国立情報学研究所・スタンフォード大学のグループと科学技術振興機構は共同で、量子多体現象をシミュレートできる光半導体素子を開発し、成果を英科学誌「Nature」(11月22日号)に発表した。新しいタイプの量子コンピュータに応用できる可能性もあるという。
開発したのは国立情報学研究所・スタンフォード大学の山本喜久教授と宇都宮聖子研究員ら。
「量子井戸」と呼ばれる半導体薄膜を、鏡で光を閉じこめる「微小光共振器アレイ」に埋め込んだ素子を作成。素子内で、電子(フェルミ粒子)と正孔(同)で構成される「励起子」(エキシトン、ボース粒子)と光子(ボース粒子)が強く結合した「エキシトンポラリトン」(同)と呼ばれる粒子による「ボース・アインシュタイン凝縮体」を、多数平行して同時に形成。これを相互に結合させることで、従来観察されてきたのとは異なる、新しい超流動現象の観測に初めて成功した。
相互作用する多数の粒子系によるボース・アインシュタイン凝縮や、超流動・超伝導などの量子多体現象は、現在の超高速スーパーコンピュータを使って数値的な解明が難しい。このため人工的な“模擬実験”からアプローチする「量子シミュレーション」が注目されるようになってきた。マックス・プランク研究所は2002年、冷却原子とレーザーを使った量子シミュレーションにが成功しているが、大がかりな装置と長い時間が必要だった。
今後、光半導体素子を改良し、より現実の電子材料や磁性材料、超伝導材料に近い理論モデルを模擬実験できるようにし、新材料の開発につなげる。
また半導体素子構造に数学的問題を書き込み、ボース・アインシュタイン凝縮を利用して解く、新しい量子コンピュータの可能性も探っていく。
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