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セカイカメラがどんなトンチでできているのか、中の人に話してもらった(1/2 ページ)

» 2009年02月19日 13時40分 公開
[松尾公也,ITmedia]

 昨年9月10日に初めて知った「セカイカメラ」。4カ月たってその現物をようやく見ることができた。期待は大きかったが、それが裏切られることはなかった。

 頓智・(とんちどっと)が開発中のセカイカメラは、現実世界と仮想的な「何か」をオーバーレイさせていくAR(拡張現実)技術の1つだ。

 アニメ「電脳コイル」の電脳メガネをそのままiPhoneに置き換えたようなもので、iPhoneアプリの画面からのぞくと、そこには現実の風景だけではなく、いくつかの物体が漂ってみえる。それが「エアタグ」だ。

画像 セカイカメラの画面。ライブビュー映像にエアタグが重なっている

 セカイカメラは、iPhoneなどのデバイスに組み込んだアプリケーションと、そのバックエンドでエアタグを配置するためのコミュニケーションシステムと言える。利用者は、iPhoneなどにインストールしたセカイカメラのアプリを起動し、そのデバイスを目の前にかざすことで、その画面を通して、その場所にひも付けされた情報エアタグを見ることができる。その場所で自らエアタグを書き込むこともできる。

 エアタグは、写真でもいい。アプリケーション内で撮影した写真を、そのままエアタグとしてポストすれば、その空間に写真のタグが漂うことになる。まるで浮遊霊か地縛霊のようだ。実際、セカイカメラを「オバケカメラ」と称していたこともあるという。

 そのセカイカメラは2008年9月に米国で開催されたベンチャービジネスイベントTechCrunch 50でデビューした。絶賛され「今これができるのか」と度肝を抜かれた人たちが多数いた一方で、「実現不可能」「ベイパーウェアだ」という冷笑もあった。「けっこう傷ついています。打たれ弱いんで」。頓智・CEOの井口尊仁氏は笑いながら述懐する。

 TechCrunch 50でのデモはiPhoneの実機ではなく、ビデオでのプレゼンテーションだった。それ以降も井口氏らによるプレゼンテーションは行われたものの、コンセプトやビデオを使った説明であり、「やはりできないのではないか」とする向きもあった。iPhone SDK(ソフトウェア開発キット)の制限や、iPhoneのみでの屋内での測位精度を考えるとその批判も無理なかったかもしれない。第一、セカイカメラの発表時点ではiPhone SDKの内容について語ることもNDA(守秘義務契約)によって禁じられていたのだ。

 しかし、代々木競技場で開催中のファッションイベント「rooms」のブースに展示された数十台のセカイカメラβ版搭載iPhoneで、井口氏と最高技術責任者である赤松正行氏は実機デモを行った。デモ自体はトラフィックのために表示がギクシャクする場面もあったが、だいたいにおいてうまくいっていた。

 今回は屋内イベントということで、衛星を使った測位はできない。そこで、Wi-Fiのアクセスポイントを使って測位するクウジットのPlaceEngineを利用している。ジャイロや地磁気センサーを使えば自機の位置や方向をさらに細かく計測することが可能だが、現時点でのiPhoneにはGPSと、PlaceEngineによる座標特定しかできないのだ。しかし、実際にセカイカメラのβ版にさわってみると、十分に使えているように感じる。

 エアタグの仮想的な位置とリアルな対象物の位置には、おそらく数メートル程度の誤差があるのだろうが、使用感においてはそれを問題とは感じない。それは、エアタグがふわふわと漂っているからだ。自分が見ている画面に、ほぼ横並びにいくつものエアタグが配置される。エアタグは自分を包み込む円筒のように配置されていて、iPhoneを右側に動かせば右側の画面から表示されていないエアタグが表示され、左側に動かせば、左端で見えないタグが現れる。自分で能動的に左右のタグを見たい場合には、左右にフリックさせれば希望する情報を見ることができる。

 シンプルなアイデアだが、「使えている感」がある。「技術的な精度を高めるにはそれほど役立ってないけど、使ったときの気持ちよさが向上する。きっちりと位置を決めるよりも、ふわふわ漂っているファジーな状態のほうがいい場合もある」と赤松氏は説明する。

画像 赤松氏

 「みための斬新さというのがあります。今回がそうなんですが、一般の人が見たときに『おおっ』となる。『こういうのダメなんです』というおばちゃんが使えてしまう。そういう間口の広さがあります」(赤松氏)

 セカイカメラはコンシューマーに使ってもらう技術だから「技術的なチャレンジをすること、測位をすることが目的ではない」と井口氏は説明する。もちろんより精度の高い測位ができればできることは広がるだろうが、その時点での現実解でなんとか折り合いをつける、そういうクイック&ダーティーな「頓知」で同社は切り抜けようとしている。

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