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» 2005年08月12日 09時15分 UPDATE

ネットで語り継がれる機長の言葉、事故の記憶

日航機123便が御巣鷹の尾根に墜落してから、20年がたった。ネット上にアーカイブされる事故の記憶と、それを知った人々の反応をたどった。

[杉浦正武,ITmedia]

 コントロールを失った飛行機は、右旋回や左旋回を繰り返しながら不安定な飛行を続けていた。それでも機内には、懸命な操縦を続ける機長や副操縦士たちがいた。

 緊張の続く現場の会話の中で、やがて機長は誰にいうともなくつぶやく。

 「これはだめかも分からんね」

 1985年8月12日、日本航空123便は御巣鷹の尾根に墜落した。今年はそれからちょうど20年目にあたる。墜落による犠牲者は520人に上り、日本航空史上では最悪の事故だと言われている。

 年月が過ぎたとはいえ、いまWeb上で検索すれば事故の情報をいくらでも収集できる。ネット上では、当時の事件を報じる新聞画像、墜落現場の写真などが見つかる。たった4人の生存者のうちの1人による証言なども読むことができる。

 そんな中に、操縦席の会話を記録したとされるボイスレコーダーの音声を公開しているサイトがある。異常発生から墜落まで、約30分の音声を短くまとめて再生したもので、Webでは事故機の飛行ルートも重ねて表示している。

 ボイスレコーダーの記録自体は、事故後15年を経過した時点で報道向けに公開された。サイト運営者はこうした音声ファイルをもとに、コンテンツを編集したようだ。会話内容は、当時新聞などに掲載されたものとぴったり符号している。

 その音声を聴いた人間は、むき出しのリアリティの前に立ちすくむ。機内では、機長が不安定な機体を立て直すべく、自分より経験が少ない副操縦士に次々と指示を出している。

 「コントロールとれ右、ライトターン!」

 「ストール(失速)するぞ」

 「あーだめだ……、マック(MAX)パワー、マックパワー」

 そんなやり取りの中で、冒頭の発言が出てくる。「これはだめかも分からんね」――。もちろん、これは単純に“あきらめ”と批判できる言葉ではない。その証拠に、機長はその後の局面でクルーを必死にはげましている。「がんばれ、がんばれ」と。

掲示板に登場する「だめかも分からんね」

 多くのネットユーザーにとっても、「だめかも分からんね」は強烈な印象を与えたようだった。その後、匿名掲示板などで“もうだめだ”という主旨の発言をしたい場合に、この言葉が書き込まれることがある。ゴロがよいからなのか、“もう”を付けて「これはもうだめかも分からんね」と書かれることもある。

 この種の書き込みに怒りを覚えるユーザーもいる。大惨事で残された言葉を、軽はずみに使うのは不謹慎だというわけだ。あるユーザーは、この言葉を投稿した相手に向かってこう書き込んでいる。「実際に(音声ファイルを)聞いてみろ。涙が出てくるから」

 だがネットの常として、これを茶化すユーザーも出てくる。「聞いたけど、爆笑しました」と。掲示板上で、大規模なアスキーアートを貼り付けて笑いをとろうとする者もいる。ただその人たちが、日航機墜落事故をどの程度知っているかまでは、分からない。

 ネット用語を「あいうえお」順に集めて解説するサイトがある。その中の「こ」の欄に「これはだめかも分からんね」が載っている。出典などを解説した後に、こんな注意書きが付いている。

 「使い方を誤ると、不愉快に思うユーザーもいるので注意すること」

音声ファイルへ寄せられる「感想」

 いわゆる「画像掲示板サイト」に分類されるあるサイト。掲示板で紹介されたネタを「面白かったか」「つまらなかったか」、感想をユーザーが書き込める。

 ここに、前述の音声を公開しているサイトが紹介された。感想として、多くのユーザーが犠牲者を追悼するコメントを残している。「機長や乗客たちのことを考えると涙が止まらない」「機長たちの必死さがまた、なんとも悲しいです」

 一方で、なぜ山ではなく海に墜落することを選ばなかったか――という疑問を投げかけるユーザーもいる。それに答えるかたちで、当時の詳細を知るユーザーが返答を書き込む。限られたコミュニティー内ではあるが、忘れられ、風化していきそうな事故の記憶が、少しずつ再現されていく。

 事故発生時、生まれていなかったというユーザーは、こんなコメントを残している。

 「俺が生まれる約3カ月前の事件でしたが、今までまったく知ろうともしなかった。ただ坂本九が死んだ墜落事故としか知らなかった。そんな自分を恥ずかしく思いました。この事故は本当に忘れてはならないし、伝えていかなければならないと」

 墜落を回避すべく懸命の努力を続けるパイロットたちの肉声を、それが20年前に墜落したことを知っている現在の私たちが聞いている。事故機内で記録された音声と、それを知った人間の感情と。20年の歳月をへて、広大なネット上で今日もさまざまな思いがアーカイブされていく。

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