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AppleとIntel、30年にわたる数奇な関係(前編)(3/3 ページ)

» 2005年06月20日 06時15分 公開
[林信行,ITmedia]
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そして、PowerPC連合へ

 Appleは、このスタートレック計画の後、IBMと固く手を取り合って、Wintel(Windows+Intel製ハード)打倒とPowerPC普及に精を出し始める。「PowerPC Reference Platform(PReP)」や「Common Hardware Reference Platform(CHRP)」というWintel対抗のオープンなパソコンハードウェア仕様までIBMらと共同で策定している。

PowerPCとPentiumは1993年に発表された PowerPCとPentiumは1993年に発表された(WWDC 2005のジョブズ基調講演に招かれたオッテリーニ)

 いったい、スタートレック計画に何があったのだろう。これについてはいくつかの説がある。

 スタートレック計画が始まった頃には、既にAppleはIBMと手を組み、(主にPinkという次世代OSのプラットフォーム用として)PowerPCというCPUを開発する計画を発表していた(すぐにモトローラもこれに加わった)。

 そんな頃、スキー休暇を楽しんでいた「Macintosh IIfx」チームの1人が、PowerPCが十分に高速なら、68000系CPUの動作をエミュレーションできるはず、と言い出して、その開発を始めた(初代PowerMacintoshプロダクトマネジャー、ジム・ゲーブル談)。実際、完成したエミュレーターは、かなり高速で、PowerPC上で、ほぼそのままの手を加えない(68000用の)Mac OSが動くことがわかり、PowerPCが、Pink OSだけでなく、MacのCPUとしても使えることが明らかになってきた(実際、これと前後して、PowerPC版Mac OSの開発が始まっていたようだ)。

 それまで宿敵と思われていたIBMと、大々的に提携劇を打って出たApple首脳陣の中には、「Intel製CPUに入れ込んでしまったら、PowerPCの立場がどうなるのか」という懸念もあったようだ。さらに、Appleは当時、既にいろいろな研究開発で、膨大な資産を食い尽くしており、開発費的にもスタートレック計画かPowerPC版Mac OSか、どちらか1つに絞らざるを得ない状況に追い込まれていた、とも言う。

 だが、私に、もっとも説得力がある答えをくれたのは、前出の当時のCEO、ジョン・スカリーだ。

 彼の説明によれば、Appleは、ハードウェア依存のビジネスモデルで成り立っている。もし、AppleがIntelプラットフォーム用のMac OSをつくり、このOSの儲けだけで、収益をあげようとすると、パソコン1台あたり150ドルのライセンス料を徴収しなければならない。

 しかし、当時、MicrosoftのOSはパソコン1台あたり、その10分の1の15ドルでライセンスをしていた、というのだ。そこでAppleは直接の競合を避け、PowerPCという新しいCPU、新しいプラットフォ−ムの構築に将来をかけることになる。

 だが、このインタビューのとき、スカリーはこう言い切った。「Intelを選ばなかったことは私の最大の失敗だ」と。これが最初にダン・アイラーがIntel移行を提案した時のことなのか、スタートレック計画を最後の審判にかけた時の判断なのかは、聞きそびれた。

 しかし、ここでAppleとIntelの運命は、再び引き離されることとなった。

AppleとIntelの歴史(その1)

AppleIntelMotorolaIBMそのほか
1971 「4004」世界初のCPU     
1972 「8008」     
1973       
1974 「8080」 「6800」   
1975      MOS Technology「6502」
1976Apple Computer創業(4月)     Zilog「Z80」
1977「Apple II」    Commodore「PET」(6502搭載)
1978 「8086」     
1979 「8088」 「68000」、「6809」   
1980       
1981    「IBM PC」(8088搭載)  
1982 「80286」 「68010」  NEC「PC-9801」(8086搭載)
1983「Lisa」      
1984「Macintosh」  「68020」「IBM PC/AT」(80286搭載)  
1985 「i386」     
1986      
1987   「68030」   
1988   「88000」  NeXT Computer「NeXT」(68030搭載)
1989 「i486」    「NeXTSTEP 1.0」
1990    「IBM DOSバージョンJ4.0/V」 「Windows 3.0」
1991「System 7」  「68040」  AppleとIBMがPowerPC開発で合意、Motorolaも参加
1992「スタートレック計画」開始     「Windows 3.1」
1993 「Pentium」 「PowerPC 601」(G1)「PowerPC 601」(G1)、「PReP計画」 「Windows NT3.1」

AppleとIntelを中心に本記事に関連する主なトピックについて掲載した。

後編:接近と別離に続く
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