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草食化する男子、肉食化する女子対談・肉食と草食の日本史

» 2010年05月13日 17時52分 公開
[本郷和人, 堀田純司,ITmedia]
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現代消費社会、男子は草食系へと進化した

堀田 その明治の後、一気に現代史ですが、「生産」の時代が終わって「消費」の時代が訪れた。生産の時代は、生産手段を握っていたのは男でしたから、まだ強みがありましたが、消費の主役は女性。世の中の価値はどんどん女性原理で決まるようになってしまいました。

本郷 堀田さんはいつからが消費社会だと思いますか。

堀田 日本人の摂取カロリーは戦後ずっと上昇を続けて、1970年代初頭にピークを迎え、そこから逆に減少していくそうなんです。それまでは欠乏の社会で、みんな一生懸命栄養をとっていた。それが、70年あたりに逆転して、モノがあるのは当たり前。ダイエットが必要な世の中になった。ここからが消費社会だと思っています。

本郷 僕は、世の中が消費行動で成り立っていった戦後以降のすべてを消費社会と言うと思う。そして戦後は、暴力や武力が完全に否定された世界でもありました。つまりオモテ向きの言い方をするならば、ハンデを負った人たちがどれだけ大切にされているのか、ということがその国の成熟度を示すバロメーターなりますが、その意味で成熟期を迎えた社会になりました。

 そうした社会で、もはや「力」の点で不利をこうむることなく、消費社会を支える女性たちが強くなっていった。

堀田 相原コージさんと竹熊健太郎さんの「サルでも描けるまんが教室」で、男の欲望と女の欲望を図式化していましたが、男の欲望はストレートにセックス。ま、これも2000年代はもっと違うかもしれませんが、一方、女の欲望はブランドバッグやら美容やらで複雑怪奇。

 リナ・ウェルトミュラーという女性監督の『流されて』『流されて2』という映画がありますが、これを見ても、やっぱり女の人の欲望って複雑でややこしいんですよ。単純に「強い男に憧れる」ではなくて、女性が強い男を支配したうえで、しかもさらにその男に自分が支配されたいという複雑怪奇なものでした。

 韓流スターに大騒ぎする女性を見ていて思うのは、お前らが強い男たちを滅ぼしてしまったのに、国内にいなくなったら、外を向いてキャーキャーとは何事か! と感じます。

本郷 今ではまさしく草食系というものが、彼女たちの欲望の受け皿になっているんですね。歴史の流れによって肉食文化が制限されてゆくなかで、女性はどんどん肉食としての本能をむき出しにしていったんです。

 そんな彼女たちが、草食系の極北であるオタク男子たちを敵視するのはなぜなんだろう。許せないものがありますねえ。

堀田 よく分かります。「空気の抵抗がなくなればもっと早く飛べるのに」と思った鳥が、いざ空気がなくなるとそもそも空が飛べないようなものです。ですが、女性たちはもっと自由になりたいと思って、自分たちの自由を制限する肉食男子が生きにくい世の中にしてしまった一方で、「いい男はみんな結婚しちゃったわ〜」とため息をつく。

本郷 おまえらが滅ぼしてしまったくせに。

堀田 滅ぼしてしまったくせに。

本郷 ここで素朴な疑問なんですけれど、オタクって美人が好きなんでしょうか。僕自身、オタクとして思うのですが、現実世界で「リアルでも美人の女性がいい」という価値観は、オタクのプライドからすると一番言っちゃいけないことじゃないかと思うんだ。

 女性サイドがオタクな僕たちを認めるというのなら、相手が美人であればあるほど、僕たちの存在意義が失われることになる。だから僕は、「男気のある、イマイチな外見の女性を歓迎しようよ」って言いたいんです。

堀田 「ブサかわいい」のがいいという人もいますね……。僕もその気がありますが……

本郷 オタクたちは、男気があって気持ちのよいブスと家庭を持つべきなんです。外見やロマンス感覚については、かつて恋愛結婚などなかった江戸時代の男たちが、遊郭にそれを求めたように、2次元の女性を想えばいい。

 「リアル男気ブス×2次元美人」というハイブリッド婚を達成すれば、オタクの論理武装が完成します。ここで現実の奥さんにリアルの美人を求めてしまうと、おまえらは勝手なことを言っている、と女性から弾劾されてしまうでしょうね。

堀田 なるほど。作家の皆河有伽さんは、「評伝シャア・アズナブル」で「ロリコンとマザコンは、対象が自分を無条件に認めてくれる存在という一点で一致している」と指摘していました。ま、シャアについてなのですが。しかし、相手が自分を認めてくれるというのは大きなポイントで、それがなにより大事と言えますね。

 投入されている商品を見ると人の欲望の形がわかると思うのですが、日本市場に投入されている女性タレントは、ボインときれいなお姉さんと美少女の3種類しかいない。でも、ボインといっても、キム・ベイシンガーみたいな金髪セックスアピールむんむんは伝統的に苦手で、ロリ巨乳とかになってしまいます。きれいなお姉さんは男よりむしろ女性が支持している。

本郷 たしかにオタクは3次元の押し出しの強い美女が、そもそも苦手でしょうね。食われちゃいそうで(笑)。やっぱり、ゆうこりんみたいな柔和なタイプがいいのかな。目の肥えたマスコミの男性たちも惑わされると聞きますから、いわんや世の中のオタクたちをや。

堀田 おっしゃる通り、ある種の雑誌のグラビアでは、意思の強さを感じさせるようなショットはウケないそうです。

本郷 目を転じて、「ヤングマガジン」なんかに出てくる主人公はホストやヤクザだったりと、基本的に肉食ですよね。すると、グラビアの路線も肉食ボイン系になる。編集の方に聞いたら、「メスのにおいのする写真を撮る」んですって。

 僕なんかはそんな肉食グラビアを見ていると、「うわ〜〜」と萎縮しちゃう。オタク男たちが、かつてのゆうこりんに代表されるような土俗的なグラビアで癒されるのは、すごくよく分かります。

 アイドルネタで告白しますと、僕が日ごろ一生懸命仕事をしているのは、なんとか安めぐみさんとコンタクトが取れるステイタスにいきてーなー。という成り上がりパッションがあるからです。イヤ、本当に目の前にいたら、しゃべれないと思いますけどね。

堀田 ちなみに僕は小倉優子さんのファンですね。ファンでした。

本郷和人

 1960年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所准教授。「武士から王へ―お上の物語」(ちくま新書)、「天皇はなぜ生き残ったか」(新潮新書)などの著書のほか、「センゴク バトル歳時記」(講談社)などの編著書もある。アカデミズム界の気鋭でありながら、娯楽領域でも活躍する歴史学者。近刊は「武力による政治の誕生」(5月6日刊、講談社選書メチエ)。


堀田純司

 1969年生まれ。作家、編集者。編集者としては「吉田自転車」「えの素トリビュート」「生協の白石さん」などの書籍を企画編集。ライターとしては「萌え萌えジャパン」「人とロボットの秘密」「自分でやってみた男」(講談社)などの著作がある。哲学や政治経済、「体験型映画紹介」など、取り上げる範囲は幅広い。近刊は7月に「生き残る専門誌」(仮)が講談社より発売予定。


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