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「初音ミク作品」騒動から考える、「次の著作権のかたち」News Weekly Access Top10(2007年12月16日−12月22日)

» 2007年12月25日 19時21分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 先週は、著作権関連の記事がアクセス上位に入った。違法にアップロードされた動画や楽曲のダウンロードを違法にしようという議論が「私的録音録画小委員会」(文化庁長官の諮問機関・文化審議会著作権分科会内)であったり、「初音ミク」を使って作られた楽曲の着うた配信契約について騒動があったり――著作権をめぐる旧来のシステムと、ネット時代の新しい創作やコンテンツ消費のあり方との矛盾が、改めてあぶり出された1週間だった。

 そもそも著作権法は、一般ユーザーが独自に創作し、ネット上で配布する――という、「ニコニコ動画」で当たり前に起きている事態を、想定していない。「権利者」といえば、マス向けの販売を前提に、コストをかけて楽曲や動画などを作っている企業やプロが主体。一般ユーザーが、コストほぼゼロで制作したものが、視聴した一般ユーザーの応援を得て万単位の人々に受け入れられるといった現象は、「わたし作る人」と受け取るユーザーとの線引きがはっきりしている状態を前提にしている著作権法にとっては「想定の範囲外」だろう。

 今回の初音ミク着うた配信に関連する騒動は、ドワンゴ・ミュージックパブリッシングとクリプトンとが共同でコメントを発表するという形で“和解”したそのコメントには、「音楽著作権の処理に関しては、現在のシステム・ルールがネット時代に即応できていない、不十分な部分が存在するという認識で一致し、時代に即応した新しいシステム・ルールを構築できないか両社で協力し検討してゆく」とある。

 ニコニコ動画では、多くの一般ユーザーが「クリエイター」となって動画作品を作っては投稿し、さらに多くのユーザーが閲覧してはコメントを残し、そのコメントがクリエイターの「糧」となる。また、他人が作った動画や音楽に触発され、それらを組み合わせてマッシュアップする人も。お互いに無償で利用しあうことによって、新しい作品が生まれ、創造のサイクルができている。

 無名のクリエイターたちは「売れて対価を求たい」というよりは、自分の楽しみのためとか、みんなで盛り上がりたいから――といった理由で投稿するケースが多い。こういった「創造」に、現行の著作権管理システムで対応するのは難しいだろう。

 例えば、着うた配信を円滑に行うため、著作権管理団体に配信権を信託すると、契約の形態などによっては「この楽曲をネット配信する場合は、常に許諾料が必要」となり、「ユーザー間で自由に2次利用しあう」という、創造のサイクルの重要な要素をあきらめなくてはならない――ということにもなり得る。

 いわゆる「ダウンロード違法」の問題にしても、コストをかけてコンテンツを制作し、面倒な契約をクリアしながらネット配信している側に立ってみれば「無許諾でネットに公開された動画や音楽をダウンロードする行為も違法にしてほしい」と言いたい気持ちも、分からなくはない。だが、ユーザーの立場に立ってみると、「ネットの自由な利用を妨げられる」ということになり、風景はまったく異なってくる。

 プロによる商業ベースを前提にした「著作権」と、CGMの世界でユーザーが盛り上げる作品の「著作権」とは、相容れないような気が、最近している。後者のコンテンツを新しい文化ととらえ、今後、繁栄していく環境を作っていくためには、何か新しい著作権の仕組みが必要になるだろう。

 旧来の権利者団体とネットユーザーが対立し、ただ主張をぶつけ合うだけでは現状打開は難しい。お互いの見ている「著作権」や「作品」の姿があまりにかけ離れており、利害を調整する落としどころを見つけるのも難しそうだ。

 従来の漫画に対するカウンターとして出発したコミックマーケット(コミケ)は、30年かけて独自の世界を築き、漫画界のメインストリームにも食い込むようになった。ユーザーが作った動画や音楽などの発信は、来年は今年以上に盛り上がってくるだろう。ネットの10年後、20年後を見すえた長期的視点に立ち、ユーザーがみんなで幸せになれるシステム作りを、1から考える段階に来ているのかもしれない。誰がなんと言おうと、インターネットと創作はまだまだ続く。

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