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1対1通信のロケフリは「自動公衆送信装置」になりうるか 「まねきTV」最高裁判決の内容

» 2011年01月19日 19時03分 公開
[ITmedia]

 日本のテレビ番組をネット経由で海外でも視聴できるようにする「まねきTV」は著作権侵害に当たると初めて判断した最高裁の判決文が1月18日、公開された

 一審、二審判決では、1対1の通信を行うソニーの「ロケーションフリー」(ロケフリ)機器を使ったサービスは、ネットによる不特定多数への送信(送信可能化、公衆送信)には当たらないと一貫して判断してきた。だが最高裁判決では、ロケフリが1対1通信しか行えないとしても、まねきTVは誰でも契約できる以上は不特定多数への送信に当たり、送信の主体もユーザーではなくまねきTVだと判断。まねきTVによる著作権・著作隣接権の侵害を認め、テレビ局側敗訴とした一審、二審の判決を破棄した。

訴訟の経緯

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 まねきTVは「永野商店」が運営するサービス。ロケフリ用ベースステーションを個人ユーザーから預かり、設定済みの端末を使って海外でも番組を視聴できるようにしている。

 これに対し2006年2月、NHKと在京キー局5社が著作権を侵害されているとして、サービス差し止めを求めて仮処分を申請したが、東京地裁は同年8月、請求を棄却。同年12月の知財高裁も地裁の決定を支持して申し立てを棄却し、翌年1月、最高裁への抗告は許可されないことが決定。テレビ局側の敗北に終わった。

 テレビ局側は07年3月、サービス停止と損害賠償を求めた本訴を起こしたが、08年6月の一審・東京地裁判決はテレビ局側の主張を認めず、同年12月の二審・知財高裁もテレビ局側の控訴を棄却。テレビ局側は最高裁に上告していた。

 最高裁は昨年12月、双方の主張を聞く弁論を開いたため、これまでの判決を変更する可能性が出てきたとして、今年1月18日の判決が注目されていた。

知財高裁「ロケフリでは不特定多数への送信は行えない」

 テレビ局側は、テレビ番組を不特定多数(=公衆)にネットなどで配信する状態にできる「送信可能化権」と、配信できる「公衆送信権」を侵害されたと主張してきた。

 主な争点になったのは、(1)まねきTVサービスが「自動公衆送信」に当たるか、(2)送信を行う主体は誰か──だった。

 テレビ局側は「サービスは誰でも加入でき、まねきTV側から見たユーザーは『不特定』に当たる。不特定の者に送信行為を行っているから公衆送信に当たり、アンテナやネットと機器を接続しているのはまねきTV側だから、送信可能化の主体もまねきTVだ」として、まねきTVサービスが著作権・著作隣接権の侵害に当たると訴えてきた。

 これに対し、一審判決二審判決は、

(1)送信可能化は「自動公衆送信装置」(ネット上のサーバなど)の使用を前提としている。自動公衆送信装置は、公衆(不特定または多数の者)が、通信回線を使って著作物を直接受信できるようにする送信機能を持つ装置でなければならない。

(2)ロケフリのベースステーションは、あらかじめ設定した端末との1対1の送受信だけが可能であり、不特定多数への送信は行えないから、自動公衆送信装置とは言えない。ユーザーはまねきTVと契約し、1対1通信を行うためのベースステーションをまねきTVに持参・送付した者なのだから、まねきTVにとってユーザーは不特定または特定多数とは言えない。

(3)ロケフリベースステーションからどの番組を端末に送信するか/しないかはユーザーが決めることであり、まねきTVには決定に関与していない。まねきTVは送信の主体と言うことはできない。

(4)従って、まねきTVはテレビ番組の「送信可能化」には当たらないから、まねきTVが主体となって送信可能化権を侵害したとは言えない。

(5)ベースステーションは自動公衆送信装置ではないから、テレビ番組をユーザー端末に送信することは自動公衆送信には当たらず、公衆送信権の侵害も成立しない。

 ──として、テレビ局側の訴えを退けた。

最高裁「サービスが自動公衆送信に当たるのなら装置も自動公衆送信装置に当たる」

 だが18日の最高裁判決は、一審、二審判断を「是認することができない」とした。

 判決は前提として以下を示した。

(1)著作権法が送信可能化権を定めたのは、自動公衆送信の準備段階を規制することにある(編注:ネット上における動画などの「違法アップロード」がこれに当たる)。

(2)この趣旨からすると、機器に入力したコンテンツなどを、ネット経由で受信者からのリクエストを受けて自動的に送信する機能を持つ装置は、それが1対1の通信機能しか持たない場合であっても、その送信行為が自動公衆送信に当たる場合は、この装置も自動公衆送信装置に当たるというべきだ。

(3)自動公衆送信を行っている主体は、自動公衆送信装置が受信者からのリクエストに応じて情報を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解するべきだ。今回のように装置がネット回線に接続され、これに継続的にデータが入力されている場合には、装置にデータを入力する者が送信の主体である。

 つまり「1対1通信のロケフリは自動公衆送信装置には当たらない」との一審、二審の解釈を退け、サービスによってはロケフリも自動公衆送信装置に該当しうるとした。そしてこの場合、送信を行っている主体はロケフリにテレビ番組データを継続的に入力している者だとした。

 その上で、以下のように結論した。

(4)まねきTVは、ロケフリベースステーションに対し、アンテナで受信した電波を分配機を介するなどして継続的に入力されるように設定し、ベースステーションを事務所に設置して管理しているのだから、ベースステーションの所有者がユーザーであっても、ベースステーションに入力しているのはまねきTVであり、送信を行っている主体はまねきTVとみるべきだ。

(5)ユーザーは誰でもまねきTVと契約してサービスを利用できる。まねきTVからみてユーザーは不特定の者として「公衆」に当たり、まねきTVを主体としたロケフリによる送信は自動公衆送信であり、ロケフリは自動公衆送信装置に当たる。従って、ロケフリベースステーションに放送を入力することは、「放送の送信可能化」に当たる。

(6)アンテナからベースステーション、ベースステーションからユーザー端末まで、まねきTVが送信の主体として行うテレビ番組の公衆送信に当たる。

 ──として、まねきTVがテレビ局の送信可能化権、公衆送信権を侵害しているとの判断を示し、一審、二審判決を破棄。損害額などを算定させるため、知財高裁に審理を差し戻した。判決は裁判官4人の全員一致だった。

まねきTV側「将来に大きな禍根を残す」

 テレビ局側は二審で、まねきTVにとってユーザーは「公衆」に当たり、ロケフリが1対1通信しかできないからと言ってロケフリが自動公衆装置に当たらないとは言えないと主張してきた。最高裁判決はこうしたテレビ局側の主張に沿った形と言える。判決を受け、テレビ局側は、「主張が認められた適切な判断」とコメントした。

 まねきTV側は「国民の著作物利用を制限する不当な判決。今後のネットを利用した活動に大きな禍根を残す」とした。弁護団の小倉秀夫弁護士はTwitterで「日本が情報化社会の進展に完全に乗り遅れて後進国路線まっしぐらになるとすれば、その起点となる裁判例」と批判した。

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