「へらを持つ手は震え……なかった。冷静だった」──小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子が小惑星「イトカワ」のものだったことが判明したが、空っぽに見えたカプセルから微粒子を見つけ、分析にかけてイトカワ由来と断定するまでの道のりは、はやぶさの旅と同じくらい「波瀾万丈でハラハラドキドキ」だったという。
微粒子はわずかな量だが、現在の微量分析の精度は高く、“生”の状態の小惑星のサンプルを人類が直接調べられる初のチャンスになる。「新しい学問が立ち上がる材料になる」と、サンプルの回収・分析を担当する「キュレーションチーム」の科学者陣は声を弾ませる。
キュレーションチームは6月下旬、カプセルの「サンプルキャッチャー」(サンプル容器)「A室」を開封。第一印象は「非常にきれい」(JAXAの藤村彰夫教授)だったと振り返る。「お、きれいと思い、次にすっと汗が引いた。真っ青になり、え、どうしよう。こんなにお金をかけて(何も見つからなかったらどうしよう)……と」(藤村教授)。そこには、肉眼で見える石や砂粒はほとんどなかったからだ。
そんなこともあろうかと、肉眼でとらえきれない微小な試料を回収・解析する体制は整えていた。光学顕微鏡で見える大きさのものはマニピュレーター(針)で取り上げ、50〜60個採取。さらに小さな微粒子を回収するため、テフロン製の特殊なへらでカプセルの内容物をかき出し、電子顕微鏡で分析、1500個程度のイトカワ由来の微粒子を発見した。
へらを使った調査を行ったのは、サンプルキャッチャーに2つある部屋の片方「A室」の一部のみで、「B室」は未開封。A室の未調査の部分からさらに多くのサンプルの発見が期待できるほか、一度目のタッチダウンで使った「B室」は、A室より良い条件でサンプルを回収できたと期待されており、B室の開封も現在、準備中という。
マニピュレーターで採取した大きめの粒子を電子顕微鏡にかけるのも今後の作業。「まだ、へらでひとかきという非常に狭い範囲。サンプルはまだあるし、これからだと思っている」(藤村教授)
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