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残る製品、消える製品……Adobeの今後を考える

» 2005年04月21日 17時18分 公開
[IDG Japan]
IDG

 4月18日、朝起きてコンピュータの電源を入れ、受信ボックスの中に「AdobeがMacromediaを買収」という見出しを見たとき、私は単に「遅めのエイプリルフールか?」と思っただけだった。しかし、New York Times、AdobeとMacromediaのWebサイトをチェックしたところ、34億ドルの買収が本当であることが確認された。すべて計画通りに行けば、秋にはMacromediaはなくなり、Adobeはグラフィックデザインアプリケーションばかりでなく、相補的で競争力のあるプログラム一式を手にすることになる。Adobe Flashの誕生だ。

 この合併が2社の将来にどのような意味を持つかは、もちろんまだ分からない。Adobeの公式方針はかなり漠然としており、企業がよく言う、聞こえのいい、落ち着かない気持ちにさせる言い回し――「より大きなシナジー」「より優れたワークフロー」「もっと幅広いソリューション」――に充ち満ちていた。シャムの王を演じたユル・ブリンナーが「エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ」と言ったように。

 戦略的、長期的な視点で見ると、この買収は競争相手を乗っ取ったり、競合するプログラムをつぶしたりすることが目的ではない。AdobeがインターネットアプリケーションとWeb経由での情報配信という成長市場で足がかりを得ることが目的だ。Adobeはグラフィックスアートの世界で圧倒的なプレゼンスを持っている。Fortune 500社のデザイン部門で、Adobe製品を使っていないところなどないだろう。そして電子文書のデファクトスタンダードであるPDFは(米国の税申告書の)1040フォームに使われるほど普及している(もちろんこのフォームは米内国歳入庁からPDF形式でダウンロードできる)。

 しかし、ビデオ製品を除くと、Adobeの技術のほとんどは「オールドメディア」と静止した印刷物の世界に縛られている。彼らは既にこの市場をとらえた。今はそこから進むときだ。

 一方Macromediaは、ほとんどのリソースをWebデザインアプリケーション(Dreamweaver、Fireworks)、オンラインWeb会議・プレゼンテーション(Breeze)、サーバベースWebソリューション(Cold Fusion、JRun、Flex)、そして至宝たるFlashといった動的なメディアに投じてきた。

 Flashがなかったら、おそらくAdobeはMacromediaの買収に関心を持たなかっただろう。初めはただのアニメーションプログラムだった技術は、Web中のデータにアクセスでき、データベースの読み取り・更新が可能で、複雑なWebアプリケーションのフロントエンドの役目を果たし、さらにはWebブラウザのくびきを離れてデスクトップから実行できる強力なリアルタイム配信ツールへと変化した。この数年、Macromediaの開発とマーケティングのエネルギーのほとんどは、Flashを「リッチインターネットアプリケーション」(ぴったりの業界用語だ)として推進し、マニア向けのFlashプログラミング環境「Flex」や、Mac OS X 10.4のDashboardに似たFlashベースデスクトップツール「Central」のような関連する(知名度が劣る)技術を生むことに振り向けてきた。

 Adobeがアート分野の寵児なら、MacromediaはIT世界の新進スターだ。これがAdobeがほのめかした「シナジー」だ――左脳と右脳が宇宙を支配する(あるいは少なくともMicrosoftに対抗しようとする)のだ。

 しかし、この高レベルの企業戦略は、Photoshop、Fireworks、DirectorなどのAdobeとMacromediaのアプリケーションのユーザー――日々の仕事にこれらのプログラムを使っている大衆――にとってはあまり慰めにならない。ニュースグループは、これら2社とその製品に関する予測で盛り上がっている。どちら側のユーザーも当然心配し、自分のお気に入りの製品、特にFreehandとIllustrator、DreamweaverとGoLiveのように直接競合する製品がどうなるのかを知りたがっている。Adobeが長い間2つの作図ソフトと2つのWebデザインプログラムを提供し続ける可能性はなさそうだ。

 Adobeは競合するプログラムの機能を統合しようとするかもしれない。私は既に、新しい製品名の案を幾つか目にしている。「GoDream」とか「PhotoWorks」とか、私が気に入ったのは、スーパーWeb&プリントデザインプログラムの「Sortaworks」という名前だ。あるいは、Adobeは自社の製品と競合するプログラムを捨てる可能性もある――さらばだ、Freehand。

 懸念や破滅の予言は聞かれるものの、今後を予測するには明らかに時期尚早だ。2社とその製品の今後を口にする人はいるが、そうした人たちは皆、本当は自分が何を言ってるのか分かっていない。そういう訳で、ここで2社とその製品の今後を予測してみよう。

  • 生き残ったMacromediaの製品はすべて模様替えされるだろう。Adobeの洗練されたユーザーインタフェースが標準になり、Flashはいずれ法的な制約から自由になる。

  • Freehandは廃止される。Illustratorは既に頂点に立っており、これら製品のコードを統合するのは手間がかかりすぎる。

  • Dreamweaverは最高に隆盛を誇っており、GoLiveはもはやないも同然だ。Dreamweaverは支配的なシェアを持ち、(良かれ悪しかれ)2つの製品のうち、より「プロフェッショナル」だと思われている。とは言え、DreamweaverをAdobe Creative Suiteにシームレスに統合するのは難しいだろう。

  • Fireworksは緩やかに消えるだろう。PhotoshopはAdobeの花形であり、ベクター指向のFireworksはPhotoshopのワークフローに合わない。

  • Adobe ReaderはFlashプレーヤーを取り込み、FlashプレーヤーはAdobe Readerを取り込むだろう。

  • Director? 何それ?

  • InDesignはQuarkに売却される。いやいや、ただの冗談だ。

 Adobeが買収を完了するまでには、たくさんの書類仕事と法務が必要になるため、2社が合併した企業が現れるのは秋以降くらいになるだろう。当面はいつも通り、2社は別々の企業のまま、製品ラインもこのままだ。Creative Suite 2のマーケティングは全力で展開されると私は確信している。さらにAdobeによると、年内リリースが予定されているMacromediaのStudio MXの新版に影響はないという。

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