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「ニコ動だけではない」 天才と廃人が作ったドワンゴの歴史ひもとく書籍

» 2009年10月09日 07時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 「dwango.jp」のロゴが現れる着メロのテレビCMに見覚えがある人は多いかもしれない。「ジリリリリン、電話だよ」。GACKTさんがこうつぶやくCMも話題になった。

 「ドワンゴはニコニコ動画だけではない」と、川上量生(のぶお)会長は言う。川上会長が1997年に創業した同社は、ゲームの受託開発を手掛け、着メロや着ボイスでヒットを飛ばし、ニコ動という新しいフィールドに踏み出した。

 その歴史を草創期から振り返る書籍「ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語」(佐々木俊尚著、アスキー・メディアワークス)が、10月10日に発売される。「ニコ動がヒットしている今なら興味を持ってもらえるのでは」と、“社史”出版を決めた。

「ニコ動でたまたま当てた会社」ではない

画像 川上さん

 「ドワンゴは、ニコ動でたまたま当てた会社だと思っている人も多いだろう。“ぽっ”と出てきたよく分からない会社と思われているかもしれない」――そう感じたことが、出版を考えたきっかけだ。

 よく分からない会社というイメージは、戦略的に作ってきたものだ。創業時はネットワークゲームの受託開発を、その後は着メロを手掛けてきた同社。「あまり目立つと、受託先や携帯キャリアに目を付けられると思って」会社をPRすることは控えてきた。

 その結果、「ブラック企業」「麻生(元首相)グループの支配下にある」など事実無根の噂も広まった。「ネット上の妄想はふくらむので、一度はちゃんとした情報を出しておこう」という思いもあった。

 「不思議な会社で、気になっていた」――川上会長など30人近くにインタビューを行い、書籍を執筆した佐々木俊尚さんも話す。「ゲーム製作集団のBio 100%(バイオひゃくパーセント)が母体になっているということは知っていたが、モバイルのゲームや着メロ、ニコ動もやった。そんな会社はほかにはない」

天才と廃人が作った会社

 物語は、ニコ動の開発者・戀塚(こいづか)昭彦さんなど天才技術者が集まっていたゲームサークル「Bio 100%」の草創期に始まり、川上さんのサラリーマン時代、ドワンゴ創業、携帯ゲームや着うたサイト「いろメロミックス」「着ボイス」のヒット、ニコ動開発に至るまでの失敗と成功の歴史を描いている。

 登場する人物は超個性的で、「天才と廃人が作った会社、というタイトルにしようと思った」(佐々木さん)ほどだ。例えば、オンラインゲームに没頭する“廃人”として、今のニコニコ動画の運営長・中野真さんの人物史も描かれている。

画像 佐々木さん

 「ドワンゴは部長以上の技術者に、大卒が1人しかいない。廃人は本当に、多かったですよ」と川上さんは笑う。「ちゃんとした優秀な人は一流企業に入ってしまう。ドワンゴのようなベンチャーは、踏み外した優秀な人を選ぶという方法を採った」

 書籍には、オンラインゲームで知り合った仲間を誘ったり、個人サイトを運営している大学生にネットで声をかけるなど、ユニークな採用法も描かれている。同社は2007年、2ちゃんねるで募集した技術者の採用を始めて業界を驚かせたが、それも唐突なものではなく、「踏み外した優秀な人」を雇おうという採用の歴史の流れに乗っていることが分かる。

「モバゲー」のようなものを作りたい ニコ動前夜

 ニコ動は、着メロ事業が沈んで手詰まりになる中、「モバゲータウン」のようなものを作りたいと発案したものだ。

 書籍には開発までの七転八倒や、GACKTさん、夏野剛さん、ひろゆき氏など、ニコ動を動かしたキーパーソンとの出会いも描かれ、唐突に見えたニコ動の動きの裏に、綿密な計画や、なるべくしてなった背景があったことが分かる。

 「どういう人がいてどういうことを考えてやってきたかをオープンにすることで、ドワンゴへの変なイメージを払拭したい。ニコ動への見方も変わる人が多いと思う」と川上さんは話す。

 ニコ動が立ち上がり、人気を得たところで物語は終わる。「ニコ動についてこれ以上書くと、ニコ動の本になってしまい、ドワンゴの歴史とは違うものになるから」(佐々木さん)。

 ドワンゴとニコ動の歴史は、これからつづられていく。

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