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Web2.0時代にオンラインゲームが生き残る道

» 2006年07月24日 13時23分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 日本のオンラインゲームは、このままでは危ない――ブロードバンド推進協議会(BBA)がこのほど都内で開いた、Web2.0時代のオンラインゲームのあり方を考える講演会で、Webの進化の流れに取り残されているオンラインゲームへの危機感と、生き残りへのアイデアが語られた。

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 講演したのは、駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部の山口浩助教授と、ソウル中央大学経営戦略学科の魏晶玄助教授。ゲーム業界を中心に100人近くが集まり、3時間にわたる講演に耳を傾けた。

 日本メーカーのオンラインゲームは、コンソール(ゲーム機)ゲームのメーカーが、“コンソールの発想”で開発していることが多いという。グラフィックはち密に描き込まれ、バグフィックスも丁寧で、ゲームとしての完成度は高いが、ユーザーが発信したり、ユーザーの声でゲームを変えたりするための柔軟性は乏しい。制作コストも高いため、料金も高くなりがちだ。

 今後オンラインゲームが生き残るには、「Web2.0」と総称されるようなWebサービスの特徴を取り入れていく必要があるという。「ネットに来たとき、Yahoo!やmixiではなく、いかにゲームに来てもらうか、という発想が必要」と山口助教授は指摘。娯楽のためのゲームという枠を破り、多様なWebサービスのプラットフォームとしてとらえるべきだとする。

 Webサービスの世界では、完成度の低いβ版で無料公開し、ユーザーの声を聞きながらブラッシュアップしていくという考え方が当たり前になりつつある。コンテンツ自体をユーザーが形成していく、ブログやSNSといったCGM(Consumer Generated Media)もユーザーの支持を集めている。Web2.0的と呼ばれるこういった特徴を、オンラインゲームも取り入れるべきという。

「ユーザーと作る」オンラインゲームを

 「ユーザーは、自己表現でき、自分が評価される場からは離れない」(山口助教授)――オンラインゲームも、ユーザーがゲーム作りに参加したり、自己表現できる仕組みをもっと取り入れ、ユーザーロイヤリティーを高めるべきという。

画像 韓国の検索ポータル「Naver」は、ユーザーによる質問・回答のやりとりを検索対象とする「知識in」で急伸。Yahoo!を抜き、70%のシェアを獲得したという。「韓国でもWeb2.0が流行している。この考え方自体は決して新しくないが、各事業者は、既存のサービスをWeb2.0に合わせてどう再定義するか悩んでいる状態」(魏助教授)

 アバターやアイテムを自作できるゲームもあり、ゲームマスターなどを通じてユーザーの意見を取り入れる仕組みのあるゲームは多い。魏助教授は、もっとオープンにしていくべき、との考えだ。開発途中でβ公開してユーザーの声を聞いたり、バグを見つけてもらったりして開発過程もユーザーと共有したり、ユーザーにゲームマスターと同等の権利を与え、意見を積極的に取り入れたり、仕様を共通化し、サードパーティーに参入余地を与える――といったアイデアも真剣に議論すべきと語る。

 魏助教授は、東芝の独自規格のPC「パソピア」とIBM PCの比較を引き合いに出し、オープンであることの重要性を説く。「パソピアはハードとしては高性能だが仕様がクローズドだったため、盛り上がらずに終わった。IBM PCは当初、『こんなひどい性能で売れるのか』という代物だったが、仕様がオープンだったので、Microsoftのようなサードパーティが活性化し、今の隆盛を築いた」(魏助助教授)

 ただ「完成度が高さが日本のゲームの特徴で、ユーザーもそれを期待している」(山口助教授)という側面がある上、日本は、コンソールの市場の方が圧倒的に大きい。コンソールの発想――クローズドな仕様で100%完成した商品を出すのが当たり前、バグがあれば「欠陥商品」という考え方――は根強い。オープン性を志向するなら、ゲームメーカーが大きく発想を転換する必要がありそうだ。

収益モデルの限界

 ブログや画像共有、動画共有サービスを活用すれば、誰でも気軽にコンテンツを発信できる時代。ネット上には無料の娯楽コンテンツがあふれ、月額1000〜1500円前後のオンラインゲームは時に高額に映る。

 無料コンテンツが増え続ける中、オンラインゲームからユーザーを逃がさず、新たなユーザーも取り込むためには、ある程度質を落としてコストを削減し、料金を下げたり、月額料金制に代わる新たなビジネスモデルを考え、収益源を多様化する必要がありそうだ。

 韓国ゲームを中心に広がってきたアイテム課金制は、月額料金というハードルをなくし、ユーザーに気軽に参加してもらうための新たなビジネスモデルだ。

 また、メディア型のビジネスモデルも考えられる。「広告が入りやすいゲームを開発する、という発想があってもいいはず」(山口助教授)。ゲーム内広告を活用して広告収入で運営したり、複数社のゲームコンテンツを集めたゲームポータルを運営し、広告収入を得るという考え方だ。

 山口助教授によると、ガンホー・オンラインエンターテインメントは、サイトのメディア化・ポータル化を進めているという。ゲーム情報やSNS的なコミュニティーのほか、芸能やスポーツなど一般ニュースを含んだニュースサイトを包含する「Gang-ho Games」を運営。ゲーム内で映像・音楽を配信したり、ポータルで出前注文を可能にしたりするなど、ポータルとしての役割をワンストップで満たそうと取り組んでいる。

 韓国のゲーム「君主」には、プロのニュースキャスターがゲーム内のニュースを解説するニュース番組があるといい、「オンラインゲームとメディアは結びついてもおかしくない」と魏助教授は指摘する。アメリカのオンラインゲームでは、選挙前になるとユーザーが党派ごとにグループを作ってを戦うことが珍しくないといい、オンラインゲームが世論形成の場になる可能性もある。

ゲームをプラットフォームに

 オンラインゲームをWeb上のプラットフォームと捉え、娯楽以外の活用方法も考えるべき時に来ているという。韓国では、オンラインゲームを教育に活用する例もあり、日本でも研究が始まっている(関連記事参照)。

 教育だけでなく、病気治療や就業の場としても活用できるのでは、と山口助教授は期待する。ゲーム上でのロールプレイは臨床心理学の箱庭療法に似ているといい、精神病の治療に使える可能性もありそう。ゲーム内に、リアルの“職業”として、敵キャラクターを動かしたり、ユーザーをサポートする仕事があれば、オンラインゲーム好きの未就業者に職業機会を与えられそうだ。

 オンラインゲームは、コンソールの発想に基づいた「ゲーム」という固定概念から抜け出し、Web上の1サービスとしての役割を模索する時期に来ているようだ。

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