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» 2009年10月15日 07時00分 UPDATE

公共性とビジネスの狭間で 国会図書館、書籍電子配信の取り組み (1/2)

Googleブック検索問題が波紋を広げる中、国会図書館が電子化した書籍を有料配信しようという構想が浮上している。実現には権利者との合意や予算の問題など、いくつものハードルが立ちはだかる。

[岡田有花,ITmedia]
画像 長尾館長はGoogleブック検索和解案について「著作権を尊重した形でやってもらわないといけないが、著作権者不明の書籍を積極的に世界中の人が利用できるようにする努力は評価できる」と話す

 「Googleブック検索」和解案が出版業界に波紋を広げる中、国立国会図書館が電子化した書籍を、ネット上で安価に読めるようにしようという構想に注目が集まっている。

 国会図書館の書籍を読むには現状、都内の本館や京都の関西館などに直接足を運ぶしかない。だが、書籍の電子化が進み、データをネット配信できるようになれば、国会図書館の貴重な書籍を全国どこにいても読めるようになる。

 「図書館は紙の書籍を貸し出す仕組みだが、電子的なデータを貸す、という概念もあるのではないか」――電子図書館の研究者としても知られる国会図書館の長尾真館長(元京都大学総長)は話す。

 ただ同時に、出版社や著作者などの利益を損ねない仕組み作りも必要で、議論は入り口に立ったばかり。さまざまな問題が立ちはだかり、一足飛びに実現というわけにはいかないようだ。

蔵書400万冊、いつ電子化できるかは「不明」

 国立国会図書館は以前から、書籍電子化の取り組みを行ってきた。古いものや破損のひどいものから電子化を進めており、これまでに明治・大正時代の書籍約15万冊を電子化。「近代デジタルライブラリー」としてネットで公開している(貴重書をネットでどうぞ 国会図書館の電子化事業、著作権処理に課題も)。

 電子化の際は、著作権のクリアに手間とコストがかかっていた。著作権保護期間が切れていない書籍を電子化(電子データとして複製)するには、著作権者の許諾が必要。著作権者の所在が不明な場合は「裁定制度」を使い、供託金を支払っていた。近代デジタルライブラリーで公開している明治時代の図書のうち約75%は、裁定制度を利用していたという。

画像 自民党政権下の2009年度補正予算で、126億円もの電子化予算が付いたが……

 この手間を大幅に削減できる著作権法改正が6月に成立した。国会図書館がアーカイブ目的で書籍を電子化する際、複製に著作者の許諾が不要になったのだ。加えて、自民党政権下の2009年度補正予算で、126億円もの電子化予算が付いた。これまで9年間の予算(合計14億円)の約9倍と巨額で、戦前から1968年までの書籍約90万冊の電子化を一気に進められると期待された。

 だが、政権交代で補正予算の見直しが入り、電子化予算の行方も不透明になっている。「補正予算がそのまま使えたとしても、電子化できる書籍は1968年までの約90万冊。国会図書館の全蔵書・約400万冊をいつ電子化できるかは不明」と、同図書館の田中久徳 電子情報企画室長は話す。

著作権者に配慮 電子化は「画像のみ」「館内利用のみ」という制限

 新法下で認められた無許諾の電子化にも、出版社や著作権者の権利を侵害しないよう、厳しい制限がかかっている。(1)複製データは当面、画像のみ。OCRなどによるテキスト化は行わない(別途、協議して方針を決める)、(2)電子化したデータの閲覧は、国会図書館と関西館、国際子ども図書館の館内のみ、(3)同時に閲覧できる利用者数は、所蔵している書籍の実数を超えない範囲にする――などだ。

 電子化はあくまで保存が目的で、紙の書籍以上の機能を持たせるべきではないという考え方を背景にした制限で、国会図書館と著作権者団体、出版者団体などで構成する(構成員PDF)「資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会」で議論した結果、決まった措置だ。同協議会の合意事項(PDF)には、「デジタル化の実施に際しては、権利者を始めとする関係者の理解と協力を得るように努め、民間の市場経済活動を阻害することがないよう十分に留意する」とも書かれており、出版社などが商業的に電子化している資料は図書館では電子化しないといった、細かい配慮も記されている。

画像 田中室長

 電子化した書籍のネット配信(公衆送信)も認められておらず、配信には別途、著作権者の許諾が必要だ。地方図書館に配信することも現状では不可能。ネット配信だけでなく図書館間の配信もできないのは、「国会図書館の本を電子データで地方図書館に配信できると、図書館しか購入しないような貴重書が売れなくなる、という出版社側の危機感がある」(田中室長)ため。例えば、地方図書館の利用者が国会図書館の貴重書を閲覧したい場合、データがあったとしても配信はできず、書籍の現物を郵送してもらうという旧来のままの方式を続けるしかない。

 ただ地方図書館への配信は、解禁の可能性も見えていた。総務省が2009年度の補正予算事業として、図書館職員向けの配信実験する予定で、具体的な計画も進んでいたのだ。だがこの計画も、補正予算の見直しで先行き不透明になっている。

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