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YouTubeの合法性を改めて考える

» 2006年11月24日 19時35分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 五十嵐弁護士

 

 配信プラットフォームとしてのYouTubeの合法性を、日米の著作権法に照らして改めて考えるセミナーが、11月24日にTMI法律事務所で開かれ、著作権法に詳しい五十嵐敦弁護士が説明した。

 YouTubeには、テレビ番組の一部や音楽のプロモーションビデオなどが権利者に無断で数多くアップされている。ただ違法コンテンツをアップしたのはYouTubeではなくユーザーであり、「権利侵害の主体」はYouTube自身ではない。

 ただ権利者側は「違法ファイルをアップしたユーザー1人1人に対処するのは面倒なので、YouTubeのプラットフォームを違法と断定してしまいたい」というのが本音。では、YouTube自体が責任を問われるとすれば、どのようなケースが考えられるだろうか。

表面的には「法律遵守」

 YouTubeは米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)を遵守しようという姿勢を示している。DMCAでは、提供しているサービスのユーザーが著作権を侵害していても、ユーザーによる権利侵害を知らなかったり、知った後に迅速に削除など対応を行うなど対応する、また、侵害コンテンツから直接経済的利益を得ていない、などといった条件をクリアすれば、著作権侵害の責任は負わない。

 YouTubeは規約で著作権侵害コンテンツのアップロードを明確に禁止しているほか、権利者から申告があれば侵害コンテンツを直ちに削除。日本の権利者からの削除依頼にも迅速に対応している(関連記事参照)

 日本のプロバイダー責任制限法にも同様な免責事項があり、他人の権利侵害を知っていたり、権利者からの侵害の事実の通知を受けた場合、削除すれば賠償責任は負わない、とされている。

 権利侵害映像が数多く上がる状況はいまだに続いているが、YouTubeは、少なくとも表面的には合法であろうと努力する姿勢を見せており、「明らかに違法」とは言えないようだ。

 今後のポイントは「違法コンテンツの迅速な削除」が続けられるかだと、五十嵐弁護士は指摘する。「違法投稿が増え、各国から削除依頼が殺到した場合、迅速な削除がどこまで可能だろうか」――YouTubeはあらかじめ登録したコンテンツがアップされていないか自動認識する技術を導入するなどし、削除の効率化を図ろうとしている。

YouTubeを日本から訴えられるか

 日本の権利者もYouTubeには頭を痛めている。テレビ各局や権利者団体は、「YouTube対策強化週間」として10月の1週間で3万ものファイルをまとめて削除を要請した。しかし削除したコンテンツもすぐに再アップされるといういたちごっこが続いており、「法的手段も辞さない」との立場を取る権利者もいる。

 ただ日本からYouTubeを訴えるには、いくつものハードルがある。日本と米国で著作権法が異なる上、YouTubeは裁判管轄を米カリフォルニア州だとしており、この規定が有効ならば日本の裁判所では訴訟を起こせない。規定が無効と判断されても、YouTubeは日本法人を持たないため、国内で「不法行為が行われた場所」を特定するのは困難だ。

 裁判管轄の問題が解決し、日本で勝訴したとしても、米国で執行判決を得なくては強制執行できない。日本でYouTubeを提訴して“勝つ”のは、かなり難しいと言えそうだ。

Web2.0時代の著作権の課題

 「多数のユーザーが情報発信するWeb2.0時代。ユーザーの著作権侵害行為に対して、サイト運営者が責任を取るべきという考えは妥当なのか」――五十嵐弁護士は、これが今ホットな論点だと語る。

 プラットフォームやツールの提供者が、ユーザーの著作権侵害行為について責任を取るべきかどうかという議論は、以前からあった。例えば、ビデオデッキの登場に反発した映画業界が、メーカーのソニーを著作権侵害で訴えた「ベータマックス訴訟」ではソニーが勝訴。映画業界は結局、ビデオ市場という新市場を獲得して栄えた。

 その一方で、P2Pファイル共有ソフト「Napster」の訴訟では、Napsterが著作権侵害を助長したとして敗訴。12月に判決があるWinny訴訟では、開発者側は「著作権法違反をまん延させる目的で開発したのではない」として無罪を訴えているが、「判決がどうなるかは予想が付かない」と五十嵐弁護士は語る。

 YouTubeは、権利者側から一方的に悪者扱いされているわけではないという点で、NapsterやWinnyとは異なる。著作権侵害で訴えられている一方、テレビ局や音楽レーベルとの提携も発表。番組や楽曲のプロモーションツールとして、権利者側にプラスとなっている側面もある。

 今後のYouTubeの命運は、違法コンテンツの迅速な削除を続けることができるかどうか、また、権利者が経済的メリットを得る仕組みを構築できるかどうかなどが、鍵を握りそうだ。

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