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「NTTに投資リスクはない」――孫社長、光ファイバー開放義務撤廃要請に反論

» 2004年12月21日 21時31分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 ソフトバンクBBの孫正義社長は12月21日会見を開き、NTTが光ファイバー開放義務撤廃を求めていることに反論した。NTT側が投資リスクの高さに反して見返りが低すぎると主張しているのに対し、「NTTのリスクは全くない」と主張。「通信を独占してきたNTTがインフラを整えるのは当然」との持論を展開し、開放を継続すべきだと訴えた。

 NTT東西地域会社は光ファイバーを、自社サービスに利用する場合と同じ条件・料金で他事業者に貸し出すことが義務付けられている。NTTの和田紀夫社長はこの義務の撤廃を主張し、貸し出し料金を事業者同士の交渉で決められるようにするよう求めている。

 ソフトバンクBBは12月から、NTTの光ファイバーを借り受けてFTTHサービス「Yahoo!BB 光」をスタートした。NTTの開放義務が撤廃された場合、光ファイバー利用料金が値上がりする可能性が高く、経営への打撃は大きい。

「開放義務が撤廃されれば、NTT独占の暗黒時代に戻ってしまう」と孫社長

「NTTに投資リスクは全くない」

 NTTは、同社がリスクをとって光ファイバーを敷設しているのに、他事業者がノーリスクで同社の回線を利用できるのはおかしいと主張している。これに対して孫社長は「NTTに投資リスクは全くない」と断言する。

 根拠は、昨年2月の情報通信審議会の答申だ。これによると、光ファイバーの需要が予測と大幅にかい離した場合、回線貸し出し料金の見直しを行うとしている。「採算割れしたら料金見直しをしてもらえるのだから、投資リスクはない」(孫社長)。

 現在の貸し出し価格は原価を割っているというNTTの主張にも反論する。「今の価格は、2001年度の敷設スタートから7年間の平均コスト。途中までは原価割れするのは当然だ」(孫社長)。

 回線の光化は長期的にはNTTの収益アップにつながる。「光ファイバーは銅線よりも劣化が少なく、維持費用が安価なため、コスト削減効果がある」(孫社長)と、投資額だけを切り取って採算割れを主張するNTTに反論する。

 NTTの光回線のシェアは現在65.7%。2010年までに3000万回線を光化する計画を発表しているが「3000万も光化するならボリューム効果が働く。回線単価は当初価格より安くなっていいはずだ」(孫社長)と、さらなる値下げも求めた。

 「NTTの投資の元本は、電電公社時代から徴収してきた電話加入権料など国民負担」(孫社長)。国民負担を次世代インフラ整備に振り向けるのは当然だと主張する。

 NTTが光ファイバーを開放できないというのならば、回線敷設専門の会社を新設する必要があると、孫社長は持論を展開する。「光ファイバーは道路のような公共物。各事業者が公平に利用できるようにする必要がある」(孫社長)。

「自前で敷設は不公平」

 孫社長は「NTTと完全に同じ条件で新線を敷設できるというなら、自前で回線を敷いてもいい」と話すが、現状では不可能だという。電柱や管路の利用はNTTに有利な仕組みになっており、新規事業者に不利なためだ。

 例えば、電柱の利用はNTTの利用計画が優先され、空きがある場合のみ他事業者が利用可能。既存の電柱架線は大部分をNTTが独占しており、残りを電力会社やCATV会社などがシェアする形。新規に参入できる余地は少ない。

 さらに、新規事業者は電柱1本ごとに申請書類が必要。全国規模のサービスを構築するには、全国2万5000本分の申請書類が必要で、手続きが煩雑すぎるという。

 電力会社などが自前で新線を敷設してることに関しては「電力会社は電力で十分な利益をあげており、光ファイバーは余剰体力で行っているだけ」と、通信専業企業とは比較できないとした。

アメリカでは開放義務が撤廃されたが……

 アメリカでは電話会社の光ファイバーの開放義務が撤廃されており、日本もそれに倣うべきだとのNTTの主張にも反論する。アメリカと日本では状況が違いすぎるため、そのまま比較すべきではないという。

 この日来日して講演した米国連邦通信委員会(FCC)のロバート・M・ペッパー通信政策局長によると、アメリカのブロードバンドサービスの主役はCATV業者で、6割のシェアを占める。DSLシェアは残り4割だけで、電話会社は「弱者の立場にいる」(孫社長)。この状況でも、開放義務が撤廃されたのは回線全体の8%だけだという。

 一方、国内では、DSLを利用したブロードバンドサービスが全体の74.2%(総務省調べ、今年8月末時点)と多数を占め、ほぼすべてがNTT回線を利用している。「NTTが完璧に弱者になった後なら開放義務を撤廃してもいいが、独占企業である限り、撤廃はありえない」(孫社長)。

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