その時に「iモードって携帯の世界で成功してるよね。ところでPCの世界でそういうのを実現するのって誰だろう」となったとき、分かりやすい構造で「はい、夏野です」と。
――つまり「iモード」のビジネスモデルを採っていくということでしょうか。企業がコンテンツを有料で提供し、売り上げの一部がドワンゴの収入になると。
そうですね。
――どれぐらいもうかりそうですか。
うーん、ぼろもうけにはならないと思ってるんですけど。ただ、例えば「スカパー!」のユーザーは「スカパーの設備を家に入れる」必要があり、そのハードルを超えるのって、よほどコンテンツが見たいという人じゃない限りめんどくさいじゃないですか。
たまたま動画について知って「500円ぐらいなら払ってもいいや」という人はレンタルビデオ屋に行ってたと思うんですけど、レンタルビデオ屋とスカパーの間ぐらいの場所に需要はあるんじゃないかと思っていて。わざわざアンテナ入れて毎月お金払って、ってほどじゃないけど「これを見たいな」という人向けの市場は多分、スカパーの半分くらいはいくんじゃないかなと。
――有料の動画配信サービスはほかにもたくさんありますが。
音楽レーベルが独自に音楽配信サービスやってたじゃないですか。でも結果としてみんなiTunes使うようになっちゃったと思うんですけど、プラットフォームとしての利便性というか、どうせ登録するなら1カ所のほうが便利だよねと言うのがあると思うんです。その利便性でニコ動、YouTube、GyaOという3択ぐらいしか今の日本にはないないと思うんですけど、ほかの2つがやる前に先にやっといたという。
それ自体が本当に市場になるかは分からないんですけど、コンテンツは僕らが作らずに持ってきてもらって、手数料でお金が落ちるので、器だけを用意したら後はお金が落ちてくるのではという淡い期待を。
チャンネルごとの生放送はうまくいくんじゃないかなと思っています。例えばAKB48のチャンネルで、アイドルの女の子が有料で生放送しますということになれば、「秋葉原まで行けないけど見たい」という人が見に来ると思うのでちゃんと回るんじゃないかなという。
チャンネルは、テレビとは違って、ものすごくニッチなものでも成り立つモデルにはしてるんですよ。テレビだと視聴率10%ないとダメですけど「1000人が500円払うものを作ります。手弁当です」という人でも食えるような、小規模でもできるようなモデルで作ってるので、ニッチな人をいっぱい集めるというロングテール的な……ってことはあんまり言いたくないけど、そういうこともできるんじゃないかなという。
――ニコ動をもっと一般化させ、2000万ユーザーを目指すと夏野さんがおっしゃっていましたが。
2000万を狙う必要性が僕の中では明確ではないんですが……。なぜそこを狙うかというと、チャンネルとかコンテンツプロバイダー(CP)の利益がまわるようにして、CPがどんどんネタを持ってきてくれてという「iモードのいい循環」が回るようにするにはそういう手段しかないと。
「ネット上でお金を払うのがどうたら」と議論する人ではなくて「これ見るんだから金払うの当たり前だよね」と普通に着メロ買っちゃうような人を連れてくるというのが必要ということだと思うんですけど。
――トップページがチャンネル中心にリニューアルしましたが。これも「一般化への道筋」でしょうか。
ぱっと見て「これをクリックしたら面白そうな動画が出るんだ」というぐらいの分かりやすさを目指したくて。
ネットのサービスで1000万の壁を超えたのってヤフーぐらいしかないと思うんですよね。mixiと2chも1000万ぐらいでそれ以上伸びないというのがあって。多分ヤフーを使う人が来るサービスに変えていかないといけなくて。毎日PCを立ち上げる習慣がない人に広げていかないとこれ以上伸びないので。
――ニコ動はより一般化し、ユーザーを増やした方が面白くなり、もうかるということでしょうか。
一般化で連れてくるような人って、ものを作らない人の比率の方が高いと思うんですよね。動画を作りたい人はPCを持ってて使ってると思って、そういう人たちはだいたいニコ動知ってると思うんですよ。そういう意味で一般化は、ユーザーが作る面白いコンテンツが増えるという方向ではあんまりないかなという気がしますね。
mixiって一般の人がいっぱい使ってるじゃないですか。でもmixi発で外に出たコンテンツってあまり知らない。「一般の人を集めても面白いものは生まれない」という仮説と、「一般の人だからこそできるような全然違う世界」っていうのがあるかなと思っていて。
例えばYouTubeってブレイクダンスものが多いんですがニコ動にはそこまで多くないんですよね。そういうのが増えていくという方向性があれば面白いと思うんですけどね。
かわいい女の子が増えると面白いと思うんですけどね。スイーツな女の子が。プロフとか、ちょっと前だとプリクラを交換する文化とか、女の子が自分をちょっと変形して出すという文化とマッチする方向までいけば多少あるのかなと。
ニコ動に限らずもの作り系のサイトって、ものをいっぱい作ると楽しい人と、見るのが楽しい人が来て、誰もお金を払わないというのが多分問題で。お金を払うのが楽しい人を連れて来ていない。
お金を払うのが楽しい人を連れてくるのは僕らではできないので、コンテンツプロバイダーさんに持ってきてもらう。「芸能人が出てます」とか「有名な監督が作ってます」とかいう分かりやすいコンテンツのほうが売れるみたいなので、そういうのはプロに任せた方が早いだろうなと。
――ニコ動はどう黒字化していくのでしょう。
何をすればもうかるというのが見えていればそこに注力すればいいんですが、今どれが伸びるか分からない段階なので、手当たり次第にやってみてダメならなかったことにする。フィードバックをいかに早くやるかという段階だと思うんですけど。
――SF作家の野尻抱介さんが自身のWebサイトで、「ニコ動を無料で見るのは十代まで。大人はとっととプレミアム会員になろう」と呼び掛けていました(「大人はニコ動プレミアム会員になろう」――SF作家野尻抱介さんが“個人アピール”)。
あの人SF作家だったんだ。ありがたいことです。
ニコ動は広告とユーザー課金が主な収入源で、ユーザー課金の方が割合が高いんです。
「広告で生きていくんだ」というのをやったのはテレビ局でした。そうすると万人受けする分かりやすい無難なコンテンツばかり流行るようになってしまって、テレビと同じことになっちゃうと思うんですよ。
今テレビを見ない、ネットばっかり見てる人たちってテレビに対するアンチテーゼだと思うんです。テレビの後追いをしてもテレビと同じ層の食い合いをするだけと思うんです。テレビが成長してるならおんぶにだっこで乗っかっていいと思うんですけど、テレビが下がってるときに同じシェアのところに突っ込んでも仕方ないと思うので、そういう意味で広告をあてにしないという方向性にはせざるを得ないと思うんですよね。
プレミアムユーザーは、僕はもともとそんなに増えないと思っていたので、僕の中では「思ったより入ってるな」という感じだったんですけど。
野尻さんみたいな人が「プレミアムになるといいよ」と言ってくれるのはものすごくありがたいんですが、そういう人たちは大勢はいないので、それをベースにするのは危険かなと。寄付で回るようなサイトは絶対長続きしないので、満足している人がお金を払ってサイトが回るという構造にしてかないといけないので。
ニコ動のサーバリソースは、ものを作る人がデータストレージとして使っていくので、「作る人が快適にするにはお金がかかりますよ、見る人たちは無料でどんどん見られます」という構造の方がいいとは思うんですけどね。
――ニコニコ動画は何を目指しているのでしょう。
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