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「シュレック3」、AMDとHPの技術で映像がよりリアルに

» 2007年05月22日 16時57分 公開
[Hailey Lynne McKeefry,eWEEK]
eWEEK

 米国では5月18日、「シュレック3」が封切られ、遠い遠い国のフィオナ姫と新婚生活を送る、心やさしい緑色の怪物シュレックがスクリーンに帰ってきた。米AMDとHewlett-Packard(HP)による技術支援を受けて、シュレック3は同様の精巧な長編アニメ映画と比べ、はるかに迅速なペースで新作公開が実現しただけでなく、その映像もはるかにリッチなものとなっている。

 シュレックの制作スタジオである米DreamWorks Animationは、プロセッサメーカーのAMDとIT大手のHPと密接な提携を結ぶことで、この映画をよりリアルな作品に仕上げたのだ。

 DreamWorks Animationの共同創設者兼CEOのジェフリー・カッツェンバーグ氏は次のように語っている。「シュレックからシュレック3までの技術進歩の速さは、まさに目を見張る勢いとしか言いようがない。こうしたリッチで精細な作品は技術ベンダーとの提携を介してこそ可能となる。HPおよびAMDとの技術提携のおかげで、当社のアニメーターはキャラクターを生き生きとさせる詳細な表現ができている」

 またDreamWorksの最高技術責任者(CTO)、エド・レナード氏は次のように語っている。「われわれの仕事に技術は不可欠だ。われわれはどの映画においても、視覚的な水準を高め、映画制作者が制限なしに自分たちの作りたいストーリーを自由に展開できるよう努めている」

 シュレック3の制作には、HPのワークステーションが全部で150台使用されたが、その半数近くはHPの高性能ワークステーションxw9300を標準構成で用いたものだったという。標準構成は、AMDのデュアルコアOpteron 275プロセッサを2基、Red Hat Enterprise Linux Workstation RHEL 4、NVIDIAのQuadro FX 3450グラフィックスカード、4GバイトのRAM、400GバイトのSATAハードディスク、70GバイトのSCSIハードディスク、およびデュアルディスプレイというもの。

 HPの広報担当者によると、こうした新しいワークステーションは従来よりもかなり高速で、一部のアプリケーションに関しては50%も高速だったという。

 さらに、DreamWorksのアニメーターは仮想ビデオ会議システム「HP Halo Collaboration Studio」とHPのリモートグラフィックスソフトウェアを用い、カリフォルニア州のグレンデールとレッドウッドシティにある同社の2つのスタジオでリアルタイムで共同作業を進めることができた。

 「このHaloシステムは現在、ビデオ会議技術の最前線にあり、最も高価格な製品でもある」と調査会社Enderle Groupの主任アナリスト、ロブ・エンダール氏は指摘し、30万ドルという同システムの価格に言及している。

 またエンダール氏は、Haloシステムの価格はまだひどく高いが、顧客の要望に応じて設計された初めてのビデオ会議システムだとも指摘している。

 「DreamWorksは顧客として、同社独自の専門的な製品を開発してもらうことができた。このシステムは離れた場所でのコラボレーションやコストの削減、スタッフの移動の手間を省くことなどを念頭に設計されたものだ。これまで、ビデオ会議システムはあまり使われてこなかった。だが、今回は違った」と同氏。

 DreamWorksにとって、依然として最も重要なポイントはストーリーだ。同社は、この愛すべき緑の怪物シュレックの最新の冒険談があらゆる年代の観客に楽しんでもらえることを期待している。

 「結局のところ、われわれの目標は優れたストーリーを語ることだ。世界中の観客がわれわれの作品を見にきてくれるということは、彼らがストーリーやキャラクターを気に入ってくれているということだ。アニメでしか語れないようなストーリーとキャラクターだ」とカッツェンバーグ氏。

 最新作では、シュレックの義父にあたるハロルド国王が病に倒れ、シュレックは王位を継ぐよう言われる。だが王国の統治という重責を引き受けたくないシュレックは、ドンキーと長靴をはいた猫とともに、フィオナの反抗的な従兄弟でもう1人の王位継承者でもあるアーサーを探す旅に出る。

 シュレック3では、ストーリーに登場するメインキャラクターやサブキャラクターのほか、背景のシーンまでもが、かつての映画にはない精細さで描かれている。例えば、これまでの映画では、キャラクターの髪型は制限されていた。長い髪の毛をリアルに動かしたり、なびかせたりする作業は非常に複雑で、集中的なコンピュータ処理を要するからだ。

 シュレック2の名シーンの1つに、チャーミング王子がかぶとを脱ぎ、金髪をなびかせる数秒間のシーンがあるが、レオナルド氏によると、このシーンの制作には何カ月もの時間がかかったという。

 だが新作では、フィオナ姫からチャーミング王子に至るすべての登場人物が(そして、あごひげを生やした魔法使いのマーリンまでもが)、それぞれ独自のヘアスタイルをしている。これは、高度なコンピュータ処理能力によって可能となったものだ。シュレック3では、レンダリングに2000万時間を要し(シュレックは500万時間、シュレック2は1000万時間)、ピーク時には、レンダリングファームの約4000個のAMD64プロセッサをそのタスクに集中させた、とDreamWorks Animationの主任システムエンジニアのスコット・ミラー氏は語っている。

 レオナルド氏によると、コンピュータ処理能力の増強のおかげで、新作では、こうしたシーンの作成には何カ月もかからず、作業は何日間あるいは何時間かで終了した。さらに、アニメーターは、水や火のほか、魔法のシーンなどにも、よりリアルな動きを追加することができたという。

 そして、こうした処理の迅速化は、単により多くの作業をこなすチャンスだけでなく、競争上の利点をももたらしている。「この技術のおかげで、DreamWorksは映画の制作においてPixarよりも競争上の優位に立っている。現在、DreamWorksは3年サイクルで制作に取り組んでいるが、一方のPixarは依然として5年サイクルで動いている」とエンダール氏は指摘している。

 DreamWorksはストーリーテラーとしての目標を満たすべく、データセンターにできる限りの技術を導入しており、カリフォルニア州グレンデールの同社本社では現在、敷地の20%近くをデータセンターが占めている。レオナルド氏によると、平均的なデータセンターの消費電力は1平方フィート当たり40〜60ワットだが、DreamWorksのデータセンターの場合、消費電力は平均で150ワットという。

 そして、DreamWorksにとって、システムの利用率の低さは問題ではないという。シュレック3の最終生産の段階では、同社のデータセンターは大概、部分的にしか使用されていなかった、とミラー氏。

 DreamWorksはシュレックシリーズの次回作については何も語っていないが、同社が1年に2作品のペースで新作のリリースを続けていくのであれば、同社のデータセンターは今後もフル回転で稼働することになるだろう。これから公開が予定されている作品には、「Bee Movie」(11月2日公開)、「Kung Fu Panda」(2008年春公開)、「マダガスカル続編」(2008年秋公開)などがある。

 一方、シュレック3に使われた技術はほかの映画にも力を与えることになりそうだ。

 「シュレック3に使われたワークステーションはグラフィックスとレンダリングを集中的に処理できる。目下、映画界で起きている変化はゲームの世界にも広がっており、ゲームソフトのメーカー各社は大量のレンダリング処理に直面している。今、ゲーム業界とアニメ映画の業界は融合しつつある。今後、グラフィックスを多用し、高性能なコンピュータ処理を必要とする作品はすべて、この技術の恩恵を受けることになるだろう」とエンダール氏は語っている。

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