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» 2008年05月19日 07時54分 UPDATE

ベンチャー経営の「失敗談」データベース、経産省が公開 リアルな声、足で稼ぐ (1/2)

ベンチャー経営者をインタビューし、リアルな失敗談を集めたデーターベースを経産省が公開し、注目を集めている。失敗の理由からその後の経緯まで、1件1件足を運んで取材。マニュアル通りの成功例からそれた時、どう対処すればいいのか――経営者が本当に知りたいことが伝わるように工夫した。

[西川留美,ITmedia]

 ベンチャー企業の失敗談を集めた経済産業省の「ベンチャー企業の経営危機データベース〜83社に学ぶつまずきの教訓〜」に、注目が集まっている。

 経産省の担当者などが足で集めた失敗談は、リアルで具体的だ。「業歴が浅く、知名度がないため資金も人も集まらない」「エンジニア体質から技術重視の開発に走り、顧客の要望をくみ取ることが出来ずクレームが発生」「一時的な特需を自社の能力と見誤り、経営に行き詰まる」「幹部に株を分け与えたら、社長退任を迫られた」――など、危機を知る経営者たちの“肉声”が詰まっている。

 収録されている「失敗情報」は計83件。大企業の大きな失敗例ではなく、「設立10年未満かつ従業員100名以下の企業」、かつ「新規事業に取り組んでいる」または「創業期に大きな失敗を克服した経験がある」などの企業に限定しており、身近な企業近な失敗例が無料で読めるというわけだ。

 倒産企業から現役バリバリの企業まで幅広く事例として挙げられているが、まるで経済誌の記事をまとめて読んだかのようなボリュームだ。

失敗の理由から「その後」まで取材

 データは「失敗」だけに注目せず、なぜ失敗したのか、そして失敗した後どうなったのかまでが具体的に示している。

 まず、失敗までの経緯が図表化されている。会社がどのように成長したのかを、売り上げ・利益を縦軸、年次を横軸にしてグラフ化し、見た目でもその会社の浮き沈みが見て取れる。ある会社はピーク時に、またある会社は低迷期に危機がやってきたりして、さまざまなフェーズで落とし穴がやってくることが分かる。


画像 データベースの例
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画像 業種や会社の成長フェーズ、失敗の原因・結果から検索できる

 例えば経営者がこのサイトを見た時に、自社の成長フェーズに合わせて検索することも容易だ。トップページには検索窓があり、業種、成長ステージだけでなく、失敗の結果(「売上の減少・赤字転落」「資金ショート」など)や失敗の原因(「経営管理能力の欠如」「商品・マーケティング戦略ミス」など)が細かく指定できるようになっている。代表的な事例も10例ピックアップされており、「ベタな失敗」を勉強できる。

 失敗そのものの分析も面白い。「設立から成功までの経緯」「失敗に至る経緯」「対処と結果」「原因」「経営判断」と失敗について詳しく記述した後に、「得られた教訓」「後日談」までがインタビューされているのだ。

 大きなトラブルを起こした企業であっても、その後どうなったかはなかなか知ることができない。大企業であれば報道されることもありえるが、中小ベンチャー企業が危機をいかに乗り越え、あるいは挫折したかの軌跡をたどることができるというのは、後進のベンチャー経営者にはありがたい情報に違いない。

 ベンチャー企業の経営者には、思いがけない危機がつきもの。しかし、成長スピードが早いぶん、一瞬の判断ミスが後々大きく影響してくることもベンチャーならではだ。そんなときに必要なのは、やはり先人の教えだろう。

きっかけは「失敗学」

 失敗例に踏み込んだデータベースを作ったことには訳があった。今回、経産省でこうした取り組みが進んだのは、「失敗学のすすめ」などの著作があり、失敗学の権威として知られる工学院大学教授の畑村洋太郎氏の存在があったからだ。

 近年、会社法の改正による最低資本金規制の撤廃やエンジェル税制による優遇措置など、従前より起業しやすい環境が整ってきたが、起業した後のフォローはなかなか手が回っておらず、同じような失敗でつまずくベンチャー企業が多いというのが現状だ。

 畑村氏は数年前から文部科学省とともに「研究開発などの大型プロジェクトの失敗情報は、省内で共有しなくてはいけない」と提唱してきたのだが、彼はまた「ベンチャーも研究開発のように失敗を共有しなくてはいけない」とも話していた。それが、このデータベース作りのそもそものきっかけとなった。

 政府としても失敗情報をデータベース化することがベンチャー企業のためになるのではないかと考え、経産省が畑村氏に相談したところ、協力を得られることになり、サイトの企画が作られた。

 データベースの完成に至るまでの経緯について、担当者である経産省経済産業政策局新規産業室振興係長の畑田康二郎氏に話を聞いた。

本当に知りたいのは「マニュアルからそれたとき、どう戻ってくるか」

 最初の検討委員会が開かれたのは2007年6月。畑田氏はその直前に、この部署に異動してきたばかりだった。

 異動前の仕事は経産省外局の原子力安全・保安院。畑違いではあったが、原子力関連のトラブルが相次いだ時期に当該部署に所属していたため、当時の経験から「一度のトラブルをいかに企業の中で共有化してその後の事故を防ぐか」という問題意識が強く、失敗学の勉強も進めていたため、スムーズにこの新しい仕事に就くことができた。

 「いい事例を集めたマニュアルは、想定内のことが起こっている間はとても使いやすいものだが、本当にみんなが知りたいことは『そこからそれた時にどうやって戻ってくるか』だ、と畑村氏から言われました」と畑田氏は語る。失敗事例のデータベースに「後日談を載せる」というのは畑村氏のアイデアであった。

 このプロジェクトには、調査機関として入札に応じた東京商工リサーチが加わり、同社が事務局となって経産省とともに調査方針を立てていくことになった。

手探りのスタート

 経産省は企業支援を行っている役所ではあるが、職員が直接企業から「体験談」を聞く機会は少ない。また、東京商工リサーチのほうは企業の信用調査などを行っている会社だが、民間企業ではなかなか踏み込んで経営危機の話を聞くことは難しい。「失敗話」を聞くノウハウはないまま、手探りのデータベース作りが始まったのだった。

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