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» 2005年02月02日 19時48分 UPDATE

「一太郎」判決の衝撃 (2/2)

[小林伸也 岡田有花,ITmedia]
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争点2──「進歩性」

 ジャスト側は今回の訴訟で、「松下の特許は、当時の刊行物などを読めば容易に着想できるため進歩性がない」とし、特許の無効を主張。特許取得以前に発行された書籍などを証拠として提出した。

 提出したのは(1)キーボード上の操作説明キーと機能キーを連続して押すと、機能キーの操作説明が表示される仕組みに関する先行特許(1986年登録)、(2)キーボードの各キーに対応したボタンを画面上に表示し、画面のボタンをクリックすれば、キーボードをタイプした時と同じ結果が得られる技術の紹介記事(1986年発行の書籍から)――など。(1)と(2)を組み合わせれば、特許内容は容易に発想できたとジャストは主張した。

 しかし判決は「画面上のキーが現実のキーと対応している(2)の場合と異なり、アイコンは現実のキーと必ずしも対応しないため、当時の時点で簡単に着想できたとは言えない」とし、すべてを退けた。

既存ユーザーへの影響はなし

 裁判所はジャストに「一太郎」「花子」の製造・販売の中止と製品の廃棄を命じる判決を言い渡したが、仮執行宣言は見送っており、ただちに販売停止にはならない。仮執行宣言の見送りについては「相当ではない」としたのみで理由は明らかにされていないが、裁判所が影響の大きさを考慮したのでは、という見方もある。

 最新版の「一太郎2005」「花子2005」も予定通り2月10日に発売する。仮に販売停止が確定しても、既存ユーザーはこれまで通り利用できる。

 ジャストは今回の判決を、「当社の見解と大きく異なる」とし、控訴して抗戦する方針だ。

経営への影響

 判決があった2月1日、ジャストは2004年度第3四半期の連結決算を発表。民間・自治体向けライセンス製品の販売などが計画未達となり、売上高68億2000万円に対し16億4700万円の経常損失、9億5600万円の純損失を計上した。

 同社は企業システム系事業の拡大を進めているが、一太郎と花子は前期に半分弱の売り上げを稼いだ大黒柱。特に自治体系では一太郎が広く普及しており、判決が販売に悪影響を及ぼした場合、業績悪化も懸念される。

 同社は投資家向けに「『2005』は予定通り発売するため、今期業績への影響はない」と呼びかけたが、2月2日の市場では四半期決算の不調と判決のショックから同社株式は売られ、前日比ストップ安(100円安)の500円となった。

狙われたソーテック

 今回の騒ぎから、カシオ計算機による「マルチウインドウ」訴訟を思い出す関係者は多い(関連記事参照)。「PCディスプレイ上に複数の画面を重ね合わせて表示する発明」についてカシオが特許権を主張し、この機能を持つWindows OSを搭載したPCを販売して特許権を侵害したとして、ソーテックを訴えた。

 松下、カシオとも標的にしたのはソーテックだった。ジャストは訴訟で「ソーテック以外にもNECや日立製作所が製品をプリインストールして販売していたが、松下は他のメーカーに比べ訴訟対応能力に劣ると思われるソーテックのみに警告書を発した」と非難した。

 例えWindowsが各社の特許を侵害する機能を搭載していたとしても、ここで公正取引委員会がメスを入れた「特許非係争条項」が生きてくる。また大手電機メーカーを相手取るとしても、ライバル企業とはいえ何らかの取引関係があるのが普通で、訴訟能力も考慮すれば敵に回すのは得策とは言えまい。そこで新興の独立系メーカーだったソーテックが狙われた──という想像もできる。

 いったん勝訴というお墨付きを得られれば、後は各社にライセンス契約を申し入れるだけでいい。リスク管理に敏感なメーカーであれば、これを受け入れる可能性は十分にある。普通なら8年で償却され、紙くず同然となる休眠特許が小銭を生み続けてくれる。知財部門のお手柄というわけだ。

 国を挙げてプロ・パテントのかけ声がかかる中、各社は休眠特許の“虫干し”を進めている。同種の訴訟が減ることはなさそうだ。

ソフトウェア特許をめぐって

 松下はジャストに対し、1995年からライセンス契約を申し入れていたという。だがジャストは「同技術はWindowsに標準搭載されている機能を利用したもので、松下の特許権を侵害していない」としてこれを拒否していた。

 判決を受け、著名なプログラマーが松下製品の不買を表明するなど、開発者サイドにも波紋が広がっている。ITmedia編集部に意見を寄せたある読者は「知財保護の必要性は認めるが、すでに一般化した技術についても特許出願する例があり、開発者の手足をしばるような状況になることが懸念される。中小零細企業ではソフトの開発に手一杯で、法務にまで十分な人材も手間も資金も回せない。こうした訴訟が相次ぐと、開発意欲を萎縮させかねない」と批判する。

 ソフトウェア特許をめぐっては、Linuxに対するMicrosoftの攻撃や、相次ぐサブマリン特許の“浮上”で世界的な議論になってきている。

 欧州連合(EU)はソフトウェア特許の法制化の動きを進めているが、これに対しLinux開発者のリーナス・トーバルズ氏が「ソフト特許案は欺瞞的かつ危険で民主主義に反する」と反対を表明。特にMicrosoftを警戒するオープンソース系企業が反発姿勢を強めている。「ソフトの作者は著作権法で十分保護されている」が反論の骨子だが、「ソフト特許は『強者の法律』を確立するもので、公正どころか不公正な状況が作り出されてしまう」と懸念している。

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