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» 2006年12月12日 16時18分 UPDATE

著作権保護期間は延長すべきか 賛否めぐり議論白熱 (1/3)

作者の死後、著作権は何年間保護するべきか――こんな議論が盛り上がっている。クリエイターの創作意欲を高め、文化を発展させるためには、現行の50年のままでいいのか、70年に延長すべきか。それぞれの立場で議論が行われた。

[岡田有花,ITmedia]

 著作権保護期間を、著作者の死後70年に引き伸ばすべきか、現状の50年のまま維持すべきか――こんな議論が活発化している。漫画家の松本零士さんや日本文芸家協会など16の権利者団体は前者の立場で保護期間延長を訴えるが、劇作家の平田オリザさんや、「青空文庫」呼びかけ人の富田倫生さんなどクリエイターや著作物の2次利用者の中には後者の立場を取る人も多い。

 それぞれの論者が12月11日に都内に集まってシンポジウムを開き、講演やパネルディスカッションで意見を戦わせた。零士さんが、スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授のメッセージにかみつくシーンもあるなど、議論は白熱した。

画像 左から司会者で慶応大学教授の中村伊知哉さん、「青空文庫」呼びかけ人の富田倫生さん、劇作家の平田オリザさん、漫画家の松本零士さん、小説家の三田誠広さん、評論家の山形浩生さん

 日本の著作権法では、一般著作物の著作権・著作隣接権は著作者の死後50年間保護されるが、米国や英国、フランスなどでは70年間だ。

 「日本も70年に延長すべき」という意見が権利者団体などから上がっており、16の権利者団体からなる「著作権問題を考える創作者団体協議会」が発足。文化庁に対して延長を求める要望書を提出した

 これを受け、保護期間延長に反対するクリエイターや、中立的な立場の作家などが「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」を発足。十分な議論なしに保護期間を延長しないよう訴えている(関連記事参照)。今回のシンポジウムも、同会議が主催して行われた。

 延長派と延長反対派の意見はポイントは以下の通り。

- 賛成派の意見 反対派の意見
1 延長で創作意欲が高まる 延長は創作意欲向上につながらない
2 人間の寿命に合わせて延長し、クリエイターの妻子や孫の存命中は著作権が切れないようにすべき 著作権法で妻子や孫の生活保障まで考慮すべきでない
3 国際標準に合わせるべき 70年未満の国も多く、70年は国際標準ではない
4 延長は文化の発展につながる 延長は文化の発展を阻害する

 パネルディスカッションの登壇者は、延長賛成派が、作家で「著作権問題を考える創作者団体協議会」代表の三田誠広さん、松本零士さんの2人、反対派が平田オリザさん、富田倫生さん、評論家の山形浩生さんの3人。中立的な立場として慶応義塾大学助教授の田中辰雄さんが参加。同大教授の中村伊知哉さんが司会を務めた。

 ディスカッションに先立ち、賛成派代表として三田さんが、反対派代表として弁護士の福井健策さんが講演。立教大学法学部教授の上野達弘さんが法的な解説を行った。

延長で創作意欲が高まるか

 延長派の三田誠広さんは、延長が創作のインセンティブになると語る。「芸術家はお金のために創作している訳ではないが、『誰かにちょっとほめてほしい』と思っている。著作権は、50年後や70年後に誰かにほめてもらうための権利。著作権が切れ、自分の作品がフリーで出回ったり100円ショップで売られたりするのは嬉しくない」(三田さん)

 松本零士さんも「作家は『できるだけ長く世に伝えられるものを書きたい』と思っている。作家の多くは、金のためではなく、できるだけ多くの人に作品を伝え、共感してほしいと思っている」とし、20年の延長が長く残る作品を作ろうという意欲につながると語る。

画像 富田さん

 延長反対派の山形浩生さんは「自分の作品がタダで使われることが本当に不名誉だろうか」と、三田さんの意見に疑問を投げかける。「作品をすばらしいと言ってくれる人はネット上や100円ショップにいるかもしれない」(山形さん)。青空文庫の富田倫生さんは、作品が将来にわたって残り、誰かの目と心に触れることこそが作家にとって重要と語り、芥川龍之介の「後世」の文章を引用する。

 「けれども私は猶想像する。落莫たる百代の後に当つて、私の作品集を手にすべき一人の読者のある事を。さうしてその読者の心の前へ、朧げなりとも浮び上る私の蜃気楼のある事を(原文ママ)」

 創作する際にいちいち自分の死後50〜70年後のことを考え、「70年保護されるからもっと創作しよう」と考えるクリエイターがいるかどうかは疑問の余地がある。賛成派の三田さんは「20年の延長で創作意欲がわくかどうか、個人的にはよく分からない」とも語る。

 反対派のローレンス・レッシグ教授がシンポジウムに寄せたメッセージによると、英国の研究で、50年から70年の延長による著作物からの増収は2.5%に過ぎないという結果が出たという。レッシグ教授は「延長は創作のインセンティブにはならない」と断言している。

 それでも延長しないと創作意欲が減退するのだと三田さんは言う。「ヨーロッパで死後70年保護されると聞くと『同じような物を作っているのになぜ日本だけ50年なんだ』と思う。『日本も70年にして下さい』と訴えても『お前の作品はもうかっていないから50年でいいんだ』と言われると、わたしも意欲をなくす」(三田さん)

 クリエイターの創作意欲を高めるには、死後の著作権存続期間の延長よりも、生前の保護や支援こそ考えるべき、という意見もある。延長反対派で弁護士の福井建策さんは講演で、「文化庁に配分される芸術文化振興のための予算は、道路整備に使われている予算の0.5%以下。文化の振興を言うならば、保護期間の延長よりももっと声をあげるべきことがあるはず」と訴えた。

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