オタク層を「市場」と見た場合、高い購買力に加え、マーケティング面での魅力もある。オタクが新製品を受け入れる能力は並外れて高いためだ。
「ITの進歩は早すぎて、一般の人は新商品を理解できない」(北林さん)。IT関連の新商品について一般の人にアンケートやモニター調査しても「分からない」「いらない」という答えが返ってくるばかりだという。
一方、オタクは新技術を一番初めに“自発的に”試してフィードバックしてくれる。例えばデジタル家電の本命に成長したHDDレコーダー。これはアニメやアイドルの動画を保存したいオタクが、自作PCにチューナー&キャプチャーカードを組み込んでレコーダー化したのが起源とも言える。
先端的な商品は、まずオタク市場に先行投入し、消費の仕方を観察。その後、一般コンシューマー向けの改良を加えてマス市場に投入する――こういったマーケティング手法が、実効性を持ち始めたという。
“オタクマーケティング”で重要なのは、オタク独自のアレンジやパロディーを推奨することと、ユーザー間の情報交換を奨励すること。オタクがどの点を受け入れ、どの点に不満を持ったかをよく観察することが、次のヒット商品の芽を見つけることにつながるという。
「ネットがなかった時代は、地方に住む人はカメラオタクになれなかった」(塩野さん)。オタク市場確立の大きな要因は、インターネットだという。ネットショッピングやオークションで、どこに住んでいてもレアアイテムが手に入る時代。オタクのハードルは大きく下がった。
ネットによるコミュニケーションも、オタクが“深みにはまる”要因だ。ニッチな分野でも、ネットなら簡単に共感者を見つけられ、掲示板やメール、チャットなどで手軽に情報交換できる。コミュニケーションを通じて刺激し合いながら、どんどん深みに引きずり込まれていくというサイクルができているという。
「オタクの増加率が高いのは、ネットに親和性の高い分野」(守岡さん)。ゲームやアニメ、PCといった分野のオタク人口が伸びている一方、ネットユーザーがそれほど多くないと考えられる、切手や鉄道といったクラシカルなオタク分野は、目立った伸びは見えないという。
数十年前と比べて生活が豊かになり、購買力があがったことや、商品ラインアップが増えたことも、オタク人口増の要因の一つだ。
「以前も『サユリスト』と呼ばれる吉永小百合さんファンなど、アイドルオタクに近い人はいたが、彼らはオタクになれなかった」(守岡さん)。経済力が上がったのに加え、数万円するDVD BOXなど高価なマニア向け商品が流通し、買うべきものができたことが、オタク市場形成に一役買っている。
オタク市場がふくらむかどうかはわからないと、研究員は口をそろえる。ただ「オタク市場への新規参入は少ない」(小林さん)ため、急激に増えることはなさそうだ。
例えばアニメ分野の場合、各作品のオタクが地層のように重なり、交わることは少ない。1stガンダム世代(30代)、ドラゴンボール世代(20代)……と、一定の世代がある層を作り、次の世代は別の層を築く。
加えて、少子化が進んでいるため、新しくオタクになる子どもの母数が減りつつある。オタク市場全体の先行きは決して明るくない。
ただ、親子でそろってアニメを見たり、親がコミケに子どもを連れて行くなど、世代を超えた交流も始まりつつある。また、1分野のオタクになった人が、他の分野に手を出すことも多い。オタク層が増え、市場が広がる可能性も、決して低くはないようだ。
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