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“メール依存”に中学生はどう向き合う――MIAUが授業

» 2008年10月23日 12時44分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 携帯電話を利用している中学生の割合は、2007年で57.6%に上っている(内閣府「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査」より)。習い事や塾通いで夜遅くなる子どもを心配し、携帯を持たせる親が多いようだ。

 一方で、子どもの携帯が親の心配の種にもなっている。携帯を使ったいじめなどトラブルに巻き込まれないか、携帯メールを使いすぎて「メール依存」になってしまっていないか――携帯に絡んだ事件も多く報道されており、心配はふくらむ。

画像 教室を歩き回りながら授業する小寺さん

 「みなさんに残念なお知らせです」

 10月22日、東京成徳大学中学校(東京都北区)の1年生を対象にした技術家庭科の授業で、講師を務めたジャーナリストの小寺信良さんが、生徒にこう話しかけた。授業は、MIAU(インターネット先進ユーザーの会)が制作している青少年向けネット教材作成プロジェクトの一環だ。

 「携帯電話は危なくて問題があるから、子どもに携帯を持たせるのをやめよう、という動きが出ています。でもわたしたちは、問題があるからといって、みなさんから携帯電話を取り上げたくはないと思っています」――小寺さんは続ける。

 この中学校では、入学時点で女子の9割以上、男子の7割が携帯電話を持っている。受験して入学する私立学校で、受験勉強のために塾に通わせる際、子どもの安全を考えて持たせる親が多いという。携帯は学校に持ってきてもOKだが、学校にいる間は先生に預け、帰る前に返してもらうルールだ。

 私立中学の1年生はメール依存に陥りやすいと小寺さんは言う。生徒たちはさまざまな小学校から集まっており、近所に住む友達も少ない。新しい友達に早くなじみたいとメールに頼ったり、小学校時代の友達とメールで連絡し、寂しさを紛らわせようとするようだ。「携帯メールは子どもたちの心のケアになっている」と小寺さんは話す。

 反面、子どもたちが過度にメールに依存する傾向も見えるという。「夜の12時過ぎに小学校の友達から携帯メールがあって、その後30分ぐらいメールがやめられなくなってしまった」「メールをやり過ぎて勉強時間が取れないことがある」「メールの終わらせ時が分からなくて困る」――こんなふうに話す生徒もいた。


画像 生徒たちの携帯はポーチに入れてクラスごとに引き出しに保管
画像 学校に預けていた携帯は、授業中しばらくの間、生徒に返却された。生徒は渡された携帯電話を大切そうに持ち、早速携帯を開いてメールチェックする生徒も多かった
画像 「携帯メールやり過ぎ度チェック」というチェックシートを配布。「ひまがないのについメールしてしまう」「人と話している時にメールを打つことがある」など24項目から当てはまるものをチェックしてもらい、自らの“メール依存度”を自覚してもらいながら授業を進めた

 「なぜ携帯メールが気になるんだろう」――小寺さんは生徒に問いかける。「メールの返事は何分以内に来ないと不安になりますか?」。こんな問いには「3分」「10分」といった答えがあった。

 だが相手が圏外だったり、忙しかったり、携帯電話の近くにいなければ返信はできないはず。MIAUの中川譲さんは「ベストエフォート」について説明した上で、「メールはすぐに相手に届いているとは限らない」と解説する。

 「メールは『できるだけ頑張ってみるけど、もしかしたらダメかもしれない』というベストエフォートの思想で作られている。メールは相手に届いていないかもしれないのに、○○分以内という考え方自体がおかしい」(中川さん)


画像 「ベストエフォート」を漫画で解説
画像 「ベストエフォート」を理解させるために、白い紙をデータに、生徒達を通信ネットワークに模したゲームも行った。紙に自分の出席番号を書き、講師に分からないように席が端の生徒から逆端の生徒に渡させる――というもので、講師が見つけたらその時点で最初に戻り、“通信”が途切れる
画像 紙は1度小寺さんに見つかって最初に戻ったが、その後「消しゴムのケースに入れ隠して渡す」という方法で安全に“通信”が行われ、目的地に到達した

 メールのやりとりがなかなか終われない――そんな悩みは今に始まったものではなく、子どもたちだけのものでもない、と小寺さんは話す。

 「パソコン通信の時代から大人たちは困ってきた。MIAUのメンバー同士もチャットで連絡を取っているが、雑談がなかなか終われないことがある」。そんな時MIAUでは誰かが「おっと、もうこんな時間だ」と入力し、おしゃべりを止められるようにしているという。

 生徒たちにも自分なりのルールはあるようだ。ある女子生徒は、夜遅くにメールを終わりたい時は「おやすみ」と書く、と話していた。

 「メールのルールはみんなの世代が作っていくもの」――小寺さんは授業の最後、生徒たちにそう呼び掛けた。

ネットでひどい目にあってきた経験を持つ立場から、ネット教育を

 授業は、MIAUが制作している青少年向けネット教材「“ネット”と上手く付き合うために」の一部を活用して行われた。「授業で使える教科書を作りたくて学校の先生に意見を聞いていたら、『一度授業をしてみては』と提案してもらった」(小寺さん)ことがきっかけで、今回の授業につながったという。

 ネットの負の側面が強調され、ネット規制の動きが強まる一方で、さまざまな企業がネットリテラシー教育に力を入れ始めており、「『安心ネットづくり』促進協議会」など産学が連携した組織も作られている。MIAUは産学官などの取り組みとも連携しつつ、「ネットでひどい目にあってきた経験を持つ」ユーザーの立場から、ネットの原理的な部分を含めて子どもたちに教えていきたいという。

 MIAUは今後、要望があれば出張授業にもできる限り対応したいというが、理想は、MIAUの教材を使って学級担任がクラスごとに授業をしてもらうこと。「中学の技術家庭のカリキュラムにはネットリテラシー教育は含まれていない。ロングホームルームの時間などに担任の先生に授業してもらえれば」(小寺さん)

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