対談・肉食と草食の日本史
童貞謙信は「魔法使い」!? 草食男子と江戸の平和
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人口が一気に増加した草食江戸時代
堀田 しかし実際、鎌倉武士を引合いに出して規制緩和を唱えた本もありましたが、規制緩和が進行して競争原理が導入されると、なぜか少子化がクローズアップされるようになりましたね。
本郷 戦国時代でも、なんでもあり状態の織田信長時代が過ぎると、徳川家康がそれを止めた。「狭いところでちまちまやりましょうよ、鎖国もしましょう」と。でも金髪美人だけはいいよ、と(笑)。
堀田 秀吉のなにがいけなかったのかというと、応仁の乱から続いてきた戦乱がやっと収まって、みんなやれやれと思っている矢先に、「今度は明国に攻めこむぞ」とひとりテンションを上げていたところですね。スーパー肉食系の戦国大名たちにまで「アンタまだ戦争すんのか!」って思われた(笑)。
本郷 豊臣政権がダメになったのは、基本的にそれが理由だと思います。強引すぎる拡大路線に、周りのみんなが疲れちゃった。征夷大将軍にならなかったからとか、幕府を作らなかったからだとか、そんな理由は瑣末(さまつ)なことです。
議論のあるところだと思うんですが、もしも秀吉の拡大路線がみんなの支持を得られるものだったなら、豊臣家を継いだ秀頼が子どもでも十分だったんじゃないか、と僕は思う。だけど実際の当時の人たちにとってみれば、家康の目指した縮小&草食路線のほうが分かりやすかったんでしょうね。
堀田 草食系の自分としてはぐっと実感できる話ですね。茶の湯の師匠とかお坊さんまで、戦争に出てた時代ですもんねえ……。
本郷 秀吉当人は金ピカ主義で、めちゃくちゃ楽しかったんだろうけど(笑)。そういえば、今後の大河ドラマの主人公になる二代将軍の秀忠の嫁さんは、先程も出た淀君の妹で、亭主の秀忠より7つ上。秀忠のもとへ嫁ぎにくるまでに、何度も結婚・出産を経験しているんですよ。秀忠本人が、それでもOKだったんです。
前の旦那とはどうだったんだい、とかいって萌えてたんですかね。まあ~、しょうがない奴です(笑)。秀忠は草食系。
僕はコーエーの例のゲームに、諸大名のパラメータとして「モテ度」も入れるべきだと思うんです。モテ度を高めておくと、送り込まれてきたお姫さまがポーッとなったりするんです。って『ラブプラス』じゃないんだから。でも徳川家康や秀忠はモテ度は低そう。
堀田 魅力というパラメータはありましたがモテ度か……。それは民忠誠度も上がりやすそうですねえ。しかしながら、上杉謙信や信長のモテ度は高そうですが、武田信玄あたりはモテないんだろうな……
しかし考えてみれば謙信は「女に触れたら弱くなる」という訳で生涯不犯を貫いた。まっ、童貞だったわけで、これはまんま魔法使いの論理じゃないですか。
本郷 「30歳まで童貞ならば、魔法使いになれる」という。
堀田 魔法使いの人は謙信と同じなのだよ! と。
本郷 いやちょっと待ってください。三十路童貞が軍隊率いて戦争してるのかどうか(笑)。
堀田 「申し上げます。敵方リア充3万! こちら童貞兵200!」か。勝てそうにないかも。
本郷 魔法使いレベルじゃ足りなくて、大魔道士じゃないと。そういえばヤングマガジンの『センゴク』というマンガだと、謙信はほぼ理解不能な奇人になってましたよねえ。
堀田 見た目からしてそんな感じになってますよね。しかしまあ、徳川秀忠のような人が草食系の元祖になってくれたおかげで、天下泰平300年の礎ができたのですから、ありがたいことですよ。
本郷 趣味の世界に没頭する、というような「草食系クオリティオブライフ」が発生したのもつい最近、江戸時代のことですからね。
どんな名馬であったとしても、走れなくなった競走馬はミンチにされる。走れなければ死ぬしかない――それが中世という強烈なストレスを生きることだったんです。頭がいいとか顔がいいとか、そんなことはどうでもいい。いかに強い個体であるか、生き延びることができるのか。そんな時代が江戸時代に入るまであまりにも長かったんです。
堀田 世界史でも、スパルタなんかは独身で子をつくれない個体は罰されたそうですね。「私たちは共同体に寄与していない罪人です」という歌を歌わせられながら、街を引きまわされる。「ひどすぎる。スパルタに生まれなくてよかった。現代でよかった」と心の底から思います。どうせ「300」にだって絶対入れてもらえないし。
本郷 結婚しないことをとやかく言われないようになったのは、つい最近になってからですよ。「男が結婚するのは、会社への忠誠心を見せるためだ」と僕の父は言っていました。嫁と子どもがいるやつは、会社のカネを使い込んだりしない、という発想らしい。
今にしてみれば冗談じゃないですよね(笑)。まあ、専業主婦の存在には、エロス的な憧れもなくもないんですが。
本郷和人
1960年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所准教授。「武士から王へ―お上の物語」(ちくま新書)、「天皇はなぜ生き残ったか」(新潮新書)などの著書のほか、「センゴク バトル歳時記」(講談社)などの編著書もある。アカデミズム界の気鋭でありながら、娯楽領域でも活躍する歴史学者。近刊は「武力による政治の誕生」(5月6日刊、講談社選書メチエ)。
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