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「ありがとうと言われたいだけのボランティアは 必要としていない」現場ルポ・被災地支援とインターネット

» 2011年04月04日 18時35分 公開
[藤代裕之,ITmedia]

大震災の情報源としてインターネットが活用されているが、被災地からネットで発信される情報はあまりに少ない。震災被害はこれまでの経験と想像すら超えており、ネットにおける被災地支援、情報発信も従来のノウハウが通用しにくい状況だ。

ブログ「ガ島通信」などで知られる藤代裕之さんは現在、内閣官房震災ボランティア連携室と連携している民間プロジェクト「助けあいジャパン」に関わっている。ネットを使った被災地支援の「現場」では何が起き、何に直面しているのか。ネットという手段を持つるわたしたちには何が求められているのだろうか。震災とネット、情報を考える、マスメディアには掲載されにくい「現場」からの現在進行形のルポとして、藤代さんに随時報告していただきます。(編集部)


▼その1:「情報の真空状態」が続いている

▼その2:できる範囲でやる──ボランティア情報サイトの立ち上げ

 「東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)『災害ボランティア情報』まとめサイト」(現在は助けあいジャパンボランティア情報ステーションとなっている)は、開設3日目で1日1万ページビューに達した。入力する情報の増加に対応するために、ソーシャルメディアでボランティア学生を募集することにした。現地に行かず、PCの前での作業が続く情報ボランティアは地道な作業となる。説明会では「ありがとうと言われたいだけのボランティアはプロジェクトに必要としていない」と伝えることにした。

学生ボランティアを募集

 まとめサイトは、ボランティア情報の提供に特化したこともあり、開始直後から震災関連サイトとの連携の動きが始まった。まず「東北関東大震災(東北地方太平洋沖地震)@ウィキ」という総合的に情報提供しているチームからの打診で、ボランティア情報はまとめサイトに集約し、相互リンクを行うことになった。知人であるドワンゴ社員の仲介によってニコニコ動画にバナーが掲載されたこともあり、アクセスも増えたため、まとめサイトのユーザーインタフェースを見やすくする必要に迫られていた。

photo 説明会の様子

 立ち上げ時に集まった有志は、Webページ制作経験者がいたこともあり、まとめサイトのインタフェースの改善に集中。情報を都道府県別に表示したり、検索窓を設置したり、といった改善が順次進んでいった。その一方で、情報の収集と入力が手薄になってきたため、学生ボランティアを募集することにした。

 ブログやTwitterで告知し、都内の公共施設で19日に説明会を行った。サイト開設から数日しか経っておらず、告知も十分とは言えなかったが、ボランティアを希望する都内の大学生など約20人が集まった。春休み期間中だったこと、就職活動が震災や停電の影響でストップしてしまい、予定が空いてしまったという3年生もいた。共通しているのは、未曾有の大災害を前に「自分たちも何かやりたい」という気持ちを持っていることだった。

被災地はボランティア受け入れ困難

 説明会に備えて、今後のスケジュールや取り組みを把握するために、被災地に入った知人のジャーナリストやボランティア関係者から現地の状況を収集していた。

 災害の復興フェーズは、救命・救急、避難所などが設置される避難生活、生活の再建、復興や街づくりというプロセスをたどると言われている。復興は長い時間が必要だが、一般のボランティアが活動するのは、避難生活から生活再建の前半部分が中心となる。これまでの常識で考えれば、1週間経過していれば、避難生活に入り、ボランティアが活躍できる段階が始まるはずだったが、現地から入る情報は「とうていボランティアを受け入れている状況ではない」という話ばかりだった。

 被災地が広域にまたがり、津波で町そのものが壊滅的な被害を受け、行政や都市機能が機能不全に陥っていた。被災地を支援しているボランティアや政府関係者は「これまでの3倍の時間がかかるのではないか」と話すようになっていた。これまでは72時間程度とされた第1段階の救命・救急の段階が続いていると考えられ、ボランティアへの関心が高まっている東京の温度感とはかなりのズレがあった。

「PCの前でやれることをやろう」

 説明会でも、現地に行って何かやりたいという気持ちを持つ学生もいたが、この段階で必要とされるボランティアは、医師や看護師、介護、ボランティアコーディネーターなど専門的な技能や知識を持つ人材に限られ、特別な技能を持たない学生の出番はないこと、不足する食料やガソリンは持ち込むこと、トイレも含めて自前で準備していくことが最低限であり、面積が広く(岩手県は北海道についで二番目に広い)、町が点在する東北エリアを移動するという厳しい状況を乗り越えられるタフな人材や団体であることも条件となっていることも説明し、「東北に行くのではなくPCの前でやれることをやろう」と呼びかけた。

 このような説明を学生にしながらも、「真空状態」の現地情報も3連休を開けたら発信されはじめ、ボランティア情報も増えていくと予想していた。被災地にも被害の濃淡がある。一律に復興に向けたフェーズをたどるわけではなく、ある地点では救命・救急状態だが、被害が小さい地域では生活の再建となっているということがある。まとめサイト開設後、ネットで情報を見ていると、関東近辺では少しずつであるが災害ボランティアの募集が始まっていたのも情報が増えるとの見通しを補強していた(振り返ってみればこれも甘い見通しだったが……)。

「ありがとうボランティア」は必要ない

 マスメディアでは、震災に加えて、東京電力の原子力発電所事故、東京の大規模停電に報道が集中して、浦安のような近郊の被災地には当初あまり目が向けられていなかった。テレビの映像で流れる被害の大きな被災地ばかり見て「現地の手助けになりたい」という気持ちを持つ人に対して、近くでボランティアを必要としているという状況を知らせて、近くにも「現地」があることを伝えればミスマッチが減る。

 ただ、情報を集め、入力し、チェックするという作業は淡々としたもので、ボランティアという言葉で一般的に考えられる高揚感とは縁遠い。炊き出しのように被災者から直接「ありがとう」と感謝されることもない。阪神・淡路経験者の友人は、感謝の言葉を得ることが目的化したボランティアを「ありがとうボランティア」と呼んでいた。このプロジェクトには、ありがとうボランティアは必要ないことを学生に伝えておく必要があった。

 ボランティアを募集しておいて、善意で集まっている人になぜ厳しいことを言うのかという意見もあるだろうが、ボランティアはメディアで伝えられるイメージのように美しいものではない。端的に言えばただ働きだ。地道な作業もあり、やりたいことばかりができるわけでもない。説明会を聞いて合わないと感じたり、就職活動などで時間がとれなくなったりした場合は気にせず静かに抜けてもいいことも話しておく必要があった。ボランティアはどれが正しく、どれが悪いというのではないが、善意であり、美しい言葉のイメージがあるだけに、条件を示さないと「こんなはずではなかった」という不満や不信も生まれやすくなる。

 重苦しいムードのまま休憩に入り、約20人いた参加者は6〜7割に減った。それでも参加を希望するという人にまとめサイトの作業について日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の学生運営委員から説明を行った。ひとまずの終了目処を3月末と設定したものの、現地の状況が予想以上に厳しいこと、助けあいジャパンとの関係もあり先の状況は分からないという不安の中で学生たちは作業に入っていった。

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