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» 2007年07月18日 16時51分 UPDATE

「PSEで失ったもの、戻らない」――国のミスに振り回された中古店 (1/2)

「50年以上続けていた仕事を、なぜ突然奪われなくてはならないのか」──PSE法の本格施行が中古AV機器などの販売に大混乱を引き起こしてから1年以上がたった。経産省は法と運用のミスを認めて謝罪し、改正を急ぐ。だがこの間、中古店は売り上げが大幅に減るなどの経済的損失をこうむった。国に振り回された中古店が失ったものは大きい。

[岡田有花,ITmedia]

 「店も従業員も財産も、すべて失いました。どう責任を取ってくれるのか」――電気用品安全法(PSE法)をめぐる経済産業省の対応に振り回された中古品販売店が、怒りの声をあげている。

 PSE法は、家電販売時に、安全基準を満たしたことを示す「PSEマーク」貼付を義務付ける法律。2001年に施行され、5年の猶予期間を経た昨年4月から、PSEマークなしの一部家電やAV機器が販売できなくなった。

 猶予期間は、マークなし新品家電の流通在庫を売り切って市場から一掃する目的で設定されたもの。中古家電や「ビンテージもの」と呼ばれるような古いAV機器はもちろん、5年では市場から消えたりはしない。

 経産省によると、立法時は中古家電への影響を想定しておらず、中古業者への告知も行っていなかった。報道などで「中古品もPSE法の対象になる」と広く伝わったのは、猶予期間切れまで2カ月と迫った昨年2月ごろになってからだ。

 一部の中古店は「在庫はほとんどがPSEなし。4月から売るものがなくなる」という事態に陥り、マークなしの品を大幅値下げして売り切ったり、従業員の解雇や店舗の縮小を余儀なくされたケースも出た。

 経産省の本庄孝志・大臣官房審議官は7月17日、「PSE法は中古品を念頭に置かずに立法してしまった。2006年の本格施行時にもミスがあった」と認めて謝罪(関連記事参照)。中古品はPSEマークなしで販売できるとする法改正案を、秋の臨時国会にも提出するとした。だがこの1年の混乱で、中古店が失ったものは大きい。

「財産、全部はき出した」

 「50年以上続けていた仕事を、なぜ突然奪われなくてはならないのか」――東京・秋葉原駅前の「ラジオ会館」4階で、1963年からビンテージAV機器の買取・販売を手がけてきた清進商会の小川進・道子さん夫妻は悲しそうにこう話す。

 中古品がPSE法の対象になると知ったのは昨年2月。うわさを耳にし、経産省に問い合わせたときだった。同店の商品は、ほぼすべてがPSEマークなしの古い商品。このままでは4月以降、売るものがなくなり、従業員への給料も店舗の賃料も支払えなくなる――対応は待ったなしだった。「うちみたいな小さな店はいとも簡単につぶれるんですよ、負債を抱えて」(進さん)


画像 ラジオ会館4階にあった清進商会店舗。豊富な中古品を、廊下ぎりぎりまで山積みにしていた
画像 2人いた従業員のうち1人

画像 現在の店舗は、人通りの少ない5階・事務所スペースの一角にある

 ラジオ会館4階にあった20坪の店舗は、3月いっぱいで閉鎖。ラジオ会館側の厚意で、5階・10坪の事務所スペースを借り直すことになった。撤退時の現状復帰だけでも200万円。「財産も全部、はき出したんです」(道子さん)。2人いた従業員は、解雇せざるを得なかった。

 「従業員のうち1人は年金生活者で収入があったのですが、もう1人は、20数年オーディオの修理一筋でやってきた身寄りのいない人。辞めるときは『新しい仕事が見つかった』と言っていたのですが……いまどうしているか、気がかりで」(進さん)

 進さんは小さいころから足が悪く、重いものを運ぶことができない。力持ちの従業員を失い、重い商品も扱えなくなった。

「自主検査しろ」と言われても……

 経産省は、PSEマークなしの中古品は、中古店が「製造事業者」として登録して機器を自主検査をし、新たにマークを貼れば流通させられる、と小川さん夫婦に説明した。

 だが自主検査は1000ボルトもの電圧を1分間かける必要があり、作業には危険が伴う上、貴重なビンテージAVを傷めてしまうおそれもある。PSEマークを貼付した事業者が製造物責任を取らねばならない可能性も指摘されており、小さな中古店が気軽に行えるものではなかった。

 実際に検査を行っているというカタログハウスの中古専門店・温故知品の小林英雄店長も「素人が行うのは危険。当社では専門の技術者に任せ、半径1メートル以内に人が立ち入らないようにして行っている」と話す。

 道子さんは「経産省の担当者には『売りたいなら自主検査しなさい』と言われましたが、素人のわたしが検査するのはあまりに危険な上、店舗も縮小したため検査用の広いスペースもありません。なぜ大手メーカーがやるような検査と同じことを、小さな販売事業者がやらなくてはならないのか」と、当時を振り返ってやるせない思いを語る。

 自主検査もできない。このままでは本当に、売るものがなくなる。4月以降、どうすべきか――ビンテージ機器の修理で糊口をしのごうか、オープンテープレコーダーのレンタル事業をしようか、ほかに売るべきものを探そうか。さまざまに考えをめぐらし、試してもみたが、慣れない新事業はうまくいきそうもない。途方に暮れた。

ころころ変わる対応、流通は大混乱

 小川さん夫婦は、2月から4月にかけて経産省の担当者とも何度か話し合い、PSE法の対象から中古品を外すよう呼びかける集会にも参加し、窮状を訴えた(関連記事参照)。強い反対の声を受け、経産省もそのつど対策を発表。「何度も情報が動き、流通が混乱した」(進さん)

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