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ビル・ゲイツに見る、リーダーの条件

» 2006年06月27日 14時45分 公開
[Eric Lundquist,eWEEK]
eWEEK

 もし今ビル・ゲイツ氏が米Microsoftの採用課に現れたとして、彼は仕事を得られるだろうか? 私はそうは思わない。なにしろ、ゲイツ氏は大学を3年で退学しており、技術学位も持っておらず、おそらく、ほかの従業員とうまく協調してやっていけるかを判断するためのテストにも落第するだろう。

 もちろん、ゲイツ氏がMicrosoftの採用課に現れることなどないだろう。というよりも、同氏は2年後に同社のフルタイムのチーフソフトウェアアーキテクトの職から退く方針だ。ゲイツ氏はMicrosoftの経営の一線を退き、世界の貧困対策という、より広大で崇高な慈善事業に取り組む計画だ。わたしはこの新たな取り組みでもゲイツ氏が成功するよう祈っている。ただし、ゲイツ氏を世界一の富豪たらしめるのに役立った特性の多くは、まさにMicrosoftが見つけて育まなければならない特性であるという点に留意すべきだ。「ゲイツ氏は“ビジネスの革新者”だったのか“非情な独占者”だったのか」という問題はまた別の機会に論じるとして、ここではMicrosoft(そのほか成功しているITベンダーすべてに当てはまる)が将来のリーダーに求めるべき特性について、ゲイツ氏の成功モデルに基づき、わたしの意見を述べようと思う。

 資格証明書を持った人物よりも、資質を持った人物を雇うこと。例えば、大規模なWebサービスプロジェクトに取り組んでいる企業であれば、2〜3ページにわたる証明書や資格認定書を持った求職者を見つけるのは簡単だろう。だが、そうした場合に本当に必要なのは、プロジェクトをなし遂げられる人物だ。ゲイツ氏には、会社を興すための資格認定書などなかった。同氏には、新規事業の実績もなければ、MBAもなく、ベンチャーキャピタルの支援者リストもなかった。Appleのスティーブ・ジョブズ氏とDellのマイケル・デル氏も同じだ。この3人が有していたのは、優れたアイデアと、そのアイデアを実現するためのひたむきな思いだ。資格認定書は比較や分類が簡単だが、本当に資質を備えた人材を見つけるためには、もっとはるかに多くの時間とエネルギーが必要となる。

 自ら率先して行動することをいとわない人物を雇うこと。ゲイツ氏はコード作成が得意だったのだろうか? 本人はそうだと言っているが、ほかの人によれば、そうではないという。だがゲイツ氏が、自らプロセスに参加し、技術を理解するために必要な宿題をこなし、自分が実際にエンドユーザーとして製品を使ってみることに対して積極的だったのは確かだ。そして、今でもそれは変わらない。今日、自ら自社製品の消費者となっている企業幹部がどれだけいるだろうか? 自ら、自社の店舗に足を運んだり、オンラインショップにアクセスしたり、製品を配送してもらったり、インストールを試みたり、ヘルプデスクに電話をしてみたり、さらには、競合他社製品についてもこうしたプロセスを一通り経験してみるといったことをしている幹部はいるだろうか? Mac OSとWindowsを比べてみたり、Microsoft MailとLotus Notesを比べてみたり、Microsoftの検索をGoogleと比べてみたり――。ゲイツ氏はそうしたうえで、常にMicrosoft製品の方を支持してきた。幹部が自らの体験に基づき自社の製品を支持できないようなら、広報や広告、製品マネジャーらにその分を補ってもらえるなどとは期待しない方がいい。

 チームリーダーを求めているのであれば、チームプレイヤーを雇うべきではない。「製品やサービスの実現を手伝うこと」と「アイデアを思い付き、そのアイデアを発展させ、反対に打ち勝ち、扱いにくいデザイナーを製品の擁護者に変えること」には大きな違いがある。反対に打ち勝つためには、「ほかの選択肢にも耳を傾ける姿勢」と「“話は聴いたが方針は既に決めてある”という態度を貫くいい意味での独裁」との間でうまくバランスを取る必要がある。技術の世界には常に、ときには多過ぎるほど、多数の選択肢がある。自らの誤り(グラフィカルインタフェースやインターネット、セキュリティ対策の出遅れなど)を進んで認め、その後全社一丸となってその誤りの修正に当たるというゲイツ氏の方針は、同氏の最も永続的な遺産と言えるだろう。

 いまやITの世界では、Googleやオープンソースのほか、まだ舞台には上がっていないインドや中国といった新興勢力など、さまざまな勢力が渦巻いている。ゲイツ氏はスティーブ・バルマー氏やレイ・オジー氏などに手綱を渡すに当たり、Microsoftがこうした世界で今後も活気ある競合者であり続けるための態勢作りを2年間で済ませなければならない。ゲイツ氏はこの期限を過ぎたり延長するわけにはいかない。Microsoftの態勢が整っていることをゲイツ氏が確信するためには、自分が共同創設したこの会社を、自分自身と似た資質を備える誰かが引き継げるよう確実にすることが重要となる。

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