フラットパネル業界の将来に多大な影響を及ぼす可能性がある。既に世界で最大規模、かつ最先端の1つに数えられている同業界は、今なお急成長を続けている。

 1973年に設立されたITRIは、台湾のハイテク製造業界の発展に重要な役割を果たしてきた。例えば、世界2大半導体製造請負企業のUnited Microelectronics(UMC:聯華電子)とTaiwan Semiconductor Manufacturing(TSMC:台積公司)はともに、ITRIから独立企業としてスピンオフされた。

 今日、ITRIとその4700人の研究者は、新興企業の育成のほか、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、光ディスク、フラットパネルディスプレイ、半導体などさまざまな分野において国内の新技術開発を率いており、台湾ハイテク業界における重要な研究開発センターとして機能し続けている。これら開発技術の多くは、最終的に台湾の企業に移管あるいはライセンス供与される。

 ITRIでは1年間で約10%の人員が入れ替わっており、独立起業や台湾系大手ハイテク企業のポストを狙う研究者のための優れたトレーニング機関の役目も果たしている。

 ERSOのフラットパネルディスプレイ技術部門では、181人の研究者がLTPS(低温ポリシリコン液晶)、TFT、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)、CNT-FED(カーボンナノチューブ電界放出ディスプレイ)、フレキシブルディスプレイなどのディスプレイ技術に取り組んでいると李氏。フレキシブルディスプレイ開発には現在約60人が携わっているが、来年には90人に増える計画で、ITRIがいかにこの分野に注力しているかを反映していると同氏は言い添えた。

 ITRIでは、これら研究開発の取り組みが成果を上げることに期待している。現在の見通しでは、例えば向こう8年から10年以内に、ペンの中に巻き込むことができるフルカラーフレキシブルディスプレイの試作版を開発できるという。ただし小さな看板や腕時計といったニッチ用途向けディスプレイは2年以内に商品化できるだろうと李氏は説明する。

 こうしたニッチ用途向けにフレキシブルディスプレイの製造を開始することは、製造プロセスの改善の一助になるとともに、TVなどもっと先進的な製品の開発基盤を築くことになるという。

 ただしITRIは、フレキシブルディスプレイ技術を開発する唯一の企業というわけではなく、必ずしも最先端を行っているわけではない。今年5月には日本放送協会(NHK)が、NHK放送技術研究所が開発中のフレキシブルディスプレイの試作版を披露した。この試作版は厚さ1ミリメートル未満、カラー対応でシンプルなスクロールテキストの表示が可能。

 ほかの組織でも、同じようなディスプレイの開発が進められている。今年2月、米陸軍は、Army Flexible Display Centerの設立でアリゾナ州立大学に4370万ドルを支給した。同センターは、兵士が戦場に携帯できるフレキシブルな省電力コンピュータディスプレイの開発に注力すると、同大学は説明している。

 オランダのKoninklijke Philips Electronicsもフレキシブルディスプレイ技術を開発中だ。今年1月、Philips Technology Incubatorの社内プロジェクトPolymer Visionが、Philips Researchが開発した技術を用いて 有機ベース5インチQVGAアクティブマトリックスディスプレイ(320×240ピクセル)の製造に成功したと発表した。解像度は85dpi(1インチ当たりのドット数)、湾曲半径(スクリーンを壊さないで曲げられる最小半径)は2センチ。

 この技術を基に、Polymer Visionは携帯電話と併用できるフレキシブルディスプレイの開発に取り組んでいるという。使わない時はディスプレイを巻いてしまっておき、使用時はディスプレイを広げてBluetooth対応携帯電話に繋ぐことで、ユーザーは携帯電話のス画面よりも大型のディスプレイを使えるようになる。

 フレキシブルディスプレイは、日常着の中に取り入れられる可能性もある。先月には仏France Telecomが、Tシャツなどの衣服に取り込めるLEDベースのフレキシブルカラーディスプレイのデモを行なった。このディスプレイをBluetooth対応携帯電話に接続し、ユーザー間でMMS(マルチメディアメッセージサービス)を介して画像やアニメーションを共有することが可能だと同社は説明した。

 このディスプレイは現在、フランス国内で試験的に利用されている。

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