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» 2009年10月08日 07時00分 UPDATE

「あなたも宇宙開発を」 “初音ミク衛星”打ち上げ目指す「SOMESAT」 (1/2)

「初音ミク」を宇宙へ――お茶の間から参加できる衛星開発を目指し、「SOMESAT」が離陸した。「アポロ11号の時代とは違い、宇宙は身近になっている。自分の手で作った物を、宇宙に打ち上げるチャンスもあるんです」

[岡田有花,ITmedia]
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 米国・ネバダ州の広大な砂漠で9月末、1基のロケットが打ち上げられた。乗務員は3体の「はちゅねミク」。ロケット内に小さな体を納め、手に持った長ネギを振り続けた。

 衛星開発プロジェクト「SOMESAT」(サムサット)の一環だ。高さ約2メートルのK-550ロケットに、ミニサイズの可動式はちゅねミクフィギュアが搭乗。約1.5キロまで高度を上げ、無事戻ってきた。

 SOMESATは、お茶の間から参加できる衛星開発を目指し、有志が進めているプロジェクトだ。シンボルは初音ミク。ミクなどキャラクターを載せた衛星を軌道に打ち上げることが最終目標だ。

 夢物語ではない。「宇宙は身近になっている。ロケット打ち上げが国家プロジェクトだったアポロ11号の時代と違い、自分の手で作った物を、宇宙に打ち上げるチャンスもあるんです」と、プロジェクトを引っ張っている森岡澄夫さん(41)は話す。

いつか自分の作った回路が宇宙へ飛んでいってほしい

 「お茶の間から宇宙開発を」。SOMESATは、そんな思いで離陸した。

 メンバーは週1回金曜日夜に定例ミーティングに集まり、技術面や法律面、広報など、あらゆることを話し合う。ミーティングは実際に会うのではなく、ネット上のIRC(Internet Relay Chat)。「実体不明な組織」だと森岡さんは笑う。

画像 森岡さんが作成したはちゅねミクフィギュアの型紙はWebサイトでダウンロード公開している

 参加者は、ネットなどを通じてSOMESATを知り、興味を持った技術者や学生など。総勢60〜70人程度だが、出入りも激しく、常に参加するのは10人ほどだ。飛び入り参加は常に歓迎しており、顔も本名も知らない参加者もいる。

 母体は「ニコニコ技術部」だ。ニコニコ動画に集まる技術者たちのコミュニティーで、ネギを振る小型の可動式はちゅねミクフィギュアを作ってその小ささを競い合うなど、技術力を“無駄遣い”したチャレンジを続けてきた。森岡さんは「はちゅね小型化戦争」と呼ばれたこの争いの火付け役。最初は4センチのフィギュアを、最終的には1ミリのものを投稿し、争いをヒートアップさせた。


画像 ロケットを分解する森岡さん

 本業はLSIエンジニアだ。NTT、ソニー、IBMを経て、現在はNECに勤めており、「プレイステーション・ポータブル」(PSP)や「プレイステーション 3」(PS3)のLSIも手掛けた。

 小さいころから宇宙が好き。NASA(米航空宇宙局)やケネディ宇宙センターにも足を運び、ロケットやスペースシャトルの打ち上げを何度も見た。「自分の作った回路がいつか宇宙へ飛んでいってほしい」という夢も、抱き続けてきた。

 技術部員でSF作家の野尻抱介さんと知り合い、夢が現実に近づいた。「初音ミク衛星を宇宙へ」。そんな構想を温めていた野尻さんらと一緒に、東京大学中須賀真一研究室が開発した10センチ角の衛星「CubeSat」を見に行き、「これなら作れるのではないか」と具体的な検討をスタートした。

多摩川の河原で、はちゅねミク無重力実験

 第1ステップとして森岡さんは、モデルロケットを打ち上げるためのライセンスを取得。全長60センチほどの入門ロケットを購入し、多摩川の河原で打ち上げ始めた。

 ロケットで無重力状態を作り出し、ミクにネギを振らせよう――モデルロケットに超小型はちゅねミクフィギュアと加速度センサー、カメラなどを満載し、実験をスタートした。「上空でネギが振れない」「パラシュートが開かず、地面に激突」。失敗しては試行錯誤を繰り返し。これまでに60回以上、打ち上げてきたという。

 宇宙空間の超高温・超低温でも問題なく稼働するフィギュアを作るため、フィギュアをドライアイスの上やオーブンの中で動かす実験も。実験の様子は撮影し、動画をニコ動に公開。プロジェクトは「HAXA」(はちゅね宇宙航空研究開発機構、後に「SOMESAT」に改名)と名付けられ、金曜夜の定例IRCもスタート。参加者も増えていった。

 ロケット開発やフィギュア作りは、平日の帰宅後数時間や休日に行う。妻と小学4年生の娘、幼稚園児の息子も宇宙が好き。「妻はミク人形を作ったりしてくれる。娘もロケットにミクの絵を描いてくれたり、ケーキ型ロケットを作ったりしていますよ」と、家族も巻き込んでいる。

アメリカ出張ネギ振り

画像 XPRSに参加した“痛ロケット”を持つ森岡さんと石井さん。一段ロケットで、野尻さんや、石井さんと親交のある松本零士さんのサインも入っている

 モデルロケットには出力によって規格があり、日本国内で大出力のものは打ち上げられない。実験を先に進め、はちゅねミクをさらに空高く打ち上げるには、米国など海外に渡るしかない。

 「ここまで来ると、1人だけではできない」――モデルロケットの愛好家が集まる「武蔵野ロケットクラブ」の力を借り、森岡さんは9月、米国ネバダ州のロケットコンテスト「XPRS」(eXtreme Performance Rocket Ships)に参加。はちゅねミクを載せた全長約2メートルのK-550ロケットを、共同で組み上げた。

 武蔵野ロケットクラブは日本のロケット愛好家団体で唯一、米国に渡ってロケットを打ち上げている本格派の集まりで、ペイロードプロジェクト(ロケットに荷物を積載して打ち上げるプロジェクト)も進めている。「初音ミクはよく知らなかったが、後で調べてファンになった」と、はちゅねミクをペイロード(荷物)として受け入れた、ロケットクラブ代表の石井亮さんは話す。

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