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「ダウンロード違法化」のなぜ ユーザーへの影響は津田大介さんに聞く(前編)(2/3 ページ)

» 2007年10月05日 15時36分 公開
[岡田有花, 宮本真希,ITmedia]

 先ほども言いましたが、この問題を中心に据えて積極的にこれを主張していたのは、日本レコード協会の生野秀年委員だったと思います。もちろん、ほかの権利者団体の方もこれについて発言していますが、ぼくの印象では「積極的賛成」というイメージではなく、「消極的容認」が多かったという感じですね。委員に多くいた学者の方々も、どちらかというとこの問題に対する言及は少なかったように思います(委員の名簿)。

 やっぱり、違法ダウンロードがネットユーザーに与える影響って、分かりづらいと思うんですよね。小委員会には「ネットは今、どういうふうに使われているか」「どんなサービスが伸びてきているのか」ということに対してユーザーの視点から見ている人はほとんどいなかったと思いますし、消費者団体である主婦連合会事務局長の佐野真理子さん(昨年)も河村真紀子さん(今年)も、補償金に対してどのように思うかという意見表明が中心で、ネットユーザーの視点からこの問題に対して何か言うということはされませんでした。

 この問題を語る上で一番難しいのは、違法コンテンツのダウンロード――つまり「盗品を複製する」ということを規制して何が悪いと言われると、反対しづらいということなんですよね。「お前は犯罪を肯定するのか」と言われると黙っちゃう、みたいなところがあるし、実際にぼくも何度もそういう委員会の席上でそういう聞かれ方しましたしね。ここのところはぼくにとっても難しい問題ではあるんですけど、やはりユーザーのダウンロードまで違法な状態にする、というのはWeb2.0的な今のネットサービスの潮流とかけ離れてるようにしか思えないんですよ。

 で、結局この問題に対して「異論がある人は」と聞かれたときに、ぼくしかそれを表明する人間はないので、中間整理案では「大勢であった」と書かれてしまうんですよね。「送信可能権を追求すれば十分で、ダウンロードまで違法とするのは行き過ぎ」というぼくの意見も、整理案に「併記」という形で書いていただけので、そこはこれまでの文化審議会の議論では割と異例のことではあるみたいなんですが。

「情を知って」とは――「ダウンロード違法」の条件

―― この整理案に沿った法改正がなされた場合、権利者に無許諾でアップロードされた動画・音楽ファイルを、「情を知って」ダウンロードすると違法となるようです。ただ「情を知って」という条件が分かりづらいのですが。

 「情を知って」は「それが違法なものだと分かった上で」ということです。

―― といっても、ダウンロードサイトや、ファイル交換ソフト上の楽曲ファイル名を見ただけでは、それが権利者の許諾を得てアップロードされたのか、つまり違法かどうか、判断が付かないこともあります。

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 確かに一般ユーザーには、違法か適法か分からないようなケースがよくあります。例えば音楽SNS「マイスペース」では以前、なりすましが横行していました。アーティストになりすまして、権利者に無許諾で楽曲をアップロードしていた場合、見た目だけでは違法かどうか分かりません。あそこはファイルがローカルに保存されない「ストリーミング」の試聴サービスが主流ですが、アーティストが望めばファイルをMP3形式の状態でダウンロードさせることも可能です。

 ただ、適法か違法か分からなかった場合はそもそも「情を知って」に当たらないということらしく、「情を知っていた」と証明するのはかなり難しいということは聞きました。日本レコード協会は「適法サイト」を示す識別マークを普及させ、適法と分かるようにすると言っています。そうなると、適法サイトマークを付けないインディーズの音楽配信サービスやアーティストの公式サイトで音楽ファイルダウンロードさせる場合、どういう扱いになるのか。むしろユーザーに余計な混乱をきたすんじゃないかという懸念もあります。

 今回の場合は刑事罰がないので、法的に対処する場合はユーザーに対して権利者が民事訴訟を起こすことになります。その場合にユーザーが「情を知って」いたかどうかを立証する責任があるのは権利者側。レコード会社が「あなた、『情を知って』これだけダウンロードしてますよね。損害賠償請求します」という証明が必要になると。ですが、そのユーザーが本当に「情を知って」いたかどうかを証明するのは現実的には難しく、どうやって立証するのかは分からない。

訴訟の可能性は「あまりない」が……

―― レコード協会の生野さんは小委員会で「悪質なケースについては訴訟しないとはいえない」と言っていましたが、権利者が「見せしめ」的に、1人、2人のユーザーを提訴する可能性もないのでしょうか。

 基本的に刑事罰はないので、たとえ「情を知って」ダウンロードしても逮捕されることはありません。未成年の喫煙みたいなもので「バックレても逮捕はされない」ということになります。

 民事訴訟についても、本当にやるつもりがあるのかどうかは微妙ですね。そもそも「情を知っていた」と立証することが難しいですし、日本は米国などと違って訴訟社会ではないこともあり、訴訟でユーザーを直接敵に回してしまうことに対して、ある種臆病なところもある。よっぽどひどいケースでないと訴訟は難しいだろうな、という気がしてます。

 例えば、ドイツやフランスなどではすでに、違法サイトからのダウンロードを違法とする法改正が行われており、ここ2〜3年でレコード会社がファイル交換ソフトユーザーを中心に数万件にも及ぶ大量の刑事訴追や民事訴訟が行われているのですが、ほとんどの事例はファイル交換ソフトで「アップロード」していたユーザーに対してらしいんですよね。そのあたり、情を知ってダウンロードしていたことを証明するのはやはり難しいみたいです。

 法律が変わっても、それをどう執行――エンフォースメントしていくかというところでは、実効性があまりないと思います。実効性という意味ではドイツのネットワーク調査会社ipoqueが2006年10月にドイツにおけるP2Pのトラフィックが増加しているというリポートを出しており、つい先日米国マサチューセッツ工科大学(MIT)で行われた「Emerging Technologies Conference」においても、昨年よりP2Pサービスのトラフィックが増加していることが発表されました。法的なエンフォースメントが厳しくなっているドイツにおいてもこの状況ですから、海賊版対策の問題は「単にダウンロードを違法化すればいい」というようなレベルの話でないことが分かるでしょう。

実効性はなくても、2つの問題が

―― これまでのお話では、法改正されても今の状況は変わらない、ということになりそうですね。法改正で違法着うたのダウンロードが減り、レコード業界の“被害”が減ったと仮定しましょう。ユーザーに対する民事訴訟も行われず、刑事罰もなければ、誰にとってもマイナスはなさそうです。とすると「法改正しても問題はない」とも言えるのでは。

 確かに実効性は少ないし、法改正されたところで大した変化はないのかな、という意識はぼくにもあるんですが、別の心配もあります。法改正を利用した悪質な業者につけこまれ、架空請求のネタに利用される可能性と、他の分野に適用が広がり、ネットの使い方がまるで変わってしまう可能性です。

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