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角川、BitTorrent日本法人に約10億円出資 動画配信を来年スタート

» 2007年10月22日 22時39分 公開
[宮本真希,ITmedia]

 9月に設立された米BitTorrent日本法人に、角川グループホールディングスが9億9000万円を出資する。BitTorrent日本法人が10月22日に開いた事業戦略説明会で、角川デジックス社長が明らかにした。BitTorrentのP2P技術を活用した動画コンテンツの配信を、来年末ごろから始める予定だ。

画像 BitTorrent開発者のブラム・コーエンさん

 BitTorrentは、効率的にファイル転送できるのが特徴のP2P技術。クライアントのダウンロード数は世界で1億5000万以上で、ネットの全トラフィックの40%以上を占めているという。Winnyなどの分散型のP2Pネットワークとは異なり、中央集中型の「トラッカー」によってコンテンツを管理できるのが特徴だ。

 当初は著作権を侵害した映画ファイルなどの流通が問題になったが、著作権侵害を防止する仕組みを備えた商用サービスを今年から米国で展開。大容量ファイルを効率的に配信できるとし、20th Century Fox、Paramount Picturesなどが大手を含む55社がパートナーとして映画などを配信している。

画像 米BitTorrentのアシュウィン・ナビン社長

 「P2Pは悪名高く信頼できないものというイメージがある。ハリウッドスタジオに理解してもらうことも難しかったが、著作権管理ができるというBitTorrentの技術は、今は理解してもらっている」――日本法人の始動に合わせて来日した開発者のブラム・コーエンさんはこうアピールする。

 同社は従来よりも効率的に配信できるというメディア企業向けの新コンテンツ配信システム「BitTorrent DNA」も10月に発表。ルータメーカーと協業してルータにBitTorrentクライアントを内蔵するなど商用サービスを加速している。

 米BitTorrentのアシュウィン・ナビン社長は「日本ではほとんどの人がP2Pと言えばWinnyと答え、セキュリティやプライバシーについて心配する人も多い。日本法人設立は、P2Pに対する誤解を払拭する機会になる」と語る。

「BitTorrentの“中”から」侵害対策――角川

 国内では、角川グループのコンテンツをP2Pで配信するサイトを、来年10月〜12月ごろに開設する。同社は米国では既に、BitTorrentの技術を使って「リング」「着信アリ」など約60作品を配信している。

画像 角川デジックスの福田正社長

 角川はYouTubeの活用を検討するなど、著作権侵害が問題となったシステムも積極的に利用している。

 「『違法コンテンツの巣くつとなっているYouTubeやBitTorrentに、よく角川が協力しますね』と言われることがあるが、両社ともコンテンツ企業と一緒に海賊版をなくしていこう、と取り組んでいる」――角川グループでコンテンツ開発などを行う角川デジックスの福田正社長はこう評価する。

 BitTorrentを活用することでむしろ、海賊版対策が進むという。福田社長によると、海賊版が存在する理由は(1)海賊版を金もうけに利用しようとする人がいる、(2)ユーザーにコンテンツをちゃんと届けられていない――という2つ。BitTorrentで効率的にコンテンツを届けられれば、(2)については対策できる。

 「エンターテインメント業界はファンなくして成り立たない。著作権を守りつつユーザーにコンテンツを届けることが、コンテンツプロバイダーの役割だ」(福田社長)

総務省の支援を受けて技術実験も

 総務省が支援している「P2Pネットワーク実験協議会」では、BitTorrentと角川デジックスが「BitTorrent DNA」を活用した実証実験サイト「東京ネットムービーフェスティバル」を開設。WindowsMedia DRMを採用して再生可能期間に制限をかけた20分〜45分ほどの映像を、ビデオオンデマンドで配信した。

 実験の結果、多くのユーザーピアが参加するほど1次配信サーバの負担が減る――というBitTorrentの特徴がいかせたといい、人気コンテンツの場合はユーザーピアのみの自律したネットワークが構築されるケースもあった。「ユーザーピアの負担率は、最大で95%になった」と福田社長は言う。

 実験では今後、ハイビジョン画質のコンテンツの提供も行っていくほか、BitTorrent DNAとFlash Player9.1を活用した高画質・大容量コンテンツのP2Pストリーミング配信なども計画しているという。ユーザーからのフィードバックを集め、技術やシステムのレベルアップを図っていく。

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