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著作権侵害は「厳しく規制」、テレビ局も個人もカバー Ustream日本版の“全方位戦略”(1/2 ページ)

» 2010年06月01日 12時18分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 4月末にUstreamが日本語化され、国内での本格展開が始まった。「革命×テレビ」などUstreamを使ったテレビ番組も登場。都内にUstreamスタジオができるなど、普及に向けたさまざまな動きがソフトバンクグループを中心に進んでいる。

画像 Ustream

 Ustreamの国内展開を主導するのは、ソフトバンク100%子会社のTVバンクとUstreamの合弁会社・Ustream Asia(設立準備中)だ。Ustream Asiaは、テレビ局などと一緒に何十万人もが見るコンテンツから、仲間うちで数十人だけが見る個人配信まで幅広く支援。TVバンクや、グループのGyaO!などで培ってきたノウハウを投入し、ライブ動画配信のプラットフォームを目指す。

 「iPhoneひとつで配信する低画質な映像だけがUstreamと思われるのは心外だし、テレビ局などがお金をかけて作った映像だけがUstreamと思われるも心外。個人がお金をかけなくてもやれるし、プロがお金をかけてイベントもできる、幅広いコンテンツを包含するプラットフォームになりたい」と、Ustream Asia社長に就任予定の中川具隆・TVバンク社長は話す。

海賊版規制がテレビ局に安心感、権利者団体と話し合いも

 米国ではCNNやNBC、FOX、ABCといった大手ネットワークがUstreamを活用。バラク・オバマ大統領など大物政治家や公的機関、Disney、Coca-Colaといった大手企業も利用し、ニュースからイベントまでさまざまな映像をライブ配信している。

画像 中川社長

 「従来の動画配信は、ネット事業者がテレビ局やハリウッドなどから有料でコンテンツを買い、レベニューシェアするスタイルが主流だったが、Ustreamの場合はテレビ局などのプロモーション媒体になる代わりに、コンテンツを無料で出してもらうスタイル。お互いの領域を侵害しない」――Ustreamがプラットフォームに徹したことで、メジャーなメディアや企業なども参入しやすかったと中川社長は分析する。

 著作権侵害コンテンツなど“海賊版”への厳しい規制も、企業などが安心して使う理由の1つという。24時間体制で動画をチェックし、第三者の著作権を侵害するような映像や公序良俗に反するようなものは配信を停止。世界で月間数千件の配信停止処分を行っているという。

 ただ規制するのではなく、権利者と話し合いながら、配信で利用できるコンテンツを増やす取り組みも進めている。3月末には、坂本龍一さんらの音楽著作権を管理するジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)から暫定許諾を受け、権利者が利用に同意した作品のリストを公開。リストに掲載されていればCD音源も利用可能という画期的な取り組みで、ソフトバンクグループのマイスペースを通じてスタートした。ほかの国内著作権団体とも「楽曲利用の包括契約締結に向けて話を進めている」という。

日本のテレビ局も注目 各局が連動番組

画像 革命×テレビの制作発表会見より

 日本のテレビ業界でもUstreamへの注目は高まっており、テレビ番組での活用も進んでいる。「在京テレビ局で、Ustreamを使った番組をやったことがない局はないのでは」というほどで、Ustreamの活用方法や技術面の問題、権利処理などについて、各局の関係者と話し合っているという。

 例えばフジテレビは、深夜アニメ枠「ノイタミナ」の新番組発表会の様子をUstreamで配信。TBSはソフトバンクがスポンサードする枠で、Ustreamをフル活用した「革命×テレビ」をスタートした。

 テレビ局は、ネットでの存在感を高め、視聴率を上げるための武器としてUstreamに期待する一方、「下手をすればテレビの視聴率を食い合う恐れのある諸刃の剣」という意識もあり、まずはトライアルとして活用し始めているという。

 米国ではABCが昨年、音楽賞「アメリカン・ミュージック・アワード」放送前、アーティストが会場入りする様子をUstream配信したところ210万人が視聴し、テレビ放送の視聴者数も前年より200万人増えるなど、Ustreamとテレビの相乗効果を実証している。

Ustreamとテレビは住み分けられる

 「Ustreamとテレビは住み分けられる」と中川社長は話す。「テレビは広く浅く、情報をつまんで見るのにはいいだろう。ネットは間口は狭いかもしれないが深く掘り下げ、地上波に上がらない部分や背景を表現できる」

 例えば、テレビで視聴率50%程度を取れば国内5000万人にリーチできるとされるが、ネットで5000万人に同時にリーチするのはほぼ不可能。一方、1000人が見るネット番組を5万作って5000万人にリーチすることは、テレビにはできないがネットならば可能だ。

 「同じ5000万人でも、テレビをただ見ているだけの人と、自分が深く関わりたい問題についての配信を見ている1000人の番組では、後者が深く刺さるのではないか」

Ustreamスタジオで個人の配信も身近に、高画質に

 テレビ局以外のメジャーコンテンツの現場でも、さまざまなUstream活用が進んでいる。クラブイベントを定期的に配信する「DOMMUNE」は、多い時は1万人以上が視聴、「アイアンマン」など新作映画の試写会の配信も行われている。文部科学省がシンポジウムを配信するなど、公的機関による利用もある。

画像 The Owl Box

 一般個人の利用も後押ししていく。「数十人〜100人程度に配信する個人も、連なれば大きな規模になる」ためだ。米国ではフクロウの鳥かごの様子をただ配信し続けるだけの「The Owl Box」など、個人配信の人気コンテンツも多い。

 個人でも利用できるUstreamスタジオを渋谷にオープン。カメラや照明、配信用PCなど機材を無料で貸し出し、手ぶらで訪れても配信できる。「アイデアや芸さえあれば配信でき、画質は個人の自宅のPCやiPhoneなどより高い。スタジオを使ってもらうことで、個人配信動画の質や量を高められる」

 渋谷のカラオケ店舗にWi-Fi設備を設置し、家族や友人と気軽にUstreamを楽しめる「シダックスUSTREAMルーム」もオープン。Ustreamを身近にする狙いだ。Ustreamスタジオの全国展開やフランチャイズ展開も検討している。

 「今は黎明期なので、ソフトバンクグループがUstream番組制作の現場までおりてサポートするといったことも行っているが、基本的にはUstreamはプラットフォーム。撮影や番組制作は本来やるべきことではないと思っている」という思いもある。最終的には、ソフトバンクグループのサポートなしで、企業や個人が自力で配信できる場にしていきたいという。

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