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「あなたも宇宙開発を」 “初音ミク衛星”打ち上げ目指す「SOMESAT」(2/2 ページ)

» 2009年10月08日 07時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 XPRS用のロケットは、米国で市販されているロケットキットを改造。はちゅねミクステッカーを貼り付けた「痛ロケット」仕様にし、3体のはちゅねミクと5台のカメラ、姿勢や速度を計測する慣性計測装置(Inertial Measurement Unit)を搭載した。20万円程度の費用で10人ほどが関わり、数カ月で完成したという。


画像 ペイロード部。小型の加速度センサーやジャイロセンサーでIMUを作った。携帯電話向けカメラや、ゲーム機向けセンサーの進化に伴い、小型で高性能な機器も手に入りやすくなったという。デュアルCPUで構成。別のIMUを電源を分離して搭載し、冗長構成にしてある
画像 加速度・ジャイロセンサーは3軸あるため、はちゅねも3軸。フライト経験のある“ベテラン飛行士”たちだ
画像 市販品を改造したカメラを5台内蔵。うち2台はHD画質だ

画像 打ち上げ前の“痛ロケット”

 9月のシルバーウィークに渡米。はちゅねミクやIMUを搭載した部分は、壊れないよう手荷物として機内に持ち込んだ。成田空港では問題なかったが、米国国内線の手荷物検査に引っかかり、セキュリティ部門のチーフと爆弾処理班までやってきたという。分解して説明し、30分かけてやっと分かってもらったそうだ。

 XPRSへの外国人参加は珍しく、日本人の感性で細やかに作り込まれた“痛ロケット”は、米国人に「She is beautiful!」と感歎を浴びたという。「これはお前の嫁か?」――ミクステッカーを見た米国人にはそんなジョークも浴びたと、石井さんは笑う。


画像 ネバダ州ブラックロック砂漠で行った打ち上げの様子
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 打ち上げ場所は、ネバダ州の広大な砂漠の真ん中。3体のネギ振りはちゅねを載せた痛ロケットは、1.5キロの高さまで勢いよく飛び、上空でパラシュートを開いて無事に帰還した。はちゅねは中で元気にネギを振り続け、IMUも問題なく動作した。「パラシュートを見て泣きそうになった。想像以上にうまくいった」と森岡さんはほっと胸をなでおろす。

 来年のXPRSでは音速突破を目指す。IMUを使ってロケットの姿勢を自動で制御したり、地上と通信する仕組みも作っていく計画。5年後には100キロ上空に弾道ロケットを打ち上げたいと夢はふくらむ。

「衛星は技術的には可能」 課題は

画像 「CubeSat」をお手本に作った衛星のモックアップ(SOMESATのWikiより)

 最終目標にしている衛星の打ち上げは、東大のCubeSatがお手本だ。ソーラー発電装置や地上との通信装置などを研究中で、「技術開発は1〜2年で問題なくできるだろう」と森岡さんはみている。

 課題は、開発した衛星をどうやって宇宙に打ち上げるかだ。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の打ち上げに相乗りさせてもらうか、海外のロケットに乗せてもらうかの2つの選択肢があるが、前者だと、社会的に納得してもらえる意義付けが必要。後者は数百万円から1000万円の資金が必要になるという。

 JAXAの相乗り衛星に応募する可能性を考えた末、「HAXA」(はちゅね宇宙航空研究開発機構)と呼んでいたプロジェクト名は「SOMESAT」に改名。JAXAをもじるのもやめ、「はちゅね」というキャラクター名を取り払った。

 法人化も検討している。「ネット上では匿名の集団でもいいが、匿名では契約を結べない。実社会と関わる活動をするなら組織化は不可欠」

 SOMESATは組織で1つの目標に取り組む企業と異なり、締め切りもなければ上下関係もなく、メンバーそれぞれが個人的なモチベーションで参加している。プロジェクトマネージメントと、メンバーのモチベーション維持も重要な課題だ。

 「会社なら強制的に上下関係が作れるが、ネットは指揮体制が難しい。個人プレーから一歩踏み込み、1人でできないことも補完できる体制を作っていかないと」

あなたも宇宙開発を

 “お茶の間技術者”が集まるSOMESAT。技術が本業の人もいれば、まったく関係ない職業の人もいるが、「本業の人より、好きでやっている人のほうが、もの作りはうまい」と森岡さんは言い切る。「理系じゃないとできないと思い込んでいる人が多いかも知れないが、もの作りのセンスと学問は関係ない」

 技術以外の“お茶の間専門家”も募集中。ロケットや衛星のデザイン、資金調達、法務、テーマ曲やイラスト、動画……あらゆる方面の力が必要だ。

 「ミクが宇宙に行く」と聞いたとき、何をしたいか――自由なアイデアも求めている。「技術者ばかりでは発想が閉塞する。クリエイターなど違う世界観の方々から、アイデアを提案してほしい。是非一緒にやりましょう」

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