ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

「ドラッグストアは安全なのか」 医薬品ネット販売規制取り消し求め行政訴訟

» 2009年05月25日 16時00分 公開
[ITmedia]

 医薬品のネット販売規制には明確な理由がなく、営業権の自由を保障した憲法に違反するとして、ネットで医薬品を販売するケンコーコムとウェルネットは5月25日、ネット販売などを規制する厚生労働省令の取り消しなどを求める行政訴訟を東京地裁に起こした。

 厚労省はネット販売規制を見直さず、離島などを対象に2年間の経過措置を盛り込んだ上で省令を交付する方針。改正薬事法の施行に伴い、6月から医薬品のネット販売はビタミン剤など副作用リスクが低い「第3類」に限られ、「第1類」「第2類」に含まれる一般的なかぜ薬などはネット販売が禁止になる可能性が高い。

 ケンコーコムの後藤玄利社長は「客が自分で薬を取り、バイト店員が売るドラッグストアは『対面販売』と言えるのか。とうてい安全とは言えないと感じている」と批判。コンビニエンスストアが薬剤師不在でも医薬品販売ができるのに対し、ネットでは薬剤師がいても販売できないのは不公平であり、「省令が安全を基準としたものではないことを露呈している」などとして、販売継続を法廷で訴えていく。

photo 会見する原告

「二重に違憲」「ネット販売のほうが安全」

 訴訟では、(1)第1類・第2類医薬品を通販する権利があることの確認、(2)厚労省令の関連条項が無効であることの確認、(3)厚労省令の関連条項の取り消し──を求めている。

 問題の省令は、今年2月6日に公布した「薬事法施行規則等の一部を改正する省令(厚労省令第10号)」。改正法の条文上は、第2類の医薬品を販売する場合は、「薬剤師か登録販売者が必要な情報を提供するよう努めなければならない」としているのみで、対面販売限定・通販の禁止は省令が定めている。

 両社は省令について、「改正薬事法の範囲を明らかに超えており、営業権を剥奪(はくだつ)するものだ」として違憲を主張。「国民の権利を制限するような立法は国会でなければできず(憲法41条)、大事なことを省令で決めることはできない。仮に国会で決めたとしても営業の自由を保障した憲法に違反する(憲法22条1)」(代理人の関葉子弁護士)として、省令は「二重の意味で違憲」と指摘している。

 またネット販売などの通販を厳しく規制している点も批判。省令では、コンビニが売り場条件などをクリアし、「登録販売者」の資格を持つ人がいれば、薬剤師がいなくても第2類医薬品の販売を認めている。一方、ネット販売では薬剤師がいても第3類医薬品しか販売できなくなる。後藤社長は「ドラッグストアなどはアルバイト店員を登録販売者に仕立てることで薬剤師不足を解消できる。規制緩和が進む一方で、なぜネット販売だけが割を食うのか」と不満をあらわにしている。

 ネット販売が原因による副作用などの事故例が報告されておらず、「ネットのほうが危険であるという決めつけはおよそできない」(代理人の阿部泰隆弁護士)として、立法の必要性を裏付ける「立法事実」がない点も、規制が不要だとする根拠として挙げている。

 「むしろネット販売のほうがはるかに安全だ」(後藤社長)。ケンコーコムなどの通販サイトの販売ページでは、医薬品パッケージに書かれた説明文に加え、同封の説明書に書かれている詳しい説明を読むこともできるようになっている上、購入時には問診票が表示され、アレルギーや年齢制限などに問題がないかチェックしない限り購入できないようにしている。不明な点があれば常駐薬剤師が電話かメールで質問に答える体制もある。「安全性と利便性がトレードオフ関係にあるという認識は間違い。ネットは安全を確保した上で利便性を提供している」という立場だ。

  薬剤師でもあるウェルネットの尾藤社長は「改正薬事法の理念はセルフメディケーション(自分の健康は自分で守る)であり、薬剤師としてこれには賛成している。だが省令には大反対。こんなおかしなことには反対せざるを得ない」と強く反発している。

訴訟は「1年程度はかかる」

 訴訟は自らネット販売を手がける両社が原告として提起。ネット販売規制にともに反対してきた楽天やヤフーなどはショッピングモールの運営者という立場から、今回の訴訟では当事者ではないため参加していない。

 既に厚労省は経過措置を盛り込んだ省令を近く公布る方針を固めているとされる。阿部弁護士は「日本の裁判は時間がかかるため、1年程度はかかるだろう。国は得だと思ったら時間引き延ばしにかかるかもしれない」と話す。省令がそのまま公布された場合、後藤社長は「悪法といえど法は法」として従う方針だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.