2次元のディスプレイから、3次元の物体が迫ってくる――ルクセンブルクの技術ベンチャー・SeeReal Technologiesは、4月18日まで開かれていた「Display 2008 フラットパネルディスプレイ展」(東京ビッグサイト)に、独自の技術を活用したホログラフィディスプレイのデモを行っていた。
真っ黒な直方体のディスプレイで、幅よりも高さがやや大きい。映像表示部は20インチだ。
ディスプレイの1メートルほど手前に座り、明かりを落とすと、2メートルほど先に真っ赤に光るコウモリの像が浮かび上がった。コウモリはこちらに向かって飛んできてすぐ目の前まで迫りゆっくりと羽ばたく。
立体的な映像を裸眼で楽しめるホログラフィディスプレイで、専用めがねを使った本格的な立体視映像と同等か、それ以上のリアルさで迫ってくる。奥行きはディスプレイを挟んで2メートル(ディスプレイの1メートル先から1メートル手前まで)ほど感じられる。
キモはリアルタイム処理だ。3Dの像は、リアルタイム演算で作成しており、マウスを使って動かすことも可能。コウモリを手前から奥に飛ばしてみたり、ゆっくり回転させたり――といったことが、3Dマウスを「SpaceNavigator」使って自由にできる。
視野角は、目の位置プラスマイナス7度の計14度。ディスプレイに付いた2つのカメラで目の位置をトラッキングして映像を調整しており、顔をゆっくり動かすと映像も追従してくる。素早く動かしたり、目の位置から7度以上動かすと見えなくなってしまう。
プロトタイプは赤1色のモノクロディスプレイだが、現在の技術でフルカラー化も可能という。フルカラーなら、まるで「スターウォーズ」のレイア姫のホログラフィのように、何もない場所に立体的な像を浮かび上がらせることが可能になる。
ホログラフィは、光の干渉を利用し、立体的な像を裸眼で見ることができる技術。静止画のホログラフィは、トレーディングカードの“キラキラカード”や偽造防止用ステッカーなどによく使われていてなじみ深いが、ホログラフィの動画は珍しく、特に「ホログラフィの動画をリアルタイムに制御するのは困難だった」と同社CEOのマーク・トーセン氏は言う。
ある程度広い視野角のホログラフィ映像をリアルタイム生成するためには、ディスプレイの画素ピッチを1マイクロメートル以下、ナノレベルに微細化しなくてはならない上、大量の画素をリアルタイムに演算するコンピューティングパワーが必要になるという。
同社はこの問題を「アイトラッキング」と「サブホログラフ」という2つの技術で克服した。アイトラッキングとはその名の通り、目を追尾すること。ディスプレイの両脇に1台ずつ設置したカメラで、視聴者の目の位置を常時トラッキングする。
さらに、その目が見えている範囲の画素だけを「ビューウィンドウ」として切り出し、その範囲だけを「サブホログラフ」として3Dに合成。これによって演算能力を従来より大幅に削減しながら、大きめの画素ピッチ(20〜70ミクロンメートル)でもある程度広い視野角を確保することが可能になったという。
Display 2008でデモ展示していた機材はプロトタイプ。サイズは20インチ、画素数は約500万画素で、赤色LEDをバックライトに、シャッター、レンチキュラーレンズ、ホログラフィディスプレイパネル、レンチキュラーレンズという順でパネルを重ね、ホログラフィ動画を表示している。
部品がすべて市販品ということもあり、プロトタイプにはいくつかの問題がある。モノクロ表示であること、応答速度が30ミリ秒と遅いこと、輝度が3カンデラ/平方メートルと暗いこと、ビューウィンドウが8ミリ平方・視野角が10度程度しかないこと――などだ。
モノクロ表示なのは、バックライトが赤LED 1色だから。光源をフルカラー化すると応答速度が低下し、カラーフィルターを足すには輝度が低すぎるという。応答速度のボトルネックはシャッターパネルと振幅変調によるエンコードといい、実用化の際は、静止光源と位相変調ディスプレイを利用することで、シャッターパネル不要にして輝度・応答速度を高めながら、LED光源を使ったフルカラー化が可能になるとしている。視野角の狭さは、アイトラッキング専用システムを構築することで克服できるとしており、目の位置プラスマイナス30度(計60度)以上に広げたいという。
同社は技術提供に徹し、外部メーカーにライセンスして商品化を目指す。2010年にPC向けディスプレイを、2011年にはテレビを発売したい考えだ。価格は「最初は高いだろうが、液晶テレビが世界で初めて商品化された時よりも安価になるだろう」
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